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以前ミスして投稿してしまった部分です。
予約投稿を数ヶ月単位で行なっている為、埋め合わせはまだ少し先になると思います。
何か別の閑話を書けたらと思いますが、何かアイデアなどありましたら、気軽に声をかけてください。
サンドバッグというよりは、なんだったか、昔海外アニメで見た、卓球のラケットにゴムで玉がひっついているオモチャ。アレみたいな感じだ。
しかし、硬い。
人間の硬さじゃない。
明らかにステータスの数値が現実に異常な形で反映した結果だろう。
局所的なステータスなら、女王以上なのかもしれない。
だが
「邪技『逆折りさかおり』」
関節部まで固められるかな?
「ぐっ!?」
左腕の肘を逆向きにへし折られたピークは苦しそうに顔を顰めるものの、その硬さは未だ健在。
つまり、HPを伸ばす事による自己再生なんかは不可能という事だ。
それに加え、【加速】【倍速】以外の属性も持っていないものと考える。
「なあ、アンタは『魔王軍』と何か関係があるか?」
「『魔王軍』......?ああ、アッチね。あの子供達とは関係無い。」
「アッチ......?まあ良い。だが、知っているって事は、勧誘が来たのか?」
「来た、けど、帰した。興味が無い。私は、世界征服を望む程若くない。」
「こっちに来る前の年齢ってどれくらいだ?俺は19歳だった。」
「デリカシーの無いことね。私は26歳。だったかな。」
十分な大人だったと。
それなら納得できる事だ。
「よし、ちょっと痛むが我慢しろ。邪技『逆折り』」
両脚を逆向きにへし折ってやり、自立が不可能になったピークはその場に座り込む。
客観的に見て、俺の勝ちはほぼ決まったというところだろう。
「しょ、勝者ノ――」
「棄権する!体調不良だ!」
ピークの戦闘不能を確認しようとした審判の声を静止して、俺は棄権を申告する。
突然のことで、十数秒程、闘技場内の時間が止まった様になった。
最初に動き始めたのはバタンと倒れたピークだった。
「馬鹿に......しているの?」
「ちげぇよ。お前との戦いは楽しめた。だが、俺は今お前に勝てない。お前のスピードにもガードにも俺は勝てない。邪技卑怯な技まで使わないと勝てない。いや、殺す事が出来ない時点で俺は負けてる。だから棄権した。」
「意味が......わからない。」
「次はちゃんと倒すって意味だよ。エヴァよりも優先順位が高くなったがな。」
「......」
納得がいかないという顔だったが、それでも俺は闘技場を後にした。
ピークに駆け寄る【治癒】属性使いを見て、焦った。
「『螺旋魔力拳』」
ナイフを持った男がいた。
ぬらりと光る液体は毒物か?
七将軍の一人であるピークを暗殺するために?
順当な理由としては他国からの差し金。
だが、俺との決闘があるなんて思うのか?
既に予定されていた暗殺をこの機にと決行した?
それとも、決闘に乗じて暗殺を計画した?
どれも有り得る事だ。
「ぐうううああああ!!?」
ロケットパンチの様に射出された『螺旋魔力拳』は男の首を掴み宙に浮かせる。
ん?ナイフが無い?
ナイフはどうした。
「きゃあああ!!!」
【治癒】属性使いの一人、女性の悲鳴が響く。
どうやら、俺の『螺旋魔力拳』は遅かったらしい。
ピークの太ももに、ナイフが深く突き刺さっている。
「あああ!!」
慌てて【治癒】魔法をかけようとする女性を押しのけて、俺は傷口からナイフを抜き、口を当て毒を吸い出す。
恐らくは毒の効果と、ナイフが刺さったショックで、ピークの顔は見る見るうちに青白くなる。
しかし、そうはさせない。
大方の毒は吸い出した、後はナイフが触れた部分の肉を削ぐ。
『魔力糸』によって削いだ部分がくっついて再生しないように注意しながら、【治癒】をかけさせる。
そして、ピークの口にも俺の作ったポーションを流し込む。
毒、暗殺するなら死に至る猛毒だろう。
俺の口もそれなりに毒が残っているだろうから、少しだけ水を作りだして口を漱ぐ。
それがどんなものかは知らないが、ナイフが刺さったのは膝に近い内腿。
動脈側なら、まだなんとかなるかもしれないと、脹脛や足先、胴や腹に斬り込みを入れ、血を出させる。
傷は治さず、血だけを流して血を作るという、エグいサイクルを作ったわけだが、まだ安心できない。
俺に医学薬学の知識は無い。
傷なんかならある程度は分かることもあるだろうが、薬や毒なんかはマジで分からない。
だから、できるだけ可能性のある範囲で、助ける努力をしようと思ってはいるんだが、これが最善か分からない。
ある程度血を流させたら、傷口にポーションを流して―――。
いや、もしも、毒物が生物みたいに、魔力の入ったポーションで活性化したらいけない。傷口に直接流すのは止めて、水で流してから『魔力糸』で縫合しよう。
「は、離せ!悪魔!異教徒!下等な獣共を優遇するクズ共め!」
捕まえた男はそう喚く。
その言葉に、この会場内の全員が反応する。
「北の王国の間者だな。ノア、拳を借りるぞ。」
『螺旋魔力拳』の操作を乗っ取られたかと思うと、男を掴んだままの拳は闘技場に降りて来た女王の元に近付く。
「エルフ!家畜風情の種族が偉そうに!今に、今に我が国が貴様ら獣共を皆殺しにしてやる!」
「黙れ。」
「ッ!?」
男から口が消失する。
いや、高速の【火】属性系統の魔法で口を焼き、そのくっついた部分をそのまま【治癒】で治した。
ギリギリだが見えたぞ。
「貴様に用は無い。貴様の記憶を見させてもらう。」
女王は男の頭部に指を突き立て、魔力を流し込む。
数秒の沈黙。
「ほう、お前・・もそのつもりか、ならば良い。」
「―――ッ!?」
「ルロィ、マトル、クララ、来い!」
「「「はい」」」
女王は俺が戦う予定の残りの将軍達を呼びだすと、こんなことを言い始めた。
「残りの3試合は今日一日で消化する。そしてノア、この者達に敗れた回数×国の数で侵攻する国を増やす方式にする。現状は2対2だから良いだろう?優先順位を言うのなら、一人に負ければ北の王国、二人に負ければ北の王国と公国、三人に負ければ全面戦争とさせて貰う。」
「そうする理由ができたみたいだな。」
「北の王国は全力で我が国を叩くつもりらしい。ここと北の王国はバンディッド大砂海を経由して4カ月、迂回するなら半年以上かかる。貴様はこのままでは全勝する可能性がある。それでは困る事になったから、条件変更はのんでもらう。良いな?」
「良いよ。」
二つ返事どころの速さではない。
即答だった。
なんとなく、勘だ。
俺の勘は外れる。
つまりここで『粘れ、乗るな、もっと楽しみたい』と考えている俺は間違いだ。
「じゃあ、今から三人と戦う訳だが、ピークの治療に30分貸してくれ。」