48 閑話 中編
ハンマーの取った席で、ソルドが頼んだ料理を食べながら、ウィプス達の話を聞く。
「基本的に加入審査で行われるのは、元冒険者のギルド職員による戦力分析だそうよ。」
「その戦力を見て、初期から決まるランクはG~Fというところらしいです。」
「こっちも大体同じだったな。」
「強いて言うなら、男女で少しだけ難易度が変わるらしい。女の方が少し厳しめに付けられるとか。」
「ランク関係無しに、男女の格差があるのでしょうか?」
「いや、女の冒険者が希少という考えの元、死亡率を下げるためだろう。女の人数が減れば、男の士気も僅かながら下がるだろうしな。」
「こっちは割とダンジョンに近い宿を取れた。以上。」
「おれも、良い依頼票は見た。とりあえず、魔物を狩るやつを中心に」
「オイラは特にねぇな、ソルドと同じで情報収集とかには関わってねぇ。」
「そうだなー。俺なんてパシりみたいだったぜ。ま、ハンマーもか。」
食事を楽しみつつ、互いに適切な声量で話す。
情報の共有はもちろんだが、周囲に会話に割り込ませないようにするためでもあった。
しかし、いつの世にも空気の読めないアホは存在する。
「なあ、俺もお前らのパーティに参加させてくれよっ!」
話し掛けてきたのは、一人の少年。
年の頃は13から15。どこか軽装の、明るい茶髪の少年だった。
「私達はまだ冒険者ではなく、ギルドに加入するために加入審査を受ける前の者だ。」
「それは話を聞いてたから知ってるぜ!俺もこれから加入審査を受けるんだ。よろしくなっ!」
「まだよろしくしたつもりは無いので、早急にお引き取りください。」
「あー、俺もあんまり言いたくなかったんだがなー。しょうがないなー。」
思わせぶり、というよりも少しウザッたい態度で、唸る少年に、目を逸らしながらも多少の警戒をする一同。
その反応が心地良かったのか、少し楽しげに、少年はこう言った。
「俺は魔王軍の幹部。『セーブシステム』のゼンキチだぜっ!」
「ああ、岩盤小僧の方でしたか。お引き取りを。」
そっけなく返され、数瞬ほどの間を唖然としてしまった少年ゼンキチ。
魔王軍といえば、『ホムンクルス』達の親であるノアに接触し、自軍への勧誘を一蹴されたアホ集団の総称だった。
「ちょっ!?え!?反応薄っ!?もしかして魔王軍知らない?え、君達のマスターにも会ってるはずなんだけど。」
「ええ、存じていますね。我らがマスターと相いれないアホ集団と。」
「アホっ!?なんて言い草だ!」
馬鹿にされているのに、ゼンキチは一切動じない。
ショックを受けているような言動も全て、実の無い演技の様な、それよりも酷い悪質なモノ。
「か~、これならカンゴも連れてくれば良かったな~。」
「どのような理由であれ、魔王軍の方であろうとパーティを組む気はございません。」
「早く失せな。マスターに不快な思いをさせるヤツは我々の敵。あまり長居すると」
「口をきけなくするってか?」
「口を......っ!」
台詞の先を取られ、少し驚くライト。
しかし、これくらいならそこまで大げさに驚く程ではない。
そう自分に言い聞かせ、ゼンキチを睨むだけに終わる。
「じゃ、加入審査の時に俺の実力を見て、それで評価してくれよっ!じゃなっ!」
そう言って、颯爽と去ってしまったゼンキチに、後味の悪くなる一同。
何故か、それから口に入れた料理は、薄味の様な気がした。
◇◆◇
「これより、加入審査を行う。まずは男諸君から、前へ出たまえ。」
審査官であろう男は、年齢分の経験をしっかりと積んでいる様な厳かな顔をしている中年だった。
鍛え上げられた身体は見た目年齢にそぐわず衰え知らずで、見るだけで実力者であることが分かる風貌だった。
その男の号令により、ライト、シルド、アクス、ハンマー、そして、ゼンキチが前に出る。
「君達は私と模擬戦を行って貰う。また、勝敗に問わず評価は下る。勝ったら良いとか、負けたら悪いとかではないので、じっくりと考えて戦闘するように。では、最初に挑む者は」
「はいはいはーい!俺、俺!」
「......ゼンキチだな。よし、他の者は少し離れて、ゼンキチよ、掛かって来なさい。」
「......はいっ」
返事をするゼンキチに、少しだけ違和感があった。
それは、ほんの小さな違和感だが、どこか一瞬、ゼンキチの姿が、コマ撮り映像の小物の様に動いた気がした。
「はぁっ!!」
「うむ、最初の一手としては良いだろう。」
ゼンキチは持っていた剣を大きく横に薙ぐ。
正確に首を捉えた一撃は、審査官の男の持つ剣により防がれたが、
「ていっはあっ、せりゃあ!!」
掛け声と共に、またしても小刻みにブレる姿に、レフトも気付いたのだろう。
ライトはレフトと顔を合わせると、共に思考に入った。
「ふむ、まだ威力や精度に関しては未熟だが、狙いは良いとしよう。ではこちらからも行くぞ!!」
「へっ」
笑った。
たしかに笑った。
ゼンキチは、明らかに不利な状況で笑った。
前のめりになった状態から、身体を捻って審査官の攻撃を避ける。
その際には、先程とは比にならない程のブレを感じ、更に避け方の異常にも目が付く。
ゼンキチは明らかに『見て』いない。
熟練の剣士なら、相手の剣筋が見ずともわかるというが、ゼンキチのそれは明らかに違う。
どこか、そう、『来るのを知っていた』かの様な避け方。
しかし、やはり原理は分からない。
それは審査官も同じだったのだろう。
うっすらと額に汗が滲んだ頃、一息をついて模擬戦を終えた。
「うむ、攻めはまずまずだが、回避は素晴らしい。これならEだろうな。」
「よっしゃ!」
喜ぶゼンキチとは対照的に、審査官は終始不服そうな顔をしていた。
おそらく、審査官も違和感の正体がわからず、やきもきしているのだろう。
「では、次の者。」
「じゃあ、って来る。」
ゼンキチの能力について、何かを得た訳ではないが、それでも試験は受けないといけないので、ライトは模擬戦の為に審査官と戦う準備をした。




