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突如決闘を申し込んできた大男。
それは刺客の類である筈が、何故こんな正々堂々と?
「オレ様は厳密には第二皇女とやらを殺しに来た殺し屋じゃない!鎧剥がし、つまりは護衛の貴様らの相手をするのがオレ様だァ!!」
『てめェ一人でオレ達を相手するとでも?』
「ちっげーよ!このバカが先走っただけで、僕達もお前と戦うんだよ!」
闘技場内の縁と、闘技場観客席に、最初の大男ではない人間が数人。
女が二人と男が三人(大男を含む)。
「なんか情報と違って三人知らない人がいるんだけど。」
「アレの一人は人間じゃないな。」
『くっちゃべってんじゃねェ!!オレ達が逃げる事を想定してないのかァ?』
「逃げの想定はしていたよ。だから対策もしている。」
そうだろうな。
俺も強そうな相手との戦いよりも、護衛任務を優先するだろうし、相手も俺の性格を把握していないだろうし、把握していても俺の意見がどれほど有効かなんて知らない。普通なら俺の意見なんて普通に無視されると考える。
であれば、俺達は逃げる。
それが最善策だからだ。
「周囲を結界で覆ったな。【無】属性魔法が使えるのか。」
「ってことは......」
「帝国の人間じゃない。相手に獣人が一人いるということから、北の王国の人間でもない。」
「公国かここの出身者。もしくはただ依頼されただけの冒険者?」
「今この時の問題には関係無い。逃げるという選択肢が無いなら、ただ倒して勝つのみ。」
ロドリゲス先輩の言う通りだ。
とりあえず勝つ。考えるのはそのあとにしよう。
「という訳で!勝ち抜きぶっころ大会開催じゃぁい!!」
『仕切ってんじゃねェ!こっちはノアかハクを出して皆殺しでも良いんだぜェ!』
「ハクは出られんぞ。『魔力繭』の中に第二皇女と入ってるからな。」
「じゃあ、先鋒とか中堅とかを決めて戦うんですか?」
ユーリはそう聞くが、そんな事はしない。
「ロドリゲス先輩、ハイドル先輩、ベルナリンド先輩は闘技場内に他の刺客がいないかを探してほしい。カム、ユーリ、マキは『魔力繭』の周囲で警戒。コイツら6人は俺が倒す。」
闘技場に降りた俺を止める声は上がらない。
その代わり、静かに全員が指示の通りに動く。
「はははは!一人目にして最後の男であるオレに負ける覚悟をしろ!」
「先に言っておくが、俺はお前らの乱入に怒っている。手加減はしないから、死んだら死ねよ?」
「文句を言う間も無いというか!」
快活に笑うその顔が憎らしい。
今俺はそんな軽口にも付き合いたくない。
もう少し条件がズレていたら、きっとなけなしの魔力をぶっ放していた。
「オレ様は【固有】属性魔法、【筋肉】の使い手だ!【無能】という貴様を叩きつぶすのに良いだろう!」
「【筋肉】ぅ?」
ははーん。
さては俺の事をあんまり調べてないな?
帝国の学園でありながら【無】属性の俺が好成績である事で、武力に極振りした脳筋という認識をされているんだろう。
で、それを倒すためにこの筋肉がいるということか。
筋肉、筋肉ねェ。
「オレ様はマルス・キニンク。貴様を倒す男の名前を覚えておけ!!」
◇◆◇
戦闘が始まった瞬間、マルスの全身が大きく膨張する。
筋肉の隆起によって服が弾け飛び、ギリギリの範囲で局部が隠れている程度の露出度になる。
が、それはボディビルダーの様な美しい形状の筋肉ではなく、ひたすら大きくした様な、醜く機能美も造形美も無い肉の塊だ。
「この一撃をくらって生きていた者はいない!!オラァ!!」
「不愉快だ。連技『大娑輪』」
豪快に風を切り、破壊の具現とも言える拳が眼前に迫る。
多分、手の大きさだけで俺の身長の半分以上はあるだろう。
その手を掴み、俺は全力で後ろに引きこむ。
それだけで威力過多のその攻撃は、全身のバランスを崩す弱点と化す。
「ぬおっ!?」
「お前よりも最小限の動き、最小限の筋肉、最小限の威力でお前を倒す。邪技『骨砕き』」
汚ェ筋肉に触れ、微細な衝撃を送る。
それはデカイ筋肉というごちゃごちゃした内壁を反射し、反響の度に大きくなる。
そしてそれが頂点に達した時、マルスの肋骨が全てへし折れる。
「ごぶぉぉ!!?」
折れた肋骨は、膨張した大胸筋によって肺や胃等の重要な内臓にブッ刺さる。
「調べても絶対に出ないと思うがな、俺の使う技は筋肉を一切考慮しない。一般人でも、理論上であればただの幼児でも使える技ばかりだ。そんな技に筋肉で対抗?片腹痛い。自己再生ができる様な【再生】の【固有】属性でも連れてくるべきだったな。破技『己』」
「がっばぁ!」
ベキベキにへし折った骨が更に折れ、内臓の内側で粉々になる。
んー、死んだか?
「「「「「......は?」」」」」
「次」