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城があった。
禍々しい黒い雲を纏い、天を貫くような魔城。
悪魔の棲む異界の城。
高さにして1000メートルもあろうかというその城は、大陸の中央にある砂漠のど真ん中に現れていた。
「で、ワンダーボーイは死亡。ほかの奴らは拘束されていると。」
その最上階にある空間。
外観からは考えられない東京ドームほどもある空間で、その男は部下から報告を聞いていた。
「マックスリード、マトー、レィディラ、ヲーマン、リ・リィ死亡。全滅か。」
「サンダ、フレ、クアク、フロ、全員拘束。甘いな。」
「イガ、アシカガは拘束。ケントロ、ラーケイは死亡。へぇ。」
「サイモン、ド・オル、ボンバ、ギャンルルグ、死亡……」
男は、各地に送った者たちがどうなったのかを、全て把握していた。
そういう『眼』を持っていたというのもあるが、何よりも大切な部下の気配ならどんなに遠くても分かる。
しかし、それを確かに聞いてしまえば、落ち着いてはいられない。
「そうか、そうか。ふっ」
「クソがぁああああああ!!!!!」
男の怒声で城が揺れ、城内は軽くパニックを起こす。
しかし、それもすぐに収まり、余震も徐々に消えていく。
男は確信していた。送り込んだ者たちなら、きっと目的を果たしてくれると。
しかし、それを誰も成せなかった。それを咎めるつもりも、失望するつもりもない。
あるのは、自分に対する怒りだけ。
「ふぅ……ふぅ……ふぅうううううう」
長い深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻す。
「大きな声を出してすまない。」
「……」
「ああ、耳が聞こえないのか。すまんな。」
至近距離であまりにも大きな声を浴びせられた部下は、跪いた体勢のまま動かず、鼓膜が麻痺して反応すらできなかった。
「クリムのとこは生半可な戦力じゃ落とせねぇか。公国の方は最大点だな。あれは時間でつぶれる。北の方は、なんだかわからんが持ちそうだ。帝国も悪くない、この混乱の中でも統率を失わず、被害も少ない。」
男は、手元に一枚の紙を出し、白目まで黒い目で何も書かれていないその紙を見る。
「次だ。今度は殺す気でやれよ。」
なにも書かれていないはずのその紙に、たった一文が書き出された。
◇◆◇
ノア達帝国が世界融合による反動で発生した災害に東奔西走、飛び回っていたころ。北の王国、南の王国、公国でも同様の災害が起こっていた。
特に被害が顕著だったのは、準都市のような中規模の街が各地に点在する公国で、領地ごとに動くため混乱は必至だった。
そのうえ、謎の襲撃を受け各領地の主戦力はほぼ全滅。偶然近くにいた他国の戦力が加勢してくれたためどうにか食い止められたものの、再起不能なほどに壊滅してしまい。このままいけば異世界の者に食われてしまうだろう。
次に被害の大きかったのは北の王国で、出現した異世界人が獣人というのも問題だった。
未だ義神教の影響が強く残る北の地では、人間と非人間で大きな差がある。
生まれたときからある嫌悪は中々理性で隠せないもので、異世界人との協力を拒否。
それどころか、点在する異世界人の集落といざこざが絶えないらしい。
そして、帝国を飛ばして最も無事に済んだのは南の王国。
最強エルフの収める地であり、盤石の土台と数百年の積み重ねがものを言う永世国。
出現した異世界人を全て受け入れつつ、更なる国力の増強に成功。
何より堅牢な都市は災害による被害がほぼゼロであり、後の強襲にも万全で対応。
全員拘束という圧倒的な実力差を見せ終結した。
とはいえ、それは各地で各地の人間だけが知る情報であり、未だ各国が自国の状況にのみ注視し、外に目を向けられないのも事実。
他国の状況に思考を及ばせ、これから先についてよく考えている者が大陸の中にどれだけいるか。
そして、少なくとも大陸中央に現れた異世界の者は
大陸全部の戦力が集結しないと太刀打ちできないほどの強大さを誇っているということを、世界はまだ知らない。