47 閑話 前編
ノア達が【無】属性の訓練をしているのと同時期、旅だった『ホムンクルス』たちはそれなりに遠くの町へと来ていた。
都市部を支点に、ノアとハクの実家がある村やその近くの町の反対側に位置する町へと来ていた。
名前は特に無い町だが、そこにあるダンジョンはかなり有名だった。
世界には数十か所程のダンジョンが存在している。
その多くは魔物を産出するのと同時に大きな収入源ともなっており、時折中から発見される宝や、魔物の素材などで生計が成り立っている。
踏破し尽くされたダンジョンには、基本的にダンジョンマスターという存在がおり、ダンジョンを運営しているとのことで、多くの踏破済みダンジョンは、そのダンジョンマスターとの協力関係を周辺地域の代表者が結んでいるため、基本的に中から魔物が溢れるという危険は無い。
しかし、未踏破ダンジョンは別である。
規模が大きい、魔物が強力、理由は様々だが、未踏破のダンジョンはそのダンジョンのマスターとの連携が取れていないことから、権力者はこぞって攻略を急く。
そして、そういった未踏破のダンジョンには、まだ見ぬお宝が山ほど眠っているというのが定石であり、それを求めて、地方に数百数千人といる冒険者達はその地へと集まり、その期を逃すまいと商人達が集まる。
そうして、経済を回し続けた結果、ダンジョンの周りには大きな町ができる。
ノアの『ホムンクルス』達は、そのダンジョンを攻略するために来ていた。
「ダンジョン内には数多くの魔物がいます。それらを捕まえ、マスターの実験材料兼下僕要員とします。」
「また、ダンジョンマスターとの接触が適えば、そのダンジョンに有用な魔物を排出させ、マスターの利益を増やす事にも繋がります。」
二人のリーダー格、レフトとライトは他8人にそう告げる。
人から聞かれれば、鼻で嗤われる様な目標だが、その目には真剣さしか無かった。
「その前に、ギルドに登録をする。」
「そのついでにパーティとしても登録をする。別れ方は後で話す。」
町があれば、ギルドもある。
ギルドがあれば魔物がいる。
そんなレベルで全世界に浸透している冒険者のためのギルドであるが、基本的にはどんな人種、年齢、性別であろうと加入することができる。
そのため、実力を測るための加入審査もあり、そこで初期のランクが決められる。
ABC基準であるランクは、最初の時点でGから始まる。
GFEDCBAと、7段階に分かれるのが基本ランクと言われる物で、G~Eは駆け出し、D~Bは中堅、Aでプロと判定され、才能が無くても堅実に生活し、成果を上げれば10年ほどでBにはなれる。
しかし、そんな程度では収まらないランクも存在する。
それが、Aの更に先、S、SS、SSS、X、EX、Zという特殊ランクである。
SやSS、SSSまでは、才能のある人間が、奇縁や悪運に恵まれ、かなりの修羅場を越えて得られる称号だが、その先はまさに化物の領域である。
X、EXは大陸に1桁、世界単位で3桁程度。Zは世界単位でも1桁と、かなりの希少性と異常性を見せる称号で、普通なら話題にも載らない程のランクである。
「我々が目指すのはAランク。目標は1年だが、早ければ更に速くする。」
「しかし、我々の最目標はあくまで称号の進化であり、それに伴うマスターの強化である。」
そう言った2人に頷く8人。
その集団に奇異な物を見る目を向ける者も多いが、それを気にせず、10人は冒険者ギルドへ入って行った。
その瞬間、ギルド内の視線が集中する。
10人という集団なのに、ギルドでは今まで見たことが無い。
まるでゴブリンの様な緑の肌なのに、知性を感じさせる顔をしている。
変な集団ではあるが、ガタイの良い大男や、キツイ顔の女がいる集団に突っかかるアホはいないわけで、そのまますんなりとカウンターまで通る事ができた。
「え、えっと、冒険者ギルドへようこそ、何か、ご用でしょうか......」
数という威圧感に、徐々に尻すぼみになる受付嬢。
これがニコニコとした、人間味溢れる集団ならまだここまで緊張もしなかっただろう。
しかし、10人が10人、全員仏頂面というので、恐ろしさはそれなりに大きくなった。
「すまない。10人分登録したい。申請用紙を貰えないだろうか。」
中肉中背のイケメン男子『ホムンクルス』、ライトが受付嬢に尋ねる。
それに、一拍ほど遅れて反応する受付嬢だが、10人分の紙を用意しても、ペンが無い。
「す、すみません、ペンが2本しか無くて。」
「大丈夫だ。私とそこのレフトが書く。」
「ソルド、人数分の料理を注文しておいて、アシン、宿の手配を、ハンマーは席を取って来て。」
剣を腰に差した少年『ホムンクルス』ソルドは、ギルドに付属してある料理亭に、人数分の食事を頼みに行く。
小柄で一見影の薄い少女『ホムンクルス』アシンは、街中にある宿に2部屋分を予約しに行き
大柄な大槌を背負った大男『ホムンクルス』ハンマーは、10人が座れそうな席を探してうろうろし始めた。
「ウィプスとスタッフは男性冒険者を中心に情報収集、シルドとジャバルは女性冒険者を中心に情報収集、アクスは依頼票を確認してきてくれ。」
腰に鞭を携えたお姉さん的美女『ホムンクルス』ウィプスと、杖を身体の前で掴んでいる図書委員長的少女『ホムンクルス』スタッフは、男達の輪に入り、情報収集を始める。
逆に、背に大盾、両腕にバックラー程度の小盾を装備した青年『ホムンクルス』シルドと、大きめの手槍を2本背に差している少年『ホムンクルス』ジャバルは、集団でいる女性冒険者に近付き、ナンパ的なノリで情報収集を図る。
その間、背中に両刃の大きな斧を背負った、先程の大男と大差無い大男『ホムンクルス』アクスは、習ったばかりの文字を必死に読みながら、どの依頼票が良いかを考える。
「ライト、そっちは男達の名前を書いて。」
「わかった、レフトは女達だな。」
マスターから賜った名前を呼ばない訳ではないが、『ホムンクルス』達は何故か集団を指す時には性別や特徴で指名する。
「受付嬢、ダンジョンへ入るとしたら、最低でどれほどのランクが必要になる?」
「えっと、入るだけなら入れます。ただ、例えばGランクがダンジョンに入っても、進めるのは三階までだったり、ランクによる区分があったりするんです。」
「それを無視しようとした場合は?」
「事故や罠などの場合を除き、原則禁止となっています。その場合は、相応の罰がありますので、お気をつけください。」
「了解した。」
「分かりました。」
そう言って用紙を全て書き終えた二人は、提出してハンマーを探す。
加入審査があるまでに、腹ごしらえをしておくためだ。




