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「それはどういう事だ!」


 岩盤小僧(キッズ)の男と出会ってから、俺は無事商業ギルドへと着いた。


 道行く人に聞けば、基本的には一つの町につき、商業ギルドに狩人ギルド、冒険者ギルドがあるそうだ。

利用には登録が必要で、年齢は制限が無いらしく、複数ギルドの掛け持ちも可能だそうだ。


 なので、今回は用のある商業ギルドにだけ登録とポーションの売却をしてしまおうと思ったのだが、そこで一つの不手際が起きてしまう。


 商業ギルドの受付が俺の登録を受け付けてくれないのだ。


「発行は基本無料で、ランクを飛び級させたい時にのみ課金が発生するはずだ。何故拒む!」

「あ?ガキ、お前みたいなのを入れたらこのギルドの品位が落ちるんだよ。ガキは帰ってママに甘えてろ。」


 なにより受付の態度が悪い。

受付とはつまり接客業。本来ならあり得ない筈なのだが、この受付は何を考えているのだろうか。


 憤りは覚えるが、こいつは一般人だ。暴力に訴えるわけにはいかない。


「ポーションを売りに来ただけだ。それに発行はお前の権限だけで拒否できるわけじゃないだろう。」

「ああん?ガキのお前なんかよりも俺は偉いんだよ。今はこんな所の受付をしてるがな、将来的にはこのギルドのマスターにだってなれる!」


 下卑た笑みを浮かべる男だ。

年齢は若いようだが、髪がぼさぼさで色が汚く、やや生え際が後退している。

 老け顔もあいまって実年齢より10は年を食ってそうだ。


 そして、これからおそらくもっと面白い物を見られるだろう。


「君が私の後釜とは、随分と易く見られたものだ。君程度の人間が私と同じ器であるとでも思っているのかね?」


 理知的で、やや見下しがちな発言は、受付の男の後ろから発せられた。

そこには、20代程の女性が立っていた。


 光が通れば桃色にも見える金色の髪に、やや小麦色の健康的な肌の色。

瞳は全てを見透かす様な蒼色で、身体も引き締まった完璧なプロポーションだ。


「ふ、君に私の後を継がせるくらいなら、そこの坊やに任せた方がよほど良いだろう。」


 一見、俺を持ち上げた様にも聞こえる言葉だが、これは男を下げただけだ。

勘違いしてはいけないだろう。


「なっ!?聞き捨てなりません!こんなガキに俺が負ける訳が無い!」

「聞き捨てろ。一つの組織で下っ端としているうちには、どんな暴言も聞き流し、受け流していく事が一番懸命だ。やはりその点では、君の暴言をすまし顔で無視できる坊やの方が優秀だね。」


 男を下げる下げる。

しかし、それでもやはり気に食わないのか、男は顔を真っ赤にさせて震えた。


「ふざけるな!こんなガキの事ばっかり言いやがって!父上に言い付けるぞ!」

「ああ、その事だがな、以前貴様が私のお気に入りの子を精神的に追い詰めた事を貴様の父上に言ったらな、次に同じような事をすればクビにしてくれて構わないとさ。その際には勘当するとも。」

「はっ!?で、デタラメだ!後悔するぞ!」


 やれやれ、俺は何を見せられているのだろうか。

ギルド登録をしたいから来ているのに、こんな茶番には付き合ってられない。


 俺は二人の会話を片耳で聞きながら、商業ギルドに付属しているBARに足を運んだ。


「ミルクで。」

「あいよ。」


 こっちの受付のマスターは愛想が無いが、少なくとも馬鹿にした様な目では見て来ない。

先程の男と比べるのなら、圧倒的にこっちの受付の方が良い。


「持ち込みってアリですか?」

「構わんよ。酒にもミルクにも、何を混ぜても構わんさ。」


 そう言われ、俺は出されたミルクにポーションを入れた。

俺の開発した『癒善草』のポーションだ。


「モノ好きだ。不味いポーションをわざわざミルクに混ぜるとは。」

「ふっ、そう思うならマスター、モノは試しと飲んでみないか?」


 俺はポーション入りミルクをマスターに渡す。

最初は顔をしかめて嫌そうにしていたマスターも、匂いにつられて口を付ける。

 

「ん、美味い。どんな魔法を使ったんだ?混ぜたのはポーションじゃなかったとか?」

「いや、ポーションだ。美味くて良く効くポーションだぜ。」


 ごくごくと全部飲み終えたマスターは、新しいコップにミルクを注ぎ直し、俺の元へ置いた。


「そんなポーションならきっと売れるだろうな。ほら、ギルマスは話が終わったみたいだぞ。」

「いいや、ミルクを飲み終えるまで待っていてもらう。」


 人を待たせたのだ、自分が待つのも許容してもらわないとな。

俺はたっぷりと時間を掛け、ミルクを味わった。


 時間にして5分ほどか?

とはいえ、ギルマスと呼ばれた女性は待っているようだ。


 俺は再度、ギルドに登録する為に受付へと向かった。



「先程は、私の部下が失礼したね。今ではもう元部下なのだが、夜道には気をつけたまえ。」

「それで、ギルドには登録できるのですか?」

「ああ、問題無い。差し当たって、君が先程ミルクに混ぜていたポーションを見せてほしい。」

「それをした俺のメリットは如何ほどか?」

「ふふ、君は生粋の商人なのだろうね。良いだろう、好きな条件で構わない。」


 ここで欲を掻けば、見放されて終わりだろう。

だが、ビビって大したモノを得ようとしなくても見放されるかもしれない。


 ここでの選択肢は俺のこれからを大きく決める一手になるだろうが、あまり気負うつもりはない。



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