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 【無】属性魔法の『ボックス』の中には、およそ1000個のポーションが入っている。

その内100個が新型ポーション。他は既存ポーションだ。


 これを、少しずつ町で売る。

定価が分からない以上、俺は勉強しないといけない。


「ちょっと遊びに行ってきます!」

「ええ、いってらっしゃい。」


 父の仕事での外出からすこしして、いつもの時間がやってくる。

俺がハクと遊ぶ時間だ。

 そこで俺はハクの家とは別の方向。

町に向かって走る。


 体力づくりの一環だとは思っているが、早く終わらせないといけないため、【無】属性の魔力を足に纏い、高出力の走りを決める。


 一歩一歩が広がり、速度も上がる技だが、狭い空間だとただのタックルマシーンと化す。

使いどころが限られる魔法でもあるだろう。


「FOOOOOO!!!」


 今、俺は風になっている。

向かい風が体の温度を下げ、内臓は上下に、脳味噌は左右に揺さぶられ、全身を針が突き刺す様な感覚が走る。

 無理矢理動かされている両足の裏は既に靴がすり減り、摩擦熱で発火しそうだ。


「すとーっぷ!!」


 急激に止まった衝撃で、内臓が腹から飛び出しそうだった。


「ぐぼっ、ぐはっ、はっ、はっ!」


 何度か咳き込みながら、全身の痛みに耐え続けて蹲った。


「この方法マジ死ぬ。二度目の人生終わるところだった......」


 圧迫される内臓。

揺れる世界と燃える足。

 この世の地獄と言える現象だった。


「もうすぐそこだからこのまま歩くか。」


 体力がほぼ全て削られ、身体は激痛に見舞われているが、歩けない程ではなかった。

伊達に忍耐100越えではない。


 ドロドロとした身体の感覚を味わいながら、俺は町に入った。


◇◆◇


 町の中は意外と大きく、様々な店が並んでいた。

正直、二度目の人生初の町なので、大きく見えても仕方が無いとは思うのだが、子供らしく興奮せずにはいられなかった。


 とはいえ、いつまでも目を光らせているわけにはいかないので、早速俺はポーションを売れそうな場所を探す。


 ここが異世界の定番だというのなら、商業や狩人の為のギルドが有る筈だ。

が、今まで読んだ本にそんな職業は載っていなかった。

 それでも、あの本が全部正しい訳ではない事も、世界の全てを書いている訳ではない事も分かっている。

 そこは見て覚えるしかないだろう。


 偏見や常識というのは新たな発見の妨げだ、事実俺は称号の条件に長い間気付かなかったのだから。


「お、見かけない坊やだ、おつかいかな?」


 道の端に開かれた露店から、中年のオッサンが話し掛けて来る。

見た目の印象からは連想できないような優しい口調だ。


「はい、家でポーションを作ってるから、こっちで売ろうって。」

「そうかそうか。偉いね。ところで君の名前は何だね?」

「ノアです。」

「自己紹介が出来るのなら、五歳は越えているのかな?その割には随分な筋肉だ。力仕事を手伝ったりしているのかな?偉いね。」


 偉い偉いと褒めてくれるが、何故だろう、違和感を覚えてしまう。

それにこの男、よくよく見ればどこかおかしい。

 まず目が異様だ。優しく細めているように見えているのだが、これはどうやら本当に閉じているらしい。

 そんな状態でよく俺の事を認識できたものだ。


 それに露店の状態。

 売っているのは簡単なアクセサリーなのだが、そのどれもが魔力の籠った代物だ。


「やっと気付いたかい。偉いね。」

「お前、何者だ。」

「いやいや、私はただの盲目の、君の仲間ってだけかな。」


仲間......転生者?


「私は魔王軍の諜報部隊の隊長。世界各地を回って転生者を探している。」

「それに見つかったと。」

「端的に言えばね。私は君をスカウトしに来たんだ。」

「断る。」

「悪い話じゃ......早くない?」


 正直、魔王軍とか興味無い。

一週目から裏ルートに入るRPGが無いように、俺もそんな無粋は行わない。

 何より、魔王軍とか意味が分からない。


「魔王軍は君の様な転生者を集めた集団さ。全員が君の様にチート能力を持ち、」

「あ、じゃあ俺チート能力持ってないんで、他を当たってください。」

「へぁ!?え、え、なんで?なんで持ってないの?」


 このオッサン、言語崩壊ぶりが半端じゃないな。

余程混乱したのだろうが、俺の居場所を知る事ができたのなら、それくらい知っていそうなのだけど。


「こ、こんな停滞した世界なら自由に破壊したり、女を囲ったりしたいと思うだろ?」

「いや、全然。ゲーム性の違いに文句があるのなら他のゲームをすれば良い。ここはこういう世界なのだから、郷に入っては郷に従え。ドラ○エをしているのに、グラ○フの様な破壊活動をするなんてナンセンスだ。まあ勇者はすぐに空き巣をするけど。」


 やれやれ、こいつらにも事情があるのだろうが、今の少しの会話だけで、なんとなく分かった事がある。


「お前ら、クリエイティブモードでフルダイヤの滅茶苦茶付与(エンチャント)をする岩盤小僧だろ。」

「......は?」

「すまん。昔の癖だ。とりあえず、お前らに構っている程俺は暇じゃない。世界征服ごっこがしたいなら構わないが、俺の生活圏で暴れるなら俺はお前らの敵だ。」


 どうやら、NPCキルが大好きなヤツらなのだろうが、俺はそういうルールブレイカー気味なやり方は好きじゃない。

 たった一人のキャラクターが死ぬだけでも泣くんだ。好き好んで殺す訳が無いだろう。


「今ここで君を排除することもできるが?」

「だからなんだキッズ。のこのこと自己紹介をしている間に、俺が何もしていないとでも?」


 ご高説の間、俺は男の全身を魔力で覆っていた。

いつでも目の前の男を八つ裂きにできるように。

 PVPは別に気にしない。


「ふっ、どうやらタダ者ではないらしい。チート能力を持っていなくてもここまでの魔法を使えるとは。きっとこれからも我々は君に接触するだろう。」

「そうか。敵対するなら邪魔をするし、俺の生活を乱すなら戦う。俺の目標を邪魔するつもりなら、迷い無く殺すからな。」

「そうかい......ところで、君の夢は?」

「この世界の完全攻略。差し当たって、今は全ステータスのカンストが目標だ。」


 俺の言葉を聞いて、男は高笑いする。

何か可笑しい事を言っただろうか。


「そうかそうか。頑張ってくれ。俺が知る限りでは、999はカンストじゃないぞ。」

「それは知ってる。」

「へぁ!?......え、えっと、じゃあ、これ解いて?」


 驚きと気恥かしさからか、情けない声で魔力の解除を乞う男。

こういう場面では普通、拘束を抜けて瞬間移動をすることによって、相手との力量差を見せつけるだろう。

 

「じゃ、じゃあ、また。」

「ああ、またな。」


 手を振って歩いて行く男の背中を見て、俺は複雑な心境のまま反対方向に歩いた。

道草を食ってしまったが、俺の目的はポーションの売買であって、転生者探しではないのだ。


気を取り直して行こう。


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