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 30階層『プロミネンスドラゴン・スピリット』


『ならんならん。魔力効率はもっと細かく、小数点以下のコンマまでハッキリ意識して扱うのだ。』

「うッス。」

『重力というのは強力だが、扱いが粗雑すぎる。点か面だけではダメだ。線も多角も器用に使いこなせ。』

「ォォォラァアア!!」

『剣と魔法、両方を扱うのなら、それぞれが自分の体だと思え。体の延長なのだと。』

「は、はい!」


 前人未到の地下迷宮の30階層にて、謎の強化合宿が行われている。

指導者は多くの伝説を持つプロミネンスドラゴン。

被指導者は名門と名高いマグナイト学園のSクラス生徒。


 訓練開始から5時間経過中。


(嘘だろ。ステータスに変動は無いのに。こ、こんな事ってあるのか?)

(それに、全身を包む謎の疼き。骨が痒くなったみたいなもどかしさッス。)

(これが俺なのか?)


 三人は混乱の最中にありながらも、冷静にプロドラの師事に従い、黙々と実力を伸ばしていた。

カンストしたステータスは変わらないのに、動きのキレが良くなるのが実感で分かる。

一時間なら気のせいかとも思った。

二時間は違和感に気付き始め。

三時間で驚きを覚え。

四時間で確信に変わり。

五時間で混乱し始めた。


『さて、五時間経過で次のステップへと移行する。道徳の時間だ。』


 突然の方向転換に三人が疑問符を浮かべる。

イマイチ理解していないようだ。


『お前達は人生についてどう思ってる?』


◇◆◇


「死にたくない死にたくない死にたくない」

「うっ、かはっ、げほっげほっ」

「」


 アレクサンダーは婚約者の話や家族、つまりは皇族の話。生と死についての話。倫理感と道徳心をトラウマレベルに教え込んだ。

 死んでしまうという事は、つまりもうベルナリンドと会うこともできない、将来的に子供を作ることも、ましてや友人と遊ぶこともできないということ。

 可愛い妹の成長も見られないし、もしかしたら自分の死によって皇族家が終わってしまい、帝国の千年の歴史が潰えるかもしれない。

 これから90年近く生きられるかもしれないのに、たった10年で死んでしまう事がどれだけ恐ろしいかを考えさせた。


 ヴィルは過呼吸を起こす程のトラウマ。つまりベルナリンドに燃やされ、死亡したと言われた時の事を思い出させた。

 あの時の記憶自体はヴィルの中から消えていた為、ノアの記憶から引き出された映像を魔力に乗せてヴィルの脳内にトレースした。

 そして、あの時にもし自分が死亡していた場合の未来を、ノアの演算能力をフル活用して映像化した結果、自分のいない未来の光景に心底恐怖して呼吸困難を起こした。

 

 ラルフは失神している。

彼には単純に、今まで殺したであろうゴブリンやオーク、スライム等の魔物にも家族がいるという嘘を刷り込んだ。

 結果として成功したわけなのだが、涙と鼻水を垂れ流しながら失神したのにはプロドラも驚いていた。

途中から人間を対象にして、様々な人生像を見せたのがまずかっただろうか。

 家族に見送られる傭兵とか、小さな娘と二人暮らしの爺とか、幼馴染の女の子と結婚の約束をしている男の子が、戦争で脚と腕を失って殺してくれと叫んでいる所とか。

 一番のミソは、それを第三者視点ではなく、一人称視点、つまりラルフが当人に成り切る形で追体験したのが良かったと思う。


 で、これだけの生死観とトラウマを得た三人の回復を待つ事3時間。

三人は涙を流して懇願してきた。


「お願いしますお願いします!助けてください!」

「命だけは!」

「アンネぇぇ!!」


 なんか一人だけ違うんだが。

とりあえず、三人に対して、プロドラは優しい言葉を投げかける。


『ダメだ。どれ程の恐怖も後悔も意味は無い。お前達が今ここで逃げ出しても、将来的には全員死ぬ。だが、その死に方は自分で選べる。大切な者も大切な場所も全てを失って自らの生にのみ執着するのは構わんが、お前らはそれで良いのか?』

「そ、それは。」


 アレクサンダーは婚約者の姿を思い浮かべる。

キツい性格だが、高飛車な性格だが、可愛らしくておちゃめな愛する女性がいる。


「ぐっ」


 ヴィルは仲間達を思い浮かべる。

楽しく笑い合う友人と、大切な戦友がいる。


「ぁ......」


 ラルフは幼馴染の恋人を思い浮かべる。

実在はしないその人が、どこかクラスメートのレオナと似ていて。


『君達は全てを捨てるか、手元に掻き抱くかの瀬戸際に立っていると言って良い。ここで我を越えられなければ、君達に未来は無い。良いかね?』

「......」

「......」

「......」


 全員が押し黙る。

それと同時に、黄金色の光が、この空間内を包み込む。


『MWMWMWMWMWMWMWMWMWMWMWMWMW』

『WMWMWMWMWMWMWMWMWMWMWMWMWM』

『MWMWMWMWMWMWMWMWMWMWMWMWMW』


 覚醒による魔力の奔流。

威圧感に空間が負ける。

 

『どうだノア。予定の3分の1の時間で終わらせたぞ』


チッ、そうかよ。

しゃあねぇな。認めてやるから主導権返せ。


『ふむ、その様子なら我が誰かも分かった様だな。』


 当たり前だろ。なんで倒した筈のヤツが俺の中にいるって想像できると思ってんだ。

じゃあ何か?他の竜もいるのか?


『いいや、不完全なアレらは全て我が喰らった。お主、途中から素材剥ぎが上手くなったからな。入ってくる部分が少なくて物足りなかったぞ。』


 お前以外に13体も倒したのに、物足りないのかよ。


『本来なら10体程度で良かったのだ。それと、我もマキと同様、精霊戦士として出られる。いや、太陽戦s』


 言わせねェぞ。

良くて蜥蜴戦士だっつうの。


『むぅ、そうか。とにかく、今後の【竜化:プロミネンスドラゴン】は極力禁止だ。他のドラゴンのスタイルで発動しないと、また我が外に出るぞ。』


 それは不都合だから、使わない事にする。



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