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大会自体は、一試合目の熱を残したまま、淡々と進み続けた。
ヴィル君は2年生の女子と当たったが、なんなく撃破、その後仲良く話していたのを目撃したので、話しかけずにその場を去った。
また、Aブロックが終わり、Bブロックに移って、数試合した後に、俺の試合が始まることになった。
相手は、アレクサンダー君の時と同じ、3年の男子で、ロドリゲス先輩と違ってそこまで大きくは無いものの
、どこか余裕そうなニヤニヤ顔をした軽装の少年だった。
『おっとォ!本日2回目ッ!1年対3年の戦いィ!!まさかまさかッ!この戦いも魅せてくれるのかァ!!』
『プロフィールによりますと、1年、ノア君は非常に謎の多い人物と言えます。属性を持たない【無】属性でありながら、受験時の魔力量測定の際には1000を越える魔力を持っていたということで、不正を疑われていたそうです。もしも彼がここで勝たなければ、あるいは不正を露呈させたということになるかもしれませんね。』
『本人曰く、【無】属性魔法を使えるとのことですが、どうなんでしょう。それ以上に剣を使って戦った方がまだ勝率はありそうです。アレクサンダー様の様な快勝は無いと思いますね。』
前評判から、明らかに不評だった。
それもその筈、この一カ月と少しの間、ずっと一緒に訓練して【無】属性魔法の有用さを知っているのは、俺達Sクラスの面々だけだ。
【無】属性なんて実在しない。使い道が無い。使えない。役立たず。【無能】
そんな常識を打ち破る為に俺はここに立っている。
マリナ教師に対しての怒りを抱いて、少しばかり効率を捨てた行動。
しかし、俺が俺として勝つために、
だからこそ、最善手の効率的な方法を用いる必要がある。
「【無能】が過ぎたイカサマをしてSクラスに入ったって聞いたがよ~。まさか闘技大会に出るほど面の皮が厚いらしいな~。まさか、上級生にまでイカサマが通じるとでも思ってるのか~?」
間延びした、聞くに堪えない煩わしい声に、記憶の反芻が起きる。
軽い頭痛は無視して、緊張感なんて端から持っていない。
俺は、持っていた剣をその場に刺し、相手の選手を見た。
『おっとォ!ノア選手、まさかの挑発ッ!魔法無しッ!武器無しッ!分かっているのかァ!?相手はあの3年Sクラスの問題児、ハイドル・ローレンスだぞッ!』
『意図が伝わりませんね、相手が手加減をしてくれるように見えているのなら、三流どころじゃないでしょう。それとも彼には、強い自分と弱いハイドル君の様な、“ありえない光景”が見えているのかもしれません。』
聞こえるブーイングの嵐。
罵詈雑言や誹謗中傷。実況と解説は半笑いで話し始め、ニヤニヤしていたハイドルの表情は冷めきっていた。
審判がしきりに「剣を持ちなさい」と忠告してくるが、それを無視する。
「ぶっ殺してやるぁああああ!!」
剣を大きく振り上げ、なんとも大雑把な型を見せびらかすように動くハイドル。
すまないが、お前には俺の、俺達の為の布石になってもらう。
「『サイコキネシス』」
剣を振る。一挙一動が雑で仕方ない。
重心はバラバラで、力は半端に入って、握りも甘く、視線も定まっておらず。
そんな相手を、全身から動けなくするくらいは余裕だった。
「......ッ!?」
「これじゃあ地味だし、ちょっと遊び相手になってもらう。良いだろ?センパイ」
端から見れば、圧倒的戦力差があるはずの二人が、止まっているように見える。
それは、ハイドルが俺に対して、ビビらせるために止まっていると思うような光景。
『おっとハイドル選手ッ!一年相手に余裕の構えッ!相手に先手を譲るのかッ!?それともただの悪ふざけかッ!?』
周囲からのブーイングが、少しだけハイドルに向く。
調子に乗って、【無能】を進出させるようなヘマをするなよと。
「センパイ、楽しみましょうや。」
「......ッ!!......ッ!!!!!」
何かを言おうとしても、声帯の動きを無理矢理止めているため言葉にならない。
そして、僅かに聞こえる荒い息も、観客の声にかき消される。
「『魔力拳』」
普段であれば、優れた目を持つ魔法使いや、直感の優れた者にしか見えない魔力の塊、【無】属性魔法は、その出力や濃度、煉り方で可視化する事が可能。
その目安は200%。およそ通常使用の二倍の濃度に煉って初めて少しだけ見える。
それは、遠めに見たガラス程度。当然、威力も耐久も二倍になる。
そして、『魔力拳』の基本消費魔力量は50程度。
ここで、1000の魔力を注いで、煉って、固めたら。
威力20倍『魔力拳』。
周囲の声が止む。
『魔力拳』は無色透明から明らかな実体を見せ始め、徐々に白か黒かも分からない混沌とした色を見せて来る。
そして、20倍の濃度になったときに見せたのは、禍々しい白黒の腕。
圧縮レベルは普段使いの籠手程度。つまりそこまで大きくは無い。
しかし、これを見ている観衆は見てしまった。
魔力の圧縮系。存在感のレベルの先。
「~~~ッ!!!!」
それを直前で見てしまったハイドルは、涙を流し、股間を小水で濡らし、全身の力が抜け、かなり老けこんだ様な顔になる。
『これは、まさか【禁術】ですか!?今すぐ中止を!......どういうことですか!!』
マイク越しに聞こえる動揺の声。
しかし、俺は止まらない。
「『魔力盾』、守ってやれ。」
ボソッと小さく詠唱し、ハイドルの腹部に通常サイズの『魔力盾』を展開する。
直撃を避け、少しだけ威力を抑えるためだ。
「【無】属性魔法ッ!『魔力拳』!」
大きく、周囲に聞こえる様に宣言する。
そして、俺は大きく振りかぶり、『魔力盾』を殴った。
「~~~ッ!!!!!!」
悲鳴にならない悲鳴を上げ、バコッなのかメコッなのかも分からない音を立て、爆発にも聞こえる轟音に包まれて、ハイドルは壁にめり込んで気絶した。




