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奴隷ちゃんをぶっ倒すために、俺は温存していた魔力を使う。
「『螺旋魔力拳』」
二本の腕を取り出す。
奴隷ちゃんをぶっ倒して俺の物にする。
奴隷だから可哀想とかではない。そんな碌な倫理観があったら、ホムンクルスの時点で詰んでる。
美少女だからとかでもない。だから半分グロ画像だって言ってんだろ。
火傷痕の少女が良く見れば綺麗な顔をしていたなんていうのは、エロゲのしすぎだお前ら!
言っておくが、顔面グロ画像代表の商業ギルマスだって、初見ではちびりそうなくらいのグロさだったんだぞ!
「連技『髑髏蛇腹』」
「『ダウ』『エペ』」
地面から伸びた魔力が俺を中心に渦を巻く。
この質感とこの密度。どうやらコイツは俺を窒息させるつもりらしい。
良い判断をしやがるな。
「闘技『華乱枯乱』」
指を弾いて魔力を消し飛ばすが、その粘度から完全には分散できず、僅かに操作できそうな塊を散らしてしまった。
指の修復と奴隷ちゃん判断では、どちらの方が早いか。
正解は、俺の足。
「破技『甲』」
木を蹴り倒し、岩を砕くが如き烈火の一撃。
人類最強のヤクザキック。
「かはっ」
「当て身を反対側から受ける様な物だ。少しの間寝ていな。」
前のめりに倒れ込んだ奴隷ちゃんを見降ろし、俺は最後の一人に視線を向ける。
「ふっ、今までのヤツらを倒しても、このオレには勝てない。所詮は脇役。このオレの引き立て役にすぎない!」
痛いのが入っちゃってるなコイツ。なんとなく察した。
というか、最近怪しいヤツは全部ソレだと思ってしまっている気がするな。
『転生者』及び『転移者』。
『チートシステム』というこの世の道理を外れた能力を操り、好き勝手をするヤバいガキども。
「オレは『ウェポンシステム』のヨウ!そこに倒れる奴隷、エメルの主人で世界最強の男だ!」
「俺はノア・オドトン。てめェみたいな転生者をぶっ倒す男だ。」
「ん?貴様も転生者か?ふむ、そういう設定のNPCか?」
クソグレイ野郎にもそれ言われたぞ。
なんでこうもゲーム感覚なんだろうか。
あいつはぶっ殺したから、コイツはちょっと趣向を凝らして。
「この世界には無いこの武器、この兵器を見よ!」
出てきたのはロケットランチャー。
しかし、それは子供の落書きの様な不出来な物で、何故か四角い筒から四つのレモン型の弾頭が出ている。い、意味が分からん。
「ふはははは!!」
バコバコバコバコと発射音がし、かなりの至近距離にも関わらず構わず撃って来やがった。
チッ、奴隷ちゃんも近くにいるのに無茶しやがる。
「連技『髑髏蛇腹』『千脆』」
なんで四つしか無い穴から8発の弾が飛び出てんだよ、連射か!?
そのロケットの軌道を少しだけ逸らして俺達や地面に当たらず空中に。と思ったのに、何故か何にも当たっていない弾が爆発した。
急遽連技『睡蓮舞踊』で奴隷ちゃんを抱えて避けようとしたが、背中を大きく抉られる。
「ちぃっ!」
「やっぱりロケランRPGは精密性に欠けるな。やっぱり銃だな!ほらほらぁ!転生者ならこれが怖いんじゃないのかな!」
口調が安定しねェな。
背中が痛ェが、体は動く。ヨウの方を見れば、そいつは銃を持っていた。
いや、マジで銃。
子供の落書き第二弾。
いわゆるLの字をそのまま掴んでいる様な形状のクソ銃で、オートマチックのモデルガンみたいな
形なのに、良く分からない位置にリボルバーのあのレンコンみたいな箇所がくっついていた。
ボーチャード?みたいな名前のピストルに似ている気がしなくでもない。
パンパンと乾いた音と共に、太ももに二個の穴が空く。
あ?良く見たらサプレッサー付いてますやん。
続けて発砲音は続くが、それらはちゃんと避ける事ができた。
いや、いやいやいやいや、マガジン落したのになんで撃てて。
いや、それよりも、レンコンついてんのにマガジンも入ってんの!?
「ギャグはもう良い。ちょっと面白かったから殺さないでおいてやる。『混沌螺旋砲』」
「へっ!?これはぎゃあああああああああ!!?」
小さい鉄の塊も、火薬も爆薬も意味を成さない魔力の嵐でぶち抜く。
大丈夫、多分死なない。ちょっと遠くに吹っ飛ばしただけだから、バンディッド大砂海の柔らかい砂がクッションになって、大きな怪我はしないだろう。
「ちょっと闘技場が削れたな。ま、第二皇女を危険に晒したということだから、両成敗みたいなそんな感じで。」
誰に言っているかは分からない言い訳を呟き、俺は奴隷ちゃんを抱えて観客席に帰った。
奴隷ちゃんの名前、エメルって言ったか。
エメルを色々弄るつもりだが、その為には顔を治すか。
今や名前も聞かなくなった『希粧水』の出番か?
いや、こうなったらただの何も無い窪みがあるだけになるな。
焼けた眼球の残骸が中に残っていたら何かしらの悪影響があるかもしれないし、口も半分歯が無い状態で唇を戻すと、年寄りのあのシワシワの唇みたいになるかもしれない。
鼻も、某ギャグ漫画の警官みたく一個の穴のままだろう。
体の方を見てみたら、全身を爛れた皮膚が覆っている。
このままだと生活に支障が出そうだし、半分髪が無いのも可哀想だ。
もう、全身の皮膚を誰かから移植するか?
んんん、いや、もしかしたら、アレが上手く行けば。
色々な事を考えながら、俺は「ぼくのかんがえた最強の奴隷」ちゃんを考えていた。