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ギャリリと掘削音がする。
「『螺旋魔力拳』」
手首先が回転し、女王の放った魔力弾を全力で削るが、それは徐々に困難になってきた。
「密度が......!」
最初は岩の様な硬さだったのに、今ではダイヤモンドみたいに硬くなってしまった。
が、それなら回転率を上げれば良い。
問題がそれだけならなァ......!
「絡み付くゥ!!」
砕けた魔力の塊が、異様な粘度を持って腕に絡み付く。
それは関節部に巻き込まれ徐々に回転が鈍る。
「第二フェーズゥ。『魔獣鎧』」
ガチャンと顎がハマる。
両手先の爪の他、メリケンの様な棘が追加され、全身からハリネズミの様な棘も生える。
狼の様な体型から、ヒグマの様な大きな体型になった『魔獣鎧』で身を包む。
「喰らえ、『混沌螺旋砲』」
「そちらが強まるのなら、少しだけ、【基本】」
六つの魔力の塊が放出される。
それは各々の形を創り出し、それぞれが火、水、風、土、光、闇の形に成る。
「これに耐えられるか?」
それは俺の台詞じゃ?という俺の疑問は真っ向から掻き消された。
その六つの塊は一つに成り、まるで宇宙の様な黒い光の粒を塗した様な球体になって『混沌螺旋砲』にぶつかり掻き消してきたからだ。
「はっははははは!!!」
「これに笑うか。頭のネジが外れたか?」
「ちげえよ。闘技『真空無風』」
あり得ねェだろ。異常だよ。
何考えてたらこんな技が生まれるんだ?
普通にこんなのを何千年も前の人間が実現不可でも作ったとなったら、普通にヤベェって。
宇宙空間で最も強く拳を叩き付けられる体術だってよ。
意味わかんねェ。『気』はそう大きい力じゃない。
コップの表面張力よりも弱い。それをちょっと工夫して、反響を強くするだけで、自爆覚悟の攻撃が完成する。
それを宇宙空間とどう関係させるか。
ま、簡単に言えば脚を爆発させて回転を生んで手でブン殴る。
それのせいで本来なら右ストレートを撃つだけで右足が爆発、右ふくらはぎ、右太もも、右ケツ、右背筋、右広背筋、右肩、右二の腕、右前腕、右拳が破裂して死ぬ。
『気』とか血液の流れとか呼吸法とか、筋力鍛錬とか技術とか回転とか柔軟とか関節可動域とか体重運動とか、俺の使ってる技はそれらの集大成だ。
ただ、色んな世代のヤツが色んな技を作ってしまうから、地味に数が多くて地味に被りが多い。
だが、この技は唯一無二だ。
「何!?」
「セイヤァ!」
宇宙の塊を爆発させる。
そのまま一気にぶち抜いてェ!女王の顔面を
「ぶべらっ!?」
「すまぬ。余への危険はこやつらが黙らぬのだ。」
殴り抜かれた俺の頬は、その威力のまま謁見の間の壁面に突撃した。
◇◆◇
「すまねぇ!横槍を入れちまったな!」
「......大丈夫だ。」
歯と頬骨が折れたが、まあ問題無い。
「すげえ拳だぜ!勢いを逸らしただけで壁が半壊しやがった!」
「......嬉しくねェな。逸らすのにはそれと同じだけの力が必要になる。嫌味かお前。」
「なぁに、俺が最強なのは事実だからな、そこまで落ち込むな!」
クソめんどくせぇな。
視線を向けると、浅黒い肌に赤い服を纏った大男がこちらを見下ろしていた。
赤い服なら赤い髪かとも思うが、その男の髪は真っ白だ。
その姿に違和感を覚えるが、今は女王との話だ。
「負けは負けだ。煮るなり焼くなり好きにしろ。ただ飯食わせてもらったからな。」
「うむ。しかし如何せん、この者の乱入があった故に勝敗を決めるのは難しい。」
「第二ラウンドでも良いぜ。」
「おうおう!活きの良いガキだ!だが、俺達が集まっちまったら勝負になんてなりやしねえぜ!」
大男の指差した先には、六人の男女がいた。
それぞれの特徴はかなりかけ離れていて、一目で同じ長所を持っている奴がいない事が分かった。
七将軍ってヤツらが雁首そろえて出てきやがった。
「いや、お前ら全員で戦うとか無理だろ。特に知力と幸運の将軍とか、戦闘方法無くないか。」
「はっはっは、確かにコイツらはタイマン最弱だが、指揮や士気の面でめちゃくちゃに役立つ。」
ほーん、なら、一番最初に倒すべきは幸運将軍だな。
こいつら全員を一気に相手をするのは骨が折れるだろうが、一体一なら俺でも倒せるかもな。
「ふむ、横槍の不意打ちで勝って、偉そうに引き入れるのも筋が通らん。」
「となると?」
「お主を一週間軟禁させてもらう。その間、それぞれの将軍と戦って貰う。制限時間は1時間。一日一回の戦いと、この王城内最高峰の治癒使いを用意する。4回先に勝てばお主の勝ちだ。」
へぇ、安全に戦えるってことか。
そりゃ、勝機が大きそうだ。
「お主が勝てば同盟取り消しを取り下げる。勧誘もしない。どうだ?」
「受ける。それだけ言うという事は、アンタはその将軍たちに余程の自信があるんだろう?なら受ける。」
「報酬よりも戦いを求めたか。面白いぞ、小僧。」
「......第二皇女達には節度ある待遇を所望する。」
「捕虜の様な言い草だな。」
「捕虜でも構わねェ。とにかく、一切の危害を俺は許容しない。あとでイジメの一つでも露呈してみろ。お前から魔力を吸い取って、この街を巻き込んで爆発してやる。」
「......面白い」
二度目の「おもしろい」という台詞は、初めて見る女王の笑顔と共に聞く事ができた。