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17階層『オークエンプレス』『ミリオンオーク』
オークキング以上の巨体で、濃い化粧が目立つ女オークを中心に、数万体レベルで構成された小型のオークの群れ。
一体一体は機動力重視で紙装甲なのだが、それが1万や10万もいるというのは、最早災害である。
しかも、コイツらは『エンプレス』から常に増殖され続け、半永久的に供給されつづける。
女帝という名前でありながら、雌雄同体なのだそうだ。
「BUGYAGYAGYA!!!」
オークエンプレスはわらっている。
「俺を守れよ!『大重力波』!!」
辺り一帯が血の海と化す。
50倍という想像もできない様な重力に晒されたオーク共はプレス機で押し潰された缶ジュースの様にぺちゃんこになり、オークエンプレスも動きが阻害された。
「GYAAA!!『大重力柱』!!」
そこへすかさず、エンプレス本体に対して集中攻撃、その余波で生み出され続けるオークは潰れ続ける。
「ぅぅぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!『魔力大剣』!」
アレクサンダーは自分の身長の3倍近い大きさの剣を創り出し、オークエンプレスにぶつける。
「自分、なにもやる事無いッスね。」
「資料を参考すると、次の階はお前が少し有利だぞ。」
「そうなんスか。」
18階層『オークエンペラー』『オークノーブル』『ミリオンオーク』『オークアーミー』
「わー、大量ッスね。」
「肝が据わってきたな。」
「いちいち驚いてちゃ喉枯れるからッスね。」
「おしゃべりは後にしてくれ!!」
「ぶっ飛ばすぞゴルァ!!」
とはいえ、呑気に俺と話していたのはヴィルの『分身』である。
三人は全員得意な系統が違う。
アレクサンダーは『魔力剣』なんかの魔力の塊を操作するのが得意。
ヴィルは『ロケーション』や『クリア』『分身』等の超能力的な魔法が得意。
ラルフは自力で考案した、魔力を力強く扱う通称『重力シリーズ』なんかが得意。
今回の階層は大量のオーク達。
つまり、数の暴力である。
なら。
「GYAAA!?」
「BUURRRRRR!!!」
「PIGGGGIIIIII!!!!!」
次々に聞こえる断末魔。
それもこれも、10体前後のヴィル分身が暴れ回っているからである。
ヴィルの分身は全部で15体まで。
魔力量の関係で、それまでしか維持できない。
それらを巧みに操り、相手戦力の要を突くのが上手い。
なら、何故今までそれを使わなかったかと言うと。
事前に受け取った29階までの資料を見て、19階層までが自分達の限界だと察していたからだ。
つまり、次で最後。
次の戦いで覚醒できなければ、またしても地獄を。
もしかしたら無理矢理、30階のボスと戦わせられるかもしれない。
「良いとこばっか持ってくんじゃねぇえええ!!」
「ここで消耗するわけにはいかない!!」
どうにかこうにか、激戦を終える事が出来た訳だ。
19階層『オークデミゴッド』
オークの亜神である。
神々しい後光と共に、ややスレンダーになった体付き。
顔が豚であるだけの神の様にも見えるソイツは、四本の腕で剣を持っていた。
「ガネーシャ的なヤツか?インド系神で即ガネーシャ出すの好きじゃないんだよな。もっと別の、破壊神とか母神とかいるのに。」
「なんの話ッスか?」
「いや、なんでも。」
「それよりアイツ、動かねえな。」
「それで良い。お前らには少しだけ、悪い事をする。」
そう言って、俺は自分の掌に魔力5万の『魔力弾』を集束させる。
「えっ!?」
「まさか......」
「オイオイオイオイ!」
地面を削りながらオークデミゴッドに迫る『魔力弾』。
仏の様な柔らかな笑みが、一瞬だけ驚愕に染まり、そして消滅した。
「もしかしたら勝てるかもしれねェ相手と戦わせるつもりはねェ。お前らはこれから行く9階分、全力で戦えば確実に勝てる。なんせ、ちょっとずつ強くなる単騎が連続するだけだ。」
「だけって......」
「そんな緩い戦い、確かにいつかは覚醒できるかもしれないし、俺も覚醒って現象について全部知ってるわけじゃねェ。だがな、俺はカムに『絶対に勝てない敵』と戦わせられたから覚醒できたと確信している。」
理由は確実じゃない。
だが多分、体が『相手に勝てるよう最適化された』からじゃないかと思っている。
だから、もしも戦っている両者が諦めない根性の持ち主だったとしたら、ずっと何回も覚醒し続けるんじゃないか?
そうだとしたら、怖いな。
「ってことで、お前らはこれから全力で体力を回復しろ。9階分を俺が撃破する間だけだがな。」
ちょっと暴れ足りないからな。
派手に暴れるとするぜ。