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「じゃあ、模擬戦でもしてみて実力を測ってみたらどうでしょうかー!」
手を挙げた一人のクラスメイトの女子に、賛同する様に他の皆も頷く。
それを聞いたティナは、あからさまに見下したような態度を取って、ニヤッと嗤った。
「ふっ、子供が大人に勝とうとは、考えの浅い事で結構!実力の差というのを見せてやろう。」
そのまま教室から出たティナから、視線はレオナに向き、レオナは顔を赤くして俯いた。
「うっ......わかってる。皆が言いたいことは分かってる。確かにあの人は私の親戚筋だ。認める。私の家系は【無】属性魔法に対する偏見が激しく、他の家よりも排他的だ。」
視線自体は責めるものではなく、生温かいものだったが、それがかえってダメージを与えたようで、レオナの顔色は元に戻らない。
「と、とりあえず、どうしようか。あの人も近衛騎士なんだから、結構強いと思う。対策が無いと負けると思うぞ。」
「ああ、レオナの言う通り、言葉に見合うだけの戦力は持っていた。ということでヴィル君が戦って貰う。」
「え!?オレッ!?なんで!?」
「【固有】属性組はまず除外する。複数人を順番に出して勝っても、消耗故と言われるかもしれない。あとアレクサンダー君は皇族だから遠慮されるだろう。俺はちょっと様子見の為に見学させてもらう。」
ヴィル君や一部の優秀層は、魔力量の時点で年の割には多かった。
しかし、それだけでは留まらず、ちゃんと訓練にも付き合ってくれたため、この半月の間に、アレクサンダー君と同じくらいには量を増やしていた。
また、今回は【無】属性魔法を相手に知らしめるためのイベントなので、【固有】組は除く。
そして、俺も少しだけ思う所があるから、見学させてもらう。
「オレもあの女にゃ腹が立ったけど、やっぱり確実に倒すならノアの方が良いだろ。」
「そうだが、あの女の性格上、少し問題がある事がある。そのため、俺は怪我人を回復する役に回る。いいか?」
「ノア君に何か考えがあるなら、私はそれでいいと思う。」
ということで、近衛騎士フルボッコ作戦が決定された。
◇◆◇
場所は代わり訓練場。
今回は特別仕様として、訓練場内には物が無く、俺達も観客席に座っている。
場内にいるのはヴィル君とティナ。見た目で言うなら子供と大人。どう見ても戦力差がありすぎて、勝負にもならないだろう。
「ヴィルと申します。得物は槍ッス。属性は【風】と【雷】ッスけど、今回は【無】属性しか使わないッス。」
「ふむ、【風】と【雷】ならもっと面白い戦いもできただろうに、残念だ。改めて、ティナだ。属性は【火】【雷】【土】【光】だ。得物は剣だが、仕方ない。徒手で相手をしてやろう。」
ニヤニヤとした嗤いも含めて、嫌な印象を受ける女だ。
ヴィル君の倍の属性を持っていて、大人だからと、剣を使わないというハンデを付けた。
「いいッスけど、後で『剣が無かったから今のはナシ』とか言わないでくださいね?」
「ふっ、口の達者なやつだ。」
ヴィル君もそれなりにハンデを作っている。
実を言うと、ヴィル君の得意な武器は、短剣やナイフ等の小回りの利くものだ。
それを巧みに扱い、フェイントや騙しなどを用いた戦法を得意としている。
なにより、ヴィル君は自分用の短剣を二本、常に持ち歩いているのだ。
それなのに、両手で使い、かつ使い勝手の悪い槍を使う。
ハンデとしては十分だろう。
「じゃあ、そっちから来てくださいよ。魔法でもなんでも良いッスよ。」
「普通は弱い者から仕掛けるものだぞ?」
「だからアンタが来いって言ってるんだよ。」
「ッ!!『火炎球』!!」
体育会系の敬語をやめたヴィル君に、カッとなったのか魔法を撃つティナ。
『火炎球』はアレクサンダー君が使った『火球』の一つ上の魔法で、『火球』がテニスボールくらいの大きさなら、『火炎球』はバスケットボール並みの大きさの火の玉だ。
「......チョロ。」
ヴィル君は小さく呟くと、持っていた槍を『火炎球』の向こうにいるティナに向かって大きく投げる。
訓練用とはいえ、金属製の槍は『火炎球』程度ではすり抜けるだけで、そのままティナの顔目がけて迫る。
「くっ!甘い!!」
「はっ、チョロッ!」
槍を避けたティナ。
しかし、その背後には既にヴィル君が立っており、避けた槍をそのまま掴み、背に宛がう。
魔力を全身に向けて巻き付けているため、ティナは簡単に身体を動かすことが出来ずに、冷や汗を垂らすしかできない。
解説をすると、ヴィル君は槍を投げた瞬間、『テレポート』でティナの背後に周り、槍を受け取った。
それだけである。
しかし、『火炎球』の大きさと、飛んで来る槍に注意を持って行かれ、ちゃんとヴィル君本体を見ていなかったティナの敗北といっても良いだろう。
「くっ、背後からとは卑怯だぞっ!」
「背後は取られる方が悪い。不意打ちは油断する方が悪い。戦場の常識ッスよ。」
これぞまさしくヴィル君の十八番。
流石、どんな手を使ってでも勝を掴むという、武官の家系出身の者である。




