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趣味だった『装備品』の作成も、ホムンクルスの創造もできなくなってしまい、もはや筋トレも意味を成さない。
筋力ステータスが1300万を越えた俺の体は、片手小指逆立ち腕立て伏せでも余裕でこなせるようになった。
魔力が無いためか、慢性的な倦怠感は拭えないが、肉体的な疲労はまるで感じない。
であれば、どうすれば更なる高みを目指せるか。
パターン1、【称号】による倍率強化。
これは現在進行形でパルエラに制御してもらっている。
俺の感覚としてはあと一ヶ月ほどで禁断症状が来る。
パターン2、【加護】による特殊強化。
現状では全能神から教えて貰った遺跡とやらがあと二ヶ所あったんだが、行く気になれない。
これは時神のせいだな。なんとなくそんな気がする。
パターン3、覚醒による特大強化。
どこかに旅に出て強い魔物か強い人間と戦って覚醒を期待する。
が、多分それはあり得ない。時間の概念からか、18歳になった俺のステータスは『その通り』であり、このまま順調に成長すればこうなるだろうなという程度だった。
あれが、『覚醒を経る事の無かった延長戦の俺』なのか『8年間覚醒が起きなかった事実』なのかは分からない。
後者であれば、今の俺に覚醒が起きた場合はどうなるのか気になる。
「ノァ、魔力無くなったの?大丈夫?」
「大丈夫だ。むしろ、魔力以外の技能を伸ばせば良いと思っているからな。いっちょ模擬戦でもするか?」
「うん!」
◇◆◇
闘技場内にて、俺とハクは対面して立っている。
その周囲、観客席にはSクラスや天使の面々が集まっている。
良く見れば、学園長や、何故か他クラスの人間もいる。
そして、普段の俺と比べてみれば異様な光景もある。
「ノァは、それを使うの?」
「ああ、こいつらの練度を高めたい。」
俺を中心に取り囲んでいる多種多様な武器。
剣、斧、槍、ハンマー、鞭、棒、そして俺の改造服に張り付いている様々な短剣やら暗器やらの小道具。
名称不明の良く分からない武器もたくさんある。
「足りないか?」
「新しい魔剣も使うから、頑張ろうね。」
ハクは両手に見た事もない魔剣を取り出す。
詳細は聞かない。そっちのほうが楽しそうだからな。
「では、尋常に勝負を行ってください。」
ルルロラルの合図と共に、俺は一番近くにあった槍と剣を手に取る。
長槍と長剣だ、普通に考えて、片手持ちは愚策の極み。だからこそ。
「ふぅん!!」
「『反剣トントル』!」
鏡の様な剣と、水晶の様な刀身を持つ奇怪な剣。
その剣の鏡面が投げられた槍に当たると、なにをどうしたのか、鏡に吸い込まれた槍が、真反対を向いてこちらへ飛んで来た。
「せいやっ!」
予想外の飛来に焦りつつも、腰の短剣を更に投擲、足元にある盾を蹴りで持ち上げ、槍に当てる。
「『没剣イース』」
今までは無数にあっただけのナマクラ剣の群れを、魔力で操作し滞空させ、ハクの周りに円陣を組んで配置している。
これによって、俺の投擲は弾かれ、地面に突き刺さる。
「『黄金剣デュランダル』『綴剣バラランドル』」
二つの剣をその場に突き刺し、いつも見た、金と漆黒の剣を取り出す。
俺にはもう、それらの剣の特殊機能は通用しない。
魔力を失っても、それは変わらない。
「最初からクライマックスだよ!はぁああ!!『煉天魔力拳』『18』!」
9対の腕が飛び出す。
俺の『螺旋魔力拳』の様な見た目だが、その作りがまるで違う。
それらの拳が『反剣』の2本『黄金剣』『綴剣』『双剣』の2本『没剣』が4本、そして、知らない剣が10本もある。
「それは、この短期間で解放した剣なのか?」
「うん、ノァと一緒になってからいっぱい増えたの。あの地下迷宮に行った時には二つしか増えなかったのに。」
「それら全部で戦うってわけか、良いね。」
「ノァなら喜ぶかなって。」
「ああ、最高だ!」
魔力腕の操作は非常に難しい。
5年間を魔力の操作に費やした俺でも、殴ることしかできない。
複数種類の魔剣を自由自在に操るなんて不可能だ。
天才的なハクのセンスでも、並々ならぬ努力を要しただろう。
本当なら、全力の全開で戦いたい。
「次にはもっと楽しめそうだが、今はちょっとだけ我慢だ。」
「そうだね。じゃあ。」
「おう。ZEAAAAA!!!!」
斧を思い切り高く放り投げる。
棍と棒は投げ、ハンマーを手に取り、地面に強く打ち付ける。
「ちょっ!?」
「処理の暇は与えねェ。武技『伍核星』」
俺は必要性とか、使用率から武器を使う武技はまるで習得しなかったが、基礎の10個は覚えているから、問題無く武技を使える。
それに、【称号】のお陰で補正が掛かるため、俺はブランクを気にせずに使う事ができる。
「『時剣キャロル』」
空中で棍と棒が止まり、地面にヒビが入るのも止められた、ハンマーもこれ以上動かせない。
落下中の斧も、空高くで静止した。
物の時間を止める魔剣か。
「じゃあガントレット!」
鉄製の籠手を手に嵌め、小さな鉄球を投球、それと共に走り込む。
「せいやぁあああ!!」
ここからは地味にグダグダしたため、略。
結局覚醒も何も起きず、ただの模擬戦として終わってしまった。
ちなみに勝者はハクである。