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ピークの治療は完了した。
最終確認に意識のチェックと記憶の確認。
「りぴーとあふたーみー、あめんぼあかいなあいうえお。」
「あめんぼあかいなあいうえお」
「となりの客はよく柿食う客だ。」
「となりの客はよく柿食う客だ。」
よし、オールグリーン。
「乙女の......柔肌を、傷付ける......なんて。」
「痕は残って無い。不調があれば言え。」
それだけを言うと、【治癒】を全身に受けて闘技場に入る。
「ノア・オドトン。よろしく。」
「ルロィ・ヒペリ『忍耐』将軍よ。よ・ろ・し・く♡」
「マトル・ティンガロン『知力』将軍。よろしくお願いします。」
「クララ『幸運』将軍.......」
大柄で肉厚な男?んん、今明らかにハートを飛ばされたよな?
まあ、そいつがルロィ。
マトルと言った奴は、長髪で整った顔立ちだが、声が太いイケボだから多分男だ。
クララが一番意味分からん。
小柄で気弱そうな一般少女みたいな見た目なのに、将軍なのか?
どういう事だ?
「先に言っておくが、クララは戦闘に参加しない。私とルロィが、厳密に言えば君と拳を交えるのはルロィだけだ。クララも私もバフをルロィに集める。それだけだ。」
マトルはそう言い、魔力を煉る。
「私は魔法での援護もしない。本当に君はルロィと戦うだけで良い。だが、君は必ずルロィを倒せ、そうしないと我々は君の相手もしない。」
それぞれ、クララとマトルには多角立体形のバリアが張られる。
「そう、アタシと戦ってるトキは、ヨソ見しちゃダメよ?」
「おう、てめェだけを見てやるぜ。『混沌螺旋砲』」
最大出力の一撃だが、殺傷力はそこまで高くない。
ジャブ程度の一撃で様子を見る。
「アラ嬉しい♪じゃあ受け止めちゃう!」
ルロィはその太い腕を大きく広げ、地面を抉りながら来る魔力の奔流を、体で受けとめた。
『忍耐』というだけあって、そういう【属性】魔法だと思っていたのに、今の受け、一切の魔力を感じなかった。
「アタシ、強い男の子ってタイプなの。アナタ、イイわ!」
「そうかい。『螺旋魔力砲・改』!」
エヴァとの戦いで、少しだけ先の段階へ到達した俺の魔法は、『土台』を獲得した。
今までは、手からそのまま魔力を出す事で『魔力砲』や『魔力弾』を撃っていたが、これを使う事で、一定の幅でブレる事の無い魔力消費のまま、複数の砲撃を行う事ができる。
それだけがメリットじゃないんだけどね。
「アラ?たった一本の細い攻撃ね。足りないわ!」
「ナメんな。舞い踊れ『流星砲』」
『螺旋魔力砲・改』は七つの線に分かれ、不規則にクルクルと飛びまわる。
俺の意思ではない。自動操縦ではあるが、コイツも考えている。
そして、持続力で敵への撹乱と奇襲を7フェーズ。
全員がランダムで囮多数と奇襲役一に分かれる。
俺もどうかわからない。
だから、今は準備期間。
「囮にしてはオソマツよ?なんせ、中途半端な攻撃はアタシ、跳ね除けちゃうわよ!」
「なら群がるか、『魔力動物』」
コウモリ、鳥、魚なんかの小さく群れを成す系の動物を模した魔力塊を多数出す。
んんん、『螺旋魔力砲・改』みたいに『土台』を作れればいいが、疑似魂を突っ込む必要がある以上、そういうプロセスは自力で行わないと。
ん、いや、そこらも全てやってくれる疑似魂なら、そういうことも可能性が。
「こんなのじゃ足りないわよ!」
「んんん、ありがとう、一つ、俺は進めたよ。『魔法陣』」
細長く伸ばした魔力で円を書く。
魔力を込めれば自動で魔法を使ってくれる便利な魔法。
それをイメージして。
その工程を書きこんで。
実行させる。
「なっ!?何これ!うっ、うおおおお!?」
15個の『魔法陣』から『螺旋魔力砲』が射出される。
1個目を作る時は10秒、1個作る毎に0.5秒ほど生成が早まって来ている。
多分、1個/2秒位に収まるだろう。
「まだまだぁあ!!!」
「そう、まだまだ増えるぞ。」
16、17、18、19、徐々に『魔法陣』は増えて行く。
思考錯誤を繰り返して、『魔力弾』や『魔力拳』を射出する様に設定する。
んん、射出できる物の種類がそもそも少ないのと、消費魔力がやたら多い上、方向が固定だから相手が動いたら意味が無い。
「ぐっ!?おおおお!!【金剛】【吸収】!」
ルロィの全身を半透明の物体が覆い、それに触れた『魔力砲』なんかが消える。
あー、【吸収】か、これは、あとで倍返しされる奴だな。
少年漫画とかでよく出るヤツだけど、ああいうのって力でゴリ押し系の倒し方しか無いよな。
んんんんん。
「お返しするわ!【放出】!」
「それをお返しする。闘技『烏鷺天秤』」
これは『気』を用いない珍しい闘技。
今までの様に体の崩壊で死ぬのは変わりないが、これは受け流しの技だから相手の力を流し損ねて死ぬ。
そして何より、殆どの場合は関節可動域の問題と、関節部の耐久性によって、死ぬか一生寝たきりの選択を迫られる。
そんな技だ。
まあ、重要なのは耐久力だろ。
「なっんだと!?」
「自分より力が強いヤツをぶっ殺す為の技が武術だ。だから、お前に負ける訳にはいかない。」
「ぬううう!!ナメ、るなァ!!」
「ナメてない。破技『鬼殺し』」
ルロィの拳を受け止めた左手で正拳突きを繰り出す。
バキッという骨の折れる音が俺の拳、腕、足から聞こえる。
ヤバいな。これを耐えられたら負けるぞ。
「ぅ、ぅおおおおお!!!」