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 腕斬り飛ばし事件から更に半月が経った。

あれからも変わりなく指導を続けたことによって、クラス内の平均魔力量は100を越えた。


 更に、皆が『サイコキネシス』くらいなら使えるようになったので、訓練にも幅ができた。

【固有】属性組は【無】属性をそこそこ、【固有】属性を伸ばす方向で進めたのだが、やはり天才的に呑み込みが早い。

 元々、【固有】属性はその人間の性質にあった属性であるという事から、慣れるのも早いのだろう。


「マリナ教師の魔力量も1000を越えた。」

「毎日あれだけ無理矢理魔力を消費して回復してを繰り返してたら、そりゃそれくらいなるわよ。」

「ですが、残念なことに伸び代という点で生徒達には負けるマリナ教師では、成長が遅く、軽く見積もって生徒達の二年後の魔力量にやっと追い付いたという所でしょう。」


 【幼児】の称号は誰しもが持っている物で、十歳を境に消え、全ステータスが10倍になる。

そうなると、今は100の生徒達の魔力も、マリナ教師の1000と大体同じになる。


「ここまできたら十分に自分での鍛錬ができるでしょう。簡単な方法としては、普段から常時物を浮かせていたり、魔力を垂れ流しにしたりなどですね。」

「そんな事したら集中力が酷いことになりそうだけど。」

「そこまで集中力を使うのは最初だけですよ。今だって、わりと簡単にできているじゃないですか。」


 マリナ教師は、流石に大人の魔法使いということもあって、呑み込みは早い。

ただ、それと同時に既存の固定観念に囚われているような事もあったので、常識は無理矢理破棄させた。


「それに、マリナ教師はちゃんと実を結びつつあると思いますよ。『サイコキネシス』も『魔力弾』も『倍加』も使えるようになったし、少量ながら『ボックス』も使えるようになったじゃないですか。」


 既に属性魔法が使えるという点も、習熟を早くする要因になったのだろう。

そもそも、魔力を扱えるという所は、他の生徒達とは違う有利な点だったから、そこも重要視して伸ばした。


「ハクちゃんはもっとすごいじゃない。あまり良い気にはなれないわ。」

「卑屈なのはよくありませんよ。もっと傲慢に、驕り昂ったような様の方がいいと思います。」

「それはそれで駄目だと思うのだけど、少しは褒めてほしいわ。師匠に。」


 マリナ教師は学校での授業以外で魔法を教わった事が無いらしく、それなりに使える属性魔法も、本で読んだか独学だそうだ。

 そのため、師というものに恵まれたことが無く、人から教わるのも、今回が初めてだそうだ。

ここ最近では、ハクやアレクサンダー君とも、わりとフレンドリーに接している様に思える。


「はい、マリナ生徒は十分に成果を上げて、実力を発揮できています。このまま行けば、十分に夢を叶えることができるでしょう。その時になれば、俺も協力しますよ。」

「ふふふ、ありがとう。ちっちゃい手なのに頼もしく感じるわ。」


 最初の方では弱音も多く、引け腰だったマリナ教師も、最近では心臓に毛が生えてきたのか、ちょっとやそっとじゃ弱みを見せなくなった。

 逞しくなってくれたのは純粋に嬉しいと思う。


「あっ!そうだ、今日は近衛騎士の人がお話に来てくれる日だった!!」

「前言撤回です。仕事の両立もしてください。でないと協力は打ち切りですよ。」


こういう少し抜けた所は何時まで経っても治らないのだろうか。


◇◆◇


「という事で、今日は第八近衛騎士団の団長さんに来てもらっています。」

「私はティナ・ヴィクトル。第八近衛騎士団の団長である。今日はSクラスの生徒達に特別指導を受けさせるためにきた。」

「Sクラスは近衛騎士団長、A~Eはその団員さん達が来ています。良い所をできるだけ吸収していきましょう。」

「我々は日々、国の為、民の為に戦っている。その為には並々ならぬ努力が必要だ。今日は我々の訓練の一部を皆に体験させたいと思っている。」


 第八近衛騎士団長ティナ。

女性で有りながら近衛騎士団長を任されるというのも珍しい、とまではいかないが、年は俺の姉、イキシアよりも少し上といったところ。

 金というよりも黄色に近い髪の色をしているキツ目の女性だ。

 特徴だけで言うなら、レオナを大人にした様な見た目をしている。


「しかしながら、聞けばこのクラスには【無能】がいるという。名乗り出よ。【無能】であろうと努力をすれば確かに強くはなれる。しかし、Sクラスは流石に無理だ。ということで、私が近くで鍛えてやろう。」


 なかなかにレオナとの共通点を感じさせる人だ。

しかし、【無能】というのも久しぶりに聞いた。以前はレオナがそれでイジメにあったのだが、耳には入っていない?......いや、入っていないだろうな。

 そして、【無能】という言葉を聞いた瞬間、クラス全体が重々しい空気に包まれた。


「ティナさん。その【無能】というのが【無】属性に対しての言葉なら、今すぐ訂正をしてください。我々は【無】属性魔法を使うために日々訓練をしています。その事を馬鹿にするようなら、この子達もアナタの指導にはついて行かないかと。」


 見れば、マリナ教師が一番ピキッてた。

当然と言えば当然だろう。

 彼女は【無】属性への差別的な慣習を無くす為に教師になり、生徒に指導を乞うという普通ならあり得ないようなことすらやってのける人だ。

 そんな人に対してそんな差別用語なんてつかったら、怒り心頭は目に見えている。


「む?【無】属性魔法?そんな魔法が使えるわけ無いだろう。Sクラスというのだからもっと小マシな子供がいるかと思えば、教師までこの様な事を言うとは。もしもそのような事に時間を費やしたというのなら、無駄だったと言っておこう。」


 うわーすごい。

ここまで煽りスキルの高い人は久々に見た。

 しかし、煽り耐性について、このクラスの人間はそこまで高くない。

 特に、人気の高いマリナ教師を馬鹿にされた事もあいまって、敵愾心は明確な殺意に変換された。


 それにも気付かないこのティナとかいう女は、本当にイキシアと同じ近衛騎士団団長なのだろうか。

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