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「異論は認めぬが、言いたい事があれば言ってもよい。なんなら、実力行使に出ても構わんぞ。」
「そ、それは......!」
俺達は現在進行形でアド王国の女王によって引き抜きの勧誘をされている。
「そこな太い男と細い男、やかましい女、鏡の女、その四人は帰りたいなら引き止めん、実力からしてみて、二等級程度故な。」
この国の兵士のランクは下から兵士見習い、準兵、三級兵士、二級兵士、準一級兵士、一級兵士、特級兵士、騎士見習い、騎士、近衛騎士、将軍精鋭、七将軍。
クッソ長い序列の指標は様々。
だが、兵士の全てはステータスの平均値で決まるらしい。
曰く、特級兵士で10万前後だとか。
七将軍はそれぞれのステータスだけで見れば、最大値で10億に届く異常戦力だ。
「が、そこの剣の女、猫の女、武の男は認めん。敵に回れば厄介故な。」
「先輩とユーリは帰ってくれ。」
「なっ!?ノアさん、受ける気ですか!?」
「な訳ねェだろ。戦うんだよ。20兆もステータスがある女王様なんだろ?良いじゃねェか。」
二回の覚醒を経て、俺は一般人の100倍以上強くなった。
けど、そんな俺よりも1000倍以上も強い相手が目の前にいる。
僥倖。
「何やっても許してくれるってェ?相手してくれよ女王様ァ!」
「うむ、その意気やよし。だが、余と戦うのは無謀というもの、評価が下がるぞ。」
「他人の評価なんて知らねェ。なんなら、お前に負けたら下っ端でも奴隷でもなんにでもなってやるさ。」
「よし、掛かって来なさい。」
天幕が引く。
そこから現れたのは絶世の美女。
前も後ろも長く伸びきった白い髪は、ハクのモノとは違う印象を与える。
顔は若々しく、宝石の様な顔のパーツが整っているのに、その白髪は、老いを感じさせる。
不老長寿のエルフにも老いがあるということか。
「どうした?来ぬのか?」
天幕越しに聞いた時よりもよく通る声で、そう言ってくる。
が、今はまだ観察だ。
その瞳は両方真っ白。
肌も死人の様に青白く、体も細っているのに、どこからこんな圧力が。
「来ぬのか?では、『神葬魔力弾』」
腕一本分もありそうな大きさの、異様な圧力と死の連想を伴った弾頭が、実に1000発。
魔力が出ない、ストックも半分以上使っちまった。
この状態で勝てるかな?
「カム、ハク、逃げろ。」
「「分かった。これを置いて行く。」」
二人はハンドボール程度の大きさの魔力の塊を俺にぶつけ、神速で部屋を出て行った。
魔力の塊、つまり、俺の魔力が回復する。
その魔力量、10万という少量だが、それでも十分。
これからは本物の無能として生きる覚悟を決める。
「【竜化:プロミネンスドラゴン】×【精霊化:イム】×【精霊化:マキ】」
練習不足だが、10万だけで足りるはずだ。
「【神の叡智】」
あまりにも頭が痛くなるんで、切り離しておいた【全能神の知識】を使う。
魔力効率を上げる為に、一瞬だけだ。
「AAAAAA!!!!」
全身が半透明な鱗で覆われる。
頭から炎を纏った半透明な角を生やし、瞳が縦長に変化する。
犬歯が伸び、歯が全体的に厳つくなる。
「来いやァ!!」
「安心しろ、死ぬ前には止める。」
質量を伴い、風を掻き分けて射出された魔力の弾が、俺の体に当たる。
「HAAAA!!!」
「ほう......面白いな。」
両腕を覆っている鱗が飛び、縦横無尽に駆け回る。
それに当たった女王の魔力弾は、ペンのキャップで抉られた消しゴムの様に一部を削られる。
「ヤバい密度だな。だが、その分有り難く貰っていくぜェ!」
この形態、【精霊竜】モードで行われる一挙一動は、全て魔力を吸収することに特化している。
人を殴れば体内から、魔法を殴ればそれそのものを、吸収できる。
だが、燃費が異常に悪い。
ぶっちゃけ、ステータス平均値が500万以下を相手にした時、消費魔力の方が勝る。
だが、相手は平均値20兆とかいうヤバいヤツ。
なら、黒字経営待ったなしだ。
「1000本にどれだけの魔力を込めたか分からないが、腹いっぱい食わせてもらう。」
「良かろう、腹いっぱい食え。貴様の最大より余の一分が大きい、好きに喰らえ。」
「俺は牛よりもよく食うぜェ!!」
気を抜けば貫かれる魔力を殴り、俺は獰猛に笑って見せた。
「竜技『伽羅』」
全身の鱗、角が射出され、大きく弧を描き大量の魔力弾を穿つ。
吸収した端から、『螺旋魔力拳』にしてそれを飛ばす。
「力でゴリ押しが女王の戦法じゃねェよなァ!」
「当然だ。が、手加減してやる。存分に喰らえ。」
無限にも思える魔力の奔流を喰らい続ける。
悪くない。
俺個人が満タンになったら、ストックして持って帰るさ。
「OOOOOOOO!!!!」
【精霊竜】モードを解除する。
「完全復活!」