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「俺は......ノア・オドトンだ。」
俺の中の『俺』と『ノア』は、大きくかけ離れた種類の人間だ。
根性が取り柄で、効率的なことが好きな俺
根性が無いし効率とか知らんし運も悪いし偏平足で未熟児で短足で喘息持ちでドライアイなノア。
優秀寄りの出来損ないと出来損ないのハイブリット。
それが今の俺、ノア・オドトン。
ダメなヤツ。
ダメなヤツ。
負け犬ムードを払拭するには。やっぱりこれが一番良いらしい。
効率的じゃないが、効率的だ。
迫りくるカリルドの拳。
それを横目で流して、俺は自分の拳を構える。
「ふんっ!!」
「なにっ!?」
自分の拳が自分の額を正確に撃ち抜き、その力で俺は地面に転がる。
「......錯乱したか?」
「錯乱じゃない。俺のルーティンだ。」
生ぬるい感覚が額を伝う。
鼻を抜けて唇も抜け、地面に垂れる。
痛みはあるが、世界が広がる。
世界が広がれば、勝機が見える。
「『魔獣鎧』『魔竜鎧』【竜化:プロミネンスドラゴン】」
変身技を導入しまくり、体全体を強化する。
しかし、それではまだ足りない。
「闘技『悪鬼羅刹』」
全身に血管が浮き出て、体が真っ赤に変色する。
どういう原理なのか、髪も逆立ち、全身が痒くなり、所々から血が吹き出る。
制限時間は10分。
「なんだその姿は。歪な獣に、角と翼が生えて、挙句に鬼の様な。お前、人間じゃないのか?」
「......GII」
発音が不自由になってきた。
口内の血管が膨らんでいるせいで、舌が動かしにくいのだ。
速く決着をと、地面を蹴る。
「なっ!?」
「HARRRR」
思った以上のスピードが出たが、俺の動体視力はそれに順応する。
ジャブを5発。心臓部の左胸下部に高速で叩きこむ。
次に左ストレートで鳩尾を、右フックで脇腹を、前蹴りで股間を。
一呼吸の間に10回は拳か脚を叩きこむ。
カリルドの赤い皮膚に、徐々に青い色が見えてくる。
反撃をしようとする初動を全力で潰す。
関節部を重点的に攻撃する。
殴る殴る殴る殴る。
蹴る蹴る蹴る蹴る。
殴る殴る殴る殴る。
蹴る蹴る蹴る蹴る。
「GIII、GYAAA!!」
『魔獣鎧』を外し、拳に集めて顔面に。
『魔竜鎧』を外し、足に込めて股間へ。
【竜化:プロミネンスドラゴン】の余力を込めて心臓部へ。
渾身の力を込めてぶち込む。
しかしあと一発。
決め手に欠ける。
頑丈なヤツだ。
「HAAA!!『ARRRR』!!!」
全力の『混沌螺旋砲』にて、カリルドを闘技場壁に叩き付け、カリルドの気絶を確認してから俺は片手を天に突き上げた。
◇ ◆ ◇
目が覚めると、少し視界がぼんやりしていた。
血を流し過ぎていたらしい。
ああ、ちょっとキツイな。
全身に包帯が巻かれているが、殆どは止血のためで、傷自体は軽く塞がっている。
といっても、滲んだ血がベッドのシーツに血だまりを作ってしまっている。
「お目覚めですね。女王陛下がお呼びです。一時間後に謁見の予定になります。」
「はや、もうちっとゆっくりさせてほしいぜ。」
「申し訳ありません。女王陛下曰く、緊急の用事だそうです。貴方の扱った『技』について、話を聞きたいと。」
「ああ、そう。」
悪鬼羅刹は身体強化技。
体を魔法で固めていても血が吹き出てしまう技は、『魔力糸』の縫合も受け付けない。
しかし、その技で女王が何を話すというのだろう。
何かの勘違いで誤解されるのは嫌だな。悪魔の技とか言われたりして。
この技の開発者はその異様さから、死んだあと天狗としてその顔を展示館に飾ることになってしまった。
俺はそうはなりたくない。
腕一本くらいなら義肢でなんとかなるが、首は流石に無理だ。
未だに偉業の偉の字も達成できていない時分、死んだらパルエラに顔合わせできねェ。
「女王の様子はどうだった?」
「悪い話ではないようです。寂しそうな顔をしていました。」
となると、もしかしたらカリルドをボコボコにした事を叱られるのかも。
いや、考えられる線なら、俺以外のヤツがこの世界に転生及び転移した可能性だ。
転生者ってことがバレるのはまだ良いが、魔王軍なんかと一緒にされるのは堪ったもんじゃない。
エンジョイ勢の民度が低いからって同じ様な扱いを受けるガチ勢の気分になる。
んー、女王に会いたくなくなってきた。
いや会うんだけど。




