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寮に案内され、荷物を整理し、午後の授業が始まったであろう教室に行く事になった。
ハクは、少しもじもじとしており、何か言いたそうにしている。
「なんだ?」
「きっと、今のSクラスを見たら、ノァは怒ると思う。」
「ああ、多分ブチキレる。」
「......けど、半殺しはやめてあげてほしい。」
「いや、普通に半殺しにするけど。」
ハクの意見はスッパリと切り捨て、俺は俺の計画を実行する。
「久しぶりね、ノアくん。大きくなった?」
「大きくなったが、マリナ教師は変わらないな。」
「どこを見て言っているかは大体分かるから、自己紹介する?」
「ああ」
教室に入り、教卓の前に立つ。
そして、全員を『鑑定』で一瞥。
レオンを除き、個人平均5~10万。全体平均は7万という、高いが微妙な数字だった。
レオンは堂々のオール1。
なんなら下がった。
「お前ら、闘技場に行くぞ。」
『はぁっ!?』
「レオナ。理由を教えてやれ。」
「......もしかして、そういう事か?」
「はっはっは。再開の感動も無しに突然戦闘か。エッジの効いた性格になったなぁ!」
「おうコルァ!ボッコボコにしてやるぜ!」
レオナは戦慄し、アレクサンダー君は大笑い。
あとラルフ君はやる気満々だ。
「文句があるヤツ、やる気が無いヤツ。そいつらを重点的に訓練する。ということで、先に訓練すらままならないくらい弱いヤツは、今ここでふるい落とす。」
「やってみろやぁ!......ッ!?」
ラルフ君の勢いが消え、周囲から音が消える。
「これが俺の魔力、406万以下略。たった一つの教室に満遍なく充満させ、密度を高めたら、こんな使い方もできる。」
「くっ」
「かはっ」
深海にいる様な圧力に、肺が空気を漏らす。
これを常に体内に入れている俺には、ちょっと湿度が高まった程度にしか感じないが、この10分の1も持たないコイツらでは、苦しいだけでは済まないだろう。
「で、誰も抵抗できないか?それなら、お前らは俺と戦う権利すらない雑魚ってことになるが。」
「......ッ!!」
「......僕は行けるよ。」
「...俺だってなぁ!」
「......さあ、やるッスよ。」
立ち上がったのは、レオナ、アレクサンダー、ラルフ、ヴィル。
モノともしていないハクを含めると、5人か。
少ないなぁ。
しかも、平均を上回っている連中も、全然耐えきれてない。
ゲロ吐かないだけでもまだマシか。
「耐えられなかった奴は見学だ。事前に学園長に借り付けた闘技場で、俺と5人との戦いを見ていろ。」
◇◆◇
懐疑的な目を向けられた。
口調も偉そうな感じを意識したし、魔力も実は406万全部なんて使ってない。
普通に自然回復した50万だけだ。
だが、コイツらの闘志を煽り、実力を測る事はできた。
だから。
「がばっ」
「ぐぅうう」
「ひっひっひっ」
「うっぅうううう」
「なん......で......?」
弱い。
弱過ぎる。
前提として戦闘経験が少なすぎる。
ステータス差を鑑みても、1ミリも抵抗できないなんてあり得ない。
失望。
「ハク、お前の動きは全部覚えた。その意味、分かるよな?」
「......もう、天使達は通用しない?」
「そういう事だ。4人は、なんで負けたか分かるか?」
『......』
溜め息は出ない。
もっとすごい激戦を期待していたから、吐く息を吸ってない。
「レオナ、諦めが早すぎ。ヴィル、相手の背後にこだわりすぎ。アレクサンダー、直線的すぎ。ラルフ、安直すぎ。」
明確にどこがどう悪いとは言わない。
コイツらも他の連中同様、強くなってもらうが、自主性は大事にさせたい。
「てめぇらこの2年で何やってた!昼寝か!?弱い!これなら俺の『分身』でも勝てるぞ!なんならやってみるか!?根性足りてないんじゃねェか!!」
怒鳴り散らして、周囲に目を向ける。
お前らは論外だと、視線で訴える。
「今年の闘技大会は終わったってなァ!じゃあ魔技大会だ。そこでお前らは、『新しい魔法』を披露しろ!ダブりは無しでだ!」
クラス全体から、驚きの声があがる。
そりゃそうだ。
属性魔法でだって、新しい形態の魔法を見つけるのは50年に1度。
【固有】属性でもなければ、困難どころの話じゃない。
「困難だからどうした。やってみせろ。強さが無いなら他で埋めろ。手数は力だ。お前らはまず、確実に殺せる必殺技を作るよりも、相手を翻弄できる手練手管を身に付けろ!良いなァ!!」
『......』
「返事ィ!!」
『......はい』
渋々といった返事。
だがそれで良い。
怒りや憎悪、嫉妬なんかは、使い方次第では良い燃料になる。
そして、それを悪い方向に使わない様に、俺が見ていてやる。
だから、
「完全自律型、戦闘力体術特化『分身』100体」
魔力500で作った微妙な性能の分身共を、一人につき3体つけさせた。
一人は対戦。一人はアドバイス。一人は激励。
んん?激励は要らない?
モチベーションが必要だろうが。