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次の日、ついに半分、『敏捷』との対決。
目の前に立つのは長髪の女。
糸目というやつか?目を閉じている様に見えるくらい細いのに、こちらを見ているという意識がびんびん伝わる。
視線か。久々に意識したけど、コイツのはなんか、殺気や敵意なんかじゃない。
なんだ?なんの視線だ?
「私は......ピーク。」
「俺はノア。」
「『敏捷』の......将軍。」
「と言う割には、随分ノロい喋り方だな。」
「私は......転生者......『アナグラムシステム』。【固有】属性、【倍速】と【加速】。よろしく」
「ほー。そうかい。てことは、アンタも俺が転生者ってのに気付いてるってことでおk?」
「......!?」
「嘘やん。」
嘘やん。
えー、嘘やん。
「た、戦うか。」
「......うん。」
気まずい空気で動きがぎこちなくなったが、とりあえずは様子見に―――
「ぶべらっ!?」
「私は常に加速している。だから貴方には遅く喋っている様に感じるの。」
「へぇ、つまり、今普通に聞こえるって事はお前にだけ作用する魔法じゃないわけだな。」
「そこまで」
一字一句どんな能力なのかを正確に理解したわけじゃない。
けど、【固有】属性で言えば幾らか調べている以上、ある程度名前から推測できる。
それに、コイツの【倍速】と【加速】が別々の属性の時点で別々の魔法である可能性が高い。
「自分の加速と周囲の倍速。つまり、俺は相対的に減速しているわけだ。」
「そういうこと。まさか一発で分かるなんて、アナタ相当オタクだったのね。」
「否定はしない。」
純粋な攻防は速度差がこれだけある場合悪手。
つまり、カウンターを狙った方が得策なんだが、反応速度も期待できない。
俺が2分の1、相手が2倍だったとして、その差は4倍くらいあるということだ。
単純計算なんだが、最低でもそれだけあったら、ステータス差に加えて大きな差が生まれる。
「ぶっ」
「カウンター狙いは正しい。けど、私の速度を甘く見ない方が良い。速度に振ったから攻撃は低いけど。」
「ぐぁっ!?」
ブン殴られる拳自体は痛くない。
しかし、予想外の場所から攻撃されるというのは存外精神に来る。
「『結界』!!」
「無理だよ。速度は威力。筋力が無くても速度があればモノを壊すのには十分。」
「そう、壊してくれて良いんだよ。」
結界は球体形に俺の周囲を直径2メートルで形成される。
それに触れ、壊してくれれば、それだけで十分に探知できる。
ぶっ壊した手を掴んで、ブン投げる。
背負い投げの要領で地面に叩き付けるも、叩き付けた瞬間に避けられてしまう。
追撃は不可か。
だが、腕を掴んだ瞬間に『魔力糸』を繋げたお陰で、どうにか位置を確認できる―――!?
「そういうのは想定内です。お返ししますよ。」
「ちょっ!?」
ピークは俺の周りをグルグルと回って、『魔力糸』を俺に巻き付けようとしてくる。
回避不可、解除するしかないか。
んんんんんんんんんんんんんん
「『分身』」
もう一人の俺が現れる。
これは、究極に近い最高の『分身』
人格を確立し、身体能力からステータスに至るまで全てが完璧に模倣された一体。
これ一体を作るのに、大体1ヶ月掛かる。
さて、これで何をやりたいか。
分からないだろうな。
「盾にするんだよぉおお!!」
俺自身を盾に、俺をブン殴りたい欲を満たさせる。
見たいなギャグではない。
「『魔力脚』」
明らかに俺は背後に死角を作った。
つまり、後ろから突っ込まれる。
そこに、普段腕を覆う形で出現させる『魔力拳』系統の『魔力脚』を背中からぶっ放す。
車は急に止まれない。
加速も急に止まらない。
当然の様に背後にいたピークのどてっ腹に足がブッ刺さる。
「ぐっ、うううう!!」
「捕まえりゃただのサンドバッグだよ。」
『魔力脚』を魔力に分解。
それをピークに絡み付け、簀巻きにする。
「『螺旋魔力砲』!!」
動きが速いだけで動けなくすれば良い。
サンドバッグにしてやるぜぇぇえええ!!!
「残念だけど、私はただの紙装甲タンクタイプじゃない。」
「んん?」
「『アナグラムシステム』はあらゆる物を組み替える。忍耐を高める事も可能。」
......ずるくね。
HP100
筋力100
魔力100
敏捷100
忍耐100
知力100
幸運100
だとして、忍耐に全振りするだけで
HP1
筋力1
魔力1
敏捷1
忍耐100000000000000
知力1
幸運1
にできるってことか?
「え、怖。チートじゃん」
「チートだし。」
「まあ良いよ。多分極振りなんてアホみたいな事はしてないだろうが、今のお前は忍耐に振ってんだろ?それ相応の攻撃をすれば良い。」
攻撃さえ当てられたらそれで良い。
俺だって魔法だけとか技だけとかそういう縛りプレイをしているわけじゃないし、相手がチーターでもなんら問題無い。
「破技『髑髏蛇腹』」