36
次の日。室内では静かにするように言いつけ、俺はハクと合流して教室へ向かった。
そこには、レオナを中心に女子達がきゃいきゃいと騒いでいる姿があった。
「......あ、ノアよ!」
「もう【無能】とは呼ばないのか?」
「ぁう、本当にすまないと思っている。自分が悪いのに、まさか私に嫌な思いをさせられたノアに助けられるとは。本当にありがとう。」
珍しい、という程に付き合いが長くないのだが、それでもこんな感じの返しをされるとは思っていなかったので、少し驚いた。
とはいえ、年頃の女子には確かに堪えたのだろう。
男子は遠巻きに俺達のやりとりを見るが、女子は対照的にキラキラした目を俺達に向ける。
イジメも早期に収束した状態である事に少し満足していると、後ろから声を掛けられた。
「少し良いか?」
「君は、アレクサンダー君だね。」
「そうだ。君はノア・オドトン。近衛騎士団長イキシア・オドトンの弟なのだろう?」
姉の名前を出され、少し戸惑う。
そう言えば、アレクサンダー君は皇帝の長男。
思えば姉の上司の息子、みたいな立ち位置なのか。
「そうだね。」
「うむ。俺が皇族と知っても態度を崩さない。まさしく似た者姉弟だ。気に入った、俺と模擬戦をしろ。」
ピクリとこめかみが揺れた。
受けてはいけない。皇族に怪我を負わせれば、イキシアの立場が危ういと思いながら、それでいてその挑戦を受けたくて仕方ない俺がいる。
「それは、その」
「大丈夫だ。この学園の中での事には平民貴族皇族全て関係無い。イキシアについても何かするつもりは無い。」
その言葉が真実だという確証はなく、危険だらけの提案なのだが、今は信じたくて仕方が無い。
まさか俺にここまで自制心が無いとは。
「分かった。受けるけど、俺は知っての通り【無】属性だ。ご期待する様な試合はできないと思う。」
「は?本気で言ってるのか?流石に魔法の実習でのアレを見てそう思う訳無いだろう。」
冗談や冷やかしの類なら断ろうと思っていたものの、それ以上に本気だったらしいアレクサンダー君によって否定された。
「しかし、今の君を見ていると、そちらの方が自然体に見える。愉しそうな顔だ。」
その一言に反射的に顔を触れたのは俺のせいじゃないと思いたい。
◇◆◇
昼休みを利用して、訓練場での模擬戦を行うことにした。
ルールは、『急所反則』『降参で終了』『それ以外はなんでもあり』
「ノァは【無】属性、アレクサンダーは【火】【光】属性。模擬戦開始。」
審判はハクが行う。
周りには昼食を持参しているクラスメイト達がいた。
女子達は真面目な表情で、男子は複雑そうな顔を浮かべている。
ここ最近男女でかなり表情の差が激しい気がする。
「先手はもらう!」
駆け出したアレクサンダー君は、明らかに子供とは思えない様なスピードで肉薄し、その手頃な剣を薙ぎ払った。
しかし、これでもハクとの訓練の積み重ねで、受身や受け流しは上達し続けている。
8歳児との打ち合いで負けるわけにはいかないのだよ。
「せぃいい!!」
「がっ!『ライト』!」
打ち払った体勢のまま、強い光で目潰しを喰らう。
視界を失ったのは痛いが、身体から魔力を放出して、その感覚で相手の位置を掴もうとするものの、『ライト』の残滓から、上手く判断が出来ない。
「『魔力鎧』」
全方位に対応した魔力の盾を展開する。
地面を擦る音から、こちらに出て良いのかを窺っている様子が見える。
「『火球』!」
魔力の塊が『魔力鎧』に当たり霧散する。
発射場所から、概ねの位置を把握、ぼやけた視界を無視して攻める。
「『魔力弾』」
普段使う量を重視した『魔力弾』ではなく、質を重視した高密度の『魔力弾』を前方へ一発。
形もビー玉の様な形状を弾丸状にして、先端に密集度を集めている。
その弾丸は『魔力鎧』を突き破り、推定アレクサンダー君に当たる。
「やったか?」
いや、この台詞は明らかに失敗フラグ。
自然とこんな台詞が出た以上、絶対にアレはアレクサンダー君じゃない。
ハッキリと見えてきた視界で、アレクサンダー君を見つけようと上下左右を見る。
「せぃやあああ!!」
(後ッ!?)
振り返り様に裏拳で攻撃をしていまう。
それは偶然か、はたまた勝機に油断したアレクサンダー君の失敗か、綺麗に顎に入ってしまう。
「え......?」
「なん、だと......!」
意外な結末に、二人とも驚いた。
それだけではなく、周りも驚いていた。
初めての魔法との闘いは、苦しい勝利で幕を閉じた。




