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49 閑話 後編

 ライトと審査官の戦いは静かに始まった。

軽く構えを取る両者は、開始の合図も無く、互いの視線だけで理解しあい、徐々に間合いを詰め始める。


と、試合自体が始まる前に、一つのおさらいをする。


 『ホムンクルス』とは、基本的に魔力を注がれた魔物の素材の融合体である。

 その際、『ホムンクルス』の能力値は、基本的に製作者のステータスに近い物になり、かつ、その成長方向は素材に左右される。


 また、『ホムンクルス』には、【幼児】の称号が与えられない。

厳密に言えば生命体ではないのも理由の一つだが、もう一つは元となった魔物は基本的に十歳以上である場合が多く、小さな魔物は親の魔物の庇護下にいるため、ほぼ100%、ホムンクルスの材料にならないからだ。


 そのため、この十体の『ホムンクルス』は、【称号】の倍率を抜きにしたノアのステータス。その十倍のステータスを持っていることになる。

 つまり


 ◇ ◆ ◇


 ライト

HP:1520/1520

筋力:730

魔力:2730

敏捷:1020

忍耐:2880

知力:1730

幸運:1000


 ◇ ◆ ◇


と、この様になっている。


 また、ライトとレフト以外はそれに加えて各担当の【称号】を持っているため、該当ステータスに補正が掛かる。

 更には、『ホムンクルス』の特性として、性別問わず、製作者の記憶や気質を成功に模倣するというものもある。


 つまり、この10人の『ホムンクルス』達は、そのまま、【称号】を持たないノアの大人の姿といって差し支えないのだ。


「では、入ります。」

「うむ、来い。」


 一歩分だけ一気に近付き、右手で直突き(ジャブ)を放ったライトに対して、審査官はその腕に剣の腹を当てて軌道を逸らそうとする。

 しかし、剣が触れた時に右腕は既に引かれており、左腕による鉤打ち(フック)を決める。


 それらの拳速は想像以上に速く、審査官の目には止まらなかったものの、紙一重で直撃はせず、審査官がカウンターを入れようとしたとき。


 地面が傾いた。

立っていられない。

 審査官はまるで疲労困憊の時の様に、地面に滑らかに倒れてしまい、意識はあるものの体を自由に動かすことも、何かを考えることもできなかった。


「はい、お疲れ様。では、次の方を呼びます。」


◇◆◇


 ライトとの試合から十分ほどで、残り九人分の審査が終わった。

結果は全員が審査官に勝てたものの、ライトとレフト以外はそれなりにごり押しや、辛勝といったところで、結局、ライトとレフトがEスタート、他8人はFスタートとなった。


「す、すごい試合でしたね。これからのご活躍を期待しています。頑張ってくださいね!」

「はい、ありがとうございます。ところで、パーティの申請書を受け取りたいのですが。」

「あ、はい、少々お待ちを。」


 パーティとして正式に成立させるために、受付嬢に申請書を頼むレフトと、先程からうるさい少年ゼンキチを相手にしているライト。

 自然と注目は集まった。


「なあ頼むよー。俺も仲間にいれてくれってばよー!」

「断る。そもそも貴様はどの立ち位置かも話していない。我々と連携を取れるとは思わないし、そもそも岩盤小僧(ダイヤキッズ)なんかと行動を共にしたくはない!」

「俺の実力は見ただろ!なあお願いだからさー!」


 駄々を捏ねるガキ同然の態度に、嫌気がさしたライトは、少し考えた後に、ゼンキチの顔面にパンチを繰り出す事にした。


「っと!危ねえじゃねーか!!」

「やっぱりかわしたか。それで、俺のパンチはどうだった?痛かったろう?二日程は寝込んだんじゃないか?」

「んなわけねーだろ!気絶は一時間くらいで......へ?」

「やはりだな。貴様の自己紹介をちゃんと聞いていて良かったと思う。『セーブシステム』のゼンキチ。やはり我々はお前とは組まない。我らがマスターは貴様の様なチート野郎を嫌っているが故にな。」


 ライトが見出したゼンキチのチート能力。

それは、自分の好きな地点の時間に巻き戻してしまうという、ゲームの『セーブ』と『ロード』の様な物である。

 通りで、素人丸出しのゼンキチが達人の剣を見もせず避けられたわけだ。


 一見すればチート的で、仲間には魅力的だが、やはり気に食わない。


こいつは、ノアが大嫌いなリセマラ野郎だと分かった。

 ここは現実で、人は生きている。

ゲームの中じゃないのに、ゲーム的に生きようとしている。


 こいつは、きっと数回以上に及んでリセットを繰り返して、相手が一番望む発言をするような、中身の無いゴミ野郎なのだ。


「なんだよ、お前らのマスターだって俺と同じ転生者だろ?なのになんでそんな事を言うんだよ。」

「お前らの様に、人の心を捨てたわけではないからだ。我らがマスターはチート能力なんて持っていない。属性魔法すら使えない。ステータスも伸び率が悪く、周りは天才だらけで辟易している。だからこそ偉大なのだ。貴様らと同じにするな!!」


 怒りの頂点に達したライトは、周りの目も憚らずに叫んだ。

しかし、当のゼンキチは何故自分が怒鳴られているのかも理解していないようすで、淡々と呟いた。


「ただの雑魚じゃねーか。偉そうにしてんじゃねーよ。」

「もういい、目障りだ。」


 ライトは腰を落とし、身体の反動を利用した掌底をゼンキチの胸に叩き込み、吹っ飛ばした。

叩きつけられたギルドの壁からの衝撃と、掌底からの衝撃で一瞬にして意識を刈り取られたゼンキチは、そのまま数日間を寝込む事になった。


「今度は一時間と言わず、一週間でも寝ていろ。永遠でもいいぞ。」


こうして、パーティとして正式に申請されたFランクパーティ『サーヴァンツ』は、活動を始めた。

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