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 結局、あれからティナが勝つことは無かった。

時には一方的に攻められ、不意打ちや搦め手、奇襲峡襲。


 最初は元気だったティナも見る見るうちに顔色が悪くなり、更には時折驚いて後ろを振り返るという奇行まで見られるようになった。


 ただ、これについては俺がいたずらをしているとだけである。

魔力を少しずつ体感しているティナに、魔力の塊を触れさせている。

 そうすると、触れたところに魔法が撃たれるような直感を感じるため、少しビビってしまうのだ。


「はい、ポーションですよ。」

「う、うむ、ありがとう。しかし、何故彼らはあそこまで強いのだ?あれが【無】属性魔法だとでも......?」


 ティナも割と早めに【無能】とは言わなくなっていた。

 しかし、イマイチ観察が足りていないのか、何を行っているのかまでは分からず、ただ凄い何かをやられているとまでしか思っていないらしい。


 クラスにいる【無能()】に説教をしに来ただけなのに、何故かボコられて【無能()】に介抱されているとは夢にも思うまい。


「では、大体皆と戦いましたね?」

「あ、ああ、後はこの少年くらいだが......」


 俺以外のメンバーに負けまくり、意気消沈のティナは、流石に俺まであんな化物的な強さを持っているとは思いたくないらしく、引け腰でそう言った。

 しかしながら、残念なことにその通り。


「次に戦うのは俺ですよ。」

「うっ、少年?今からでも辞退しないか?もう【無】属性魔法を貶めたりしないから。」


 もしかしたらという恐怖の反面、無力な少年なのではないかという疑心も持っていて、俺に辞退するように勧めてくるティナに、無邪気な子供らしい笑顔を向ける。


「大丈夫ですよ。俺はあそこまで規格外な事はしませんから。」

「う、うおお......そうか?」


 かくして俺とティナの戦いが始まった。


◇◆◇


「『火球』!」


 テニスボール大の火の玉を発射するティナ。

 遠慮どころか、手加減をしているらしい。

随分と余裕な対応だ。


 しかし、『火球』は俺の目の前まで迫ってから、消えた。


「え?何?どういう事だ?」


 ティナが日和って『火球』を消したとかではない。

そもそも放出系の魔法を消すのはほぼ不可能で、使った時に消費した魔力の倍以上を更に消費する必要があるからだ。


「ほら、大丈夫でしょう?」

「ま、まさか、いや、いやいやいやいや」


 現実逃避からか、首を横に振るティナに、俺は微笑みかける。


「魔法ならいくら撃っても構いません。剣もご自由にどうぞ。」

「う、うぅ......くそっ!!」


 『火球』をやめ、『火炎球』を撃ち始め、更には『落雷』や『閃光』なども使ってくる。


 炎の大玉や雷が消され、どこかへ行ったかの様に跡形も無く消滅した。

そんな状態を見たティナは、身体を震わせ、焦点は揺らぎ、歯をガチガチと鳴らした。


「うっ、あああああ!!!」

「魔力はまだ残ってますけど......良いんですね?」


 剣を振る。

長年愛用してきた剣による些かも衰える事は無く、本人の精神状態を置き去りにして俺に斬り迫る。

 しかし、やはりそれは不発に終わり、一振り二踏み、距離を縮めてもそれは変わらず。


 今やティナの眼には俺が、砂漠に浮かぶ蜃気楼のオアシスの様に、儚く揺らめいているだろう。


「なんで、なんで!?」

「こう、ティナさんの剣って愚直って言うか、素直過ぎるんですよね。模擬戦とか決闘とか、ルール上の相手との闘いなら問題無いんですけど、次の手が読みやすいんですよ。」


 ティナの欠点を指摘し続ける俺。

それを聞きながらもメンタルは修復できず、ずるずると泥沼に入るティナ。


 その攻撃は次第に精度を落とし、しかし手数は徐々に増えて行った。


「アナタは女性なので、あまり力強い剣は控えた方が良いでしょうね。 速さや手数で押し迫るのが有効でしょう。 それに、相手の後ろに回ったり、空いた手で小細工を仕掛けたりするのも良いでしょうね。 あと、剣の重さもあって無いんじゃないですか? 些か剣を振っているだけ、むしろ剣の重さに振り回されている様な印象も受けますよ。 もっと細身の、切れ味に特化した剣に入れ替えた方がいいかと思いますね。 大丈夫ですよ。 もっと続けましょう。」


 俺の言葉を聞く度に、次第に速くなる剣に感心しながらも、一度も剣が当たる事は無く。

徐々にティナの目には涙が溜まり、視界はさらに悪くなる。

 精神的な限界があるのだろう。

 そりゃそうだ。こんな子供達に喧嘩を売られ、ボコボコにされ、挙句は自分よりも弱いと思っていた少年に一本も当てられず指導を受ける。

 どんな屈辱だろう。


 憐れ過ぎて見ていられないかもしれない。


「そう言えば、実は俺ってアナタの言ってた【無能】なんですよ。知ってました?」

「っ、あ、ああ、あああああああ!!!!」

「ええ、そうですね。最後の一本くらいは受け止めて差し上げますよ。」


 そう言って俺は腰の剣を......抜かずに、手で剣を迎えた。

いくら模擬戦と言えども、怪我や恐怖を与え、精神的な成長を促す為に、基本的に刃を潰していない剣を訓練用に使う。

 つまり、マトモに剣を受け止めるなど、自殺行為なのだ。

しかし、


「真剣白刃取り。わかりますか?アナタの剣は遅いんですよ。こうやって指の間で止まる位には。」


 魔力を纏った指に阻まれ、何かを斬る事は出来ず、ティナはその場にへたり込んだ。


「ああああああああ!!」

「はいはい、大丈夫ですよ。たいへんよくできませんでしたけど、つぎがあるからがんばりましょう。」

「うっ、あぅ。ごえんあさい。ごめ、ぁさい!」


 蛇口を捻った様に溢れ出る涙。

泣きながら謝り続けるティナの頭を、俺は正座で受けとめた。


「あっ......!?」

「ハクちゃん、ちょっと落ち着いてね。」


 視界の端ではクラスメイトが一丸となってハクを止めているが、いったいいつまでもつだろうか。

膝が涙と他の液体でぐしゃぐしゃになる頃、ティナは疲労で眠ってしまった。



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