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何故か30日予約投稿できないらしいので。
「破技『縁脆』」
二人目を倒した。
【武器】という、ハクの【魔剣】の下位互換みたいな属性を使う男だったが、恐らく男の武器はもう使えまい。
それだけじゃない。前歯は折れてるから食事もままならないだろうし、胸骨の剣状突起が欠けた。
【筋肉】よりは手ごわかった。
「次は私ね。とはいえ、難しいんじゃないのかしら。武道家というのは女に手を上げたくないという○○○○○ばっかなのでしょ?」
「口が悪い。あと俺は女の顔でも全力でブン殴るぞ?」
「へぁ!?か、顔はやめて!これでも嫁入り前の生娘なのよ!?」
「じゃあ棄権しな。こういうコスズルイ手に頼るくらいならな。破技『壱戸破り』」
コイントスの様な親指での爪弾きで小石を飛ばす。
それは俺の張った『魔力繭』を貫通し、一部を削り取る。
「あっと、これは死んだな。」
「ひッ!?」
「【転移】か?それ系統だけで魔力の壁を越えるのなら、それを感知される危険を......いや、無理な話か。あの魔法をハクか第二皇女の物だと思ってたんだろ?なら、感知されても外から攻撃が来るとは思う訳が無いか。」
あんな分厚い籠を操作しながら戦ったり、捜索をしながら維持したりなんて想像できないだろう。
俺も俺がやってるわけじゃない。
マキが維持しているが、マキも言えば俺の魔力の塊なので、俺も感覚的に分かるうえ、最初からこういう反則技をすることを予想していたから対処できた。
「あっ、ヤベ!!」
「キャァアアアアア!!」
中に頭を貫かれた死体があれば、確実に第二皇女に血が降り掛かる。
ハクは気にしないが、徹頭徹尾が気品に染まった皇族の第二皇女はもう、蕁麻疹出るくらい嫌がるんじゃない?
「ちょっハクー!?【水】で綺麗にしてあげてー!」
「はーい。」
ふぅ、ハクに世話を任せれば、多少大雑把でも良い感じにしてくれるはずだ。
とりあえず『魔力繭』から死体を放り出し、中のハクと第二皇女が楽になれるくらいの大きさに拡げる。
「で、こんなに隙だらけなのに攻撃しないのは何故だ?」
「ひっ、ひっ、ヒッチィ!?」
「へぇ、アレは仲間なのか。すまんな。多分即死だ。」
「よ、よくもぉぉおお!!」
激怒した女は全身から膨大な魔力を放出する。
火水風土、それに混ざって闇と光か。
コイツは【固有】属性ではなく、多種多様な属性を使えるタイプね。
【無】属性単一の俺にはできない戦法だ。多分、錯乱していながらどこかに冷静な状態の自分がいる。
「闘技『華乱枯乱』」
指を弾くだけなのに、肉が弾け飛ぶ位の力が入るから、手が爆発するくらいの威力が出る。
『気』の爆発と言っても良い。
「きゃぁああ!!」
「顔は嫌だと言ったな。良いぞ。邪技『八岐大蛇』」
『九龍』の頭抜き。『八岐大蛇』は眉間、臍、鳩尾、喉、顎二回、コメカミをぶん殴る。
弾け飛んだ魔力に紛れ、女の懐に入り込む。
仰け反って重心のブレたその体に、『八岐大蛇』を叩き込む。
呼吸困難に脳震盪、頭部での内出血もあるだろうし、内臓にややダメージも入っている。
そんな攻撃を喰らい、女は白目で倒れ込む。
多分死んじゃいないさ。
◇◆◇
「二連で女か。お前も顔は嫌ってやつか?」
「いい、こんな顔にいくら傷が付こうと構わない。」
目深に被っていたフードを脱ぐと、その女の顔が露わになる。
醜い顔、というのは憚られる。
半分が火傷で覆われた、肌色と赤の混じった膨らんだ皮膚。
そこには目も口も無く、片方の鼻の穴も無い。
綺麗に半分に分かれていた。
「わたしは奴隷。属性も主も話さないけど、あなたを殺す。」
「奴隷、ねぇ。」
この世界、この大陸の四国内で奴隷制度があるのは北の王国と公国のみ。
【無能】排斥主義が蔓延る帝国でさえ、奴隷というのは滅多に見ない。
奴隷自体を否定しない、他国からの奴隷であれば問題は無い。
北の王国は【獣人】排斥と人間至上主義から来る獣人奴隷中心。
公国は極端な身分差から来る貧困層の奴隷。
「獣人じゃないということは、公国系の奴隷だな。」
「......」
「遠慮無く顔面をぶん殴るが、許せよ。」
「構いません。わたしが殺すので。」
ユーモア溢れてるねぇ。
いや、やけくそになってちょっとラリが入ってるだけか。
んー。そうだなー。
「決めたァ、お前は俺が頂く。」
「?」
「こういうこったよォ。邪技『凩』」
「うっ『ダウ』」
防御壁を張る奴隷ちゃんは魔力の塊を俺の拳に絡める。
魔法の系統が良く分からない。
【無】属性みたいな使い方をするが、この感覚は知らない物。
つまり【固有】属性の様だが、なんか違和感がある。
「『ィード』『タック』」
「んんん???」
『魔力脚』と『魔力砲』の様な魔法なのに、意味が分からない。
こう、ネチャッとしているのにサラサラみたいな状態だ。
川を流れるスライムか、藻だらけの下水みたいな感覚。
んー?
「『タック・バー』『レゥ・ダウ』」
「んー。邪技『骨子』」
前腕の骨の間を掴む。
しゃっ骨ととう骨っていう骨の隙間に指を突っ込む。
普通に考えると、そんな所に指は入らない。
「......『タック・ブー』」
「なにっ!?」
痛がるどころか、腕を貫いて魔力を叩き付けてきやがった。
その戦法は、俺でもドン引きするぞ。
「さっき、あなたは【再生】持ちを用意しろと言った。」
「言ったねェ。」
「わたしは【再生】じゃないけど、【治癒】と【回復】【病気】が使える。」
「水系の上位かァ。」
「そして、さっきから魔力に【病気】を混ぜ込んでいた。」
あのドロドロは病気か。
どうりで気持ちいい訳だ。
アドレナリンがドバドバ出ている気がする。
「【毒】じゃないのは良い教育だな。毒への耐性なんていうのは幾らでも獲得できる。その隙を突いた技術だ。」
「『イズ・タック』」
「その不明詠唱だけが分からないなァ。お前のその詠唱が分からねェ。」
「『ア・ィール・トゥリ』」
ああ!!
「天使野郎の詠唱だ!」
「てん、し?」
左頬を撃ち抜いた魔力を無視し、奴隷ちゃんに回し蹴りをかます。
そう、この感覚と詠唱の謎は、ハクが召喚した天使達にある。
アイツらは、良く分からない詠唱と共に、見たことの無い光系統の魔法を使ってきた。
んん、気になるな。
「余計に欲しくなった。ギア上げて行くぞォ!!」