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アレクサンダー君とロドリゲス先輩の試合は、意外な事に静かに始まった。
歓声も罵声もなく、ただ静かに、そこだけ時が止まったかのように。
「......」
「......」
『......ッ』
『......』
二人は睨み合い、最初の構えから一切動かない。
実況も解説も何も話さない。
「驚きました。どうやら魔力では俺の方が負けているようです。」
突然話し始めたロドリゲス先輩に、会場が息を飲む。
それは、10倍のステータス差をものともしない、アレクサンダー君魔力量を、悟ったが故だった。
そして、実際にアレクサンダー君は異常な才能の持ち主だった。
この闘技大会までの訓練の期間で、アレクサンダー君の魔力は、19から100、今では450と、俺の基礎魔力を悠々と越えて行き、【無】属性魔法も数種類を完璧に習得してみせた。
「殿下は今、【無】属性魔法に夢中だと聞きました。最初は鼻で笑ったのですが、今その認識を変えます。流石アナタは天才だ。その為、大人気なくも全力で当たらせていただきます。」
それは、通常であれば死刑宣告と同じレベルの告白であり、相手に魔力を悟られたという事実の露呈でもある。
しかし、それを聞いたアレクサンダー君の表情はどこまでも穏やかで、慈愛に満ちた像の様にも見えた。
「構わない。来い。」
「はい......ぉぉぉぉおおおおおおお!!」
大剣は大きく縦に振られ―――ると見せ掛けて横に大きく一閃。
初手からのフェイント、明らかに悪手だし、重い大剣を縦振りから横振りにしたことで、ラグや威力の低下が目に見える。
しかし、その威力自体が大き過ぎる為、誤差の範囲でしか無く、威圧的で圧倒的な暴力がアレクサンダー君を襲う。
「......手応え、無しか...」
「ああ、だが、騎士としては満点の剣だったぞ。」
アレクサンダー君を襲った剣はそのまま振り抜かれた。
が、斬られたその場にアレクサンダー君の姿は無く、観客達は自分の目を疑った。
無抵抗のまま大剣の餌食になったと思われた皇子が、振り抜かれた大剣の先に立っていたのだから。
「降参だ。」
『ィィィィィ!!?前代未聞!一つの傷も付かないまま決着ゥゥ!!まさに、覇王の如き終幕ッ!流石皇子、流石アレクサンダー様ッ!』
魔力の勝負はロドリゲスの負け、剣も簡単に避けられ、あまつさえ回避の瞬間も見えなかった。
ここで降参しなければ、みっともない姿をさらす事は一目瞭然。
そう思ったであろうロドリゲス先輩は、潔く負けを認めた。
「少なくない悔しさを抱いている筈なのに、全然そんな風には見えないな。」
「彼は11歳とは思えない程の人格者だからよ。彼自身の性格と、家の教え、その二つが良く合っていて、人を憎まず尊敬できる人間に成長しているわ。彼の家は貴族層にしては珍しい【無】属性擁護主義だそうよ。」
「......擁護、ね。」
なんとなく、ロドリゲス先輩に近寄り難くなった俺だった。




