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あけましておめでとうございます。
とはいえ年末年始スペシャル閑話とかは無いのでこれから5日間、1話ずつ投稿します。
少年の名前はカルというらしい。妹の名前はルチア。
二人とも、小さいものの貴族家の出身だそうだ。
貴族は『アイテム』の一つである『鑑定石:属性』を使って、早くに適性魔法属性を見ることができるらしい。
二人は、その方法を使って、【無】属性だと判断された。
まだ妹は3歳にならない程度の年齢であるのに、それも構わずに。
曰く、二人は直接病院に預けられたわけではなく、ストリートチルドレンになっていたところを、あの副院長が連れて帰ったそうだ。
で、俺の渡した指輪が殺傷力のあるモノであれば、今すぐにでもその家に行って殺してやりたいと。
んんんん
「馬鹿じゃねぇの?」
「なっ!?」
「お前さぁ、殺すだけが復讐なわけないだろ。むしろイマドキ、殺してスッキリな復讐の方が珍しいぞ?」
健全な事を言っているとは思っていない。
出来た大人なら、「復讐は何も生まない」とかいうテンプレートな言葉を軽々しく吐き出すのだろう。
けどなぁ。
「殺しなんて妥協でしかない。折衷案も落とし所も構わないが、妥協はだめだ。殺してハイ終わりなんてのは、お前の歪みに拍車をかける。」
「ど、どういうことだよ。」
「偉くなれ。強くなれ。負けるな。お前を棄てた事を後悔させろ。妹を含めて後悔させて、地べたにへたりこんで媚びへつらうそいつらの顔を想像してみろ。」
カルは顔を顰める。
想像して、そう気持ちいいものじゃなかったんだろう。
「お前はそいつらを殺しても何も得ない。だが、偉く強くなれば、お前は大量を得られる。親からの愛がたった一つしかないかけがえの無いものだったとしても、その価値を上回る量で圧倒して見せろ。」
「い、意味分かんねえよ。」
「分からねぇなら分かるまでは復讐を延期しろ。決意が固まったやつには何も言わねェが、お前はグラグラ揺れ過ぎだ。取れかけの乳歯よりもお前は揺れてる。」
そう言ってカルからルチアへと視線を移す。
「兄貴が大切か?」
「......うん。」
「ならお前も頑張れ。お前が補強材になれば良い。二人で一つに頑張れよ。」
「皆一緒じゃ、ダメ?」
んんん。
兄貴より出来た妹じゃねぇか。
「ダメじゃない。ここのお前ら皆で強くなれ。」
「......うん」
◇◆◇
普通に恥ずかしくなって病院を後にした。
皆にはちゃんと渡したい物を渡せたし、大丈夫だろう。
......あっ、ウェンディゴの義足を熱耐性にしたから、もう属性魔法使っても良いって言うの忘れてた。
まあアイツも何故か【無】属性魔法を使いこなせてたから、問題は無いか。
しっかしまぁ、アイツも強くなったよなぁ。
恋は人を強くするってやつだろうか。
それなら納得できるくらい、ウェンディゴは強くなっていた。
「うおりゃあああ!!」
「奇襲なら足音を消せ!ガッシャガッシャうるせぇぞ!」
「はぁあああああ!!」
まだ俺の渡した脚と交換していない状態のウェンディゴが奇襲をかけてきた。
ちぃ、気絶から目覚めたらすぐ戦闘かよ。どこの脳筋種族だてめェ!
「連技『髑髏蛇腹』破技『薔薇散美』」
攻撃を受け流しつつ、手刀で皮膚を切り裂いた。
筋肉質な腕だから、簡単に皮膚が斬れる切れる。
鮮血を撒き散らすウェンディゴだが、驚く様子も、隙を見せることもない。
素晴らしい胆力だ。
「で、どうした?」
「第二騎士団がお前を探す理由はなんだ?」
「んー、多分ハクの差し金だな。迷惑をかけた。何か頼みがあるなら、一回だけ無償で受けよう。出来る範囲でな。」
「それにヘレナ義姉貴はああ言っていたが、お前に会えなくてさびしがってたぞ。」
「に、2個」
「副院長は他病院との治療方法の違いによるプレッシャーで、更に生え際が」
「分かった分かった!!個数制限なんて設けねぇ!俺がお前らに迷惑をかける間はずっと、いくらでもお前らの頼みを叶えてやるよ!」
「よし来た。オレに【無】属性魔法を教えろ。」
こうして、俺は学園生活と並行してウェンディゴに【無】属性魔法を教えるという奇妙な生活習慣を形成してしまった。
「っていうか、お前普通に【無】属性魔法使えただろ。どういう事なんだ?」
「あん時お前が置いて行った『分身』に教えて貰ったんだよ。つっても、半年くらいで消滅しちまって、あとは反復練習と応用だったが。」
「新しい義足は耐熱耐衝撃性だ。【土】も【火】も使える。それでも【無】属性を覚えるのか?」
「ガキどもに【無】属性を教えるには、オレが知りつくす必要があるだろ。それに......」
ウェンディゴは病院の方向を見ながら、下唇を噛んでいた。
何を言い淀んでいるのか。
それは恐らく、俺にも衝撃的な事で
「ベルは子供が作れねぇ。」
「10歳児相手に何言ってんの!?」
「真面目な話だ。ベルには何故か、内臓器官が存在しないらしい。お前から教えて貰ったそれらが無いってヘレナ義姉貴がそう言っていた。」
そう言えばそうだった。
しかも、それを教えたのはまだ8歳の俺。
別に『何言ってんの!?』と驚く様な事でも無かった。
「だからこそ、孤児のガキどもはオレとベルにとっては、子供の様な存在なんだ。ほら、親が子供にモノ教えるのは、義務なんだろ?そう言ったよな?」
「......そういうなら、構わないよ。」
「おお!そうか。じゃあ明日な!!」
そう言って元気に帰って行くウェンディゴに、俺はなんとも言えない視線を送る。
『親が子供に教えるのは義務なんだってェなァ』
マキの声が、この時だけは煩わしかった。
今年もよろしくお願いします。