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 変化が終わったユーリは、その衝撃から気絶した。

しかし俺にはチート能力が移らない。包帯男の話は本当だったのだろう。

 コピーシステム。順当に行けば、相手のステータスをそのままコピーし、実力が拮抗するといった手合いだろう。

 そうなると、マジで戦闘方法を模索しないと、経験不足で負ける。


 この世界はある種平和だ。

魔王軍なんて存在はいるが、活動は小さく地味で、知名度も低い。

 この大陸でも目立った戦争なんかは無く、獣人排斥主義の北の王国と仲の悪い南の王国アドは、広大なバンディッド大砂海を挟んでいるため、滅多に争えない。


 そして、野心家が多い公国は、その性質から一致団結して他国に戦争を繰り出すことはできないし、帝国は永世中立とまではいかないものの、基本的には威嚇をしているだけで積極的に戦いには行かない。


 他の大陸についてはマジで異世界で、魔物しかおらず、上陸が許可されるのはSS級以上であるという、南極大陸的な、どこの国にも属していない大陸、『ヴァスカル大陸』

 

 国交自体は行っているものの、宗教観と死生観が違い過ぎるために誰も近付かない蛮族の大陸......という名の島『イースパング』


 あとは、世界の始まりと言われている『名前の無い大陸』

誰が言い始めたわけでもなく、行った人間はなんかの神の敬虔な信徒になるか、尋常ならざるステータスを持って帰ってくる。しかも生還率100%


 で、なんでこんな話したかと言うと。


 こんな平和な大陸でも、割と人が死ぬ。

盗賊に殺される、魔物に殺される、貴族の陰謀で殺される、貴族に不敬罪で殺される、貴族に奴隷として飼い殺される、貴族の戦争に巻き込まれて殺される、貴族が殺す。


 まあ落ち着こう。


で、なんでそんな事を言ったかというと、こんな世界で堅実に生き残るには、圧倒的な強さが必要だ。

 チート能力を一方的に奪った以上、ちゃんと育てる予定だが、他のパーティメンバーにはちゃんと確認をして(ry


 まあ、何が言いたいかというと、


「ちゃぁんと強くしてやるからなぁ?ユーリ?」

「普通に悪役の台詞なんだけど。」


◇◆◇


「つらい......」


SNSでのメンヘラ投稿の様な事を口走っているのは勿論俺だ。


 カムから言われた言葉が地味に精神を抉って、無気力症候群に陥っていた。


「ユーリ起きないし、ポストル、まだぁ?」

「まだッスね、あと一時間と少し掛かりそうッス。」


 暇だなぁ。

魔力もほぼ全部使い果たしてしまったから、遊ぶ事もできない。

 途中で病院に寄ろうと思ってるけど、お土産だけで何の成果も得られませんでしたって状態だからどうしようか。

 これならもうちょっと真面目に雑草とかを『鑑定』して、何かしらの薬を作れば良かった。


 ここ数年で作った物は、実用性に特化させすぎたあまり汎用性が著しく落ちた、いわゆる欠陥品ばかりだ。

 魔力回復に特化させた『ポーション』も、自然治癒力の向上に特化させた『ポーション』も、医療には欠片も使えない。

 それこそ、欠損部分を再生するような効果でも無い限り、需要は無い。


 かーっ、お土産はあるんだがなぁ。


「寝よ」


 と言いつつカム達の言葉に耳を傾ける。


「ハクはノアと幼馴染なんでしょう?何か思い出話してよ。」

「んー、昔は私がノァをボコボコにしてたんだけど、学園での闘技大会じゃ逆にボコボコにされちゃった。ノァは剣よりも拳の方が強いみたいだ。」

「へー。【無】属性の性質的に体術と合わせた方が便利だったのかな?」

「知らないけど、カムもノァと戦う時は気をつけた方がいい。最初から最後まで全力じゃないとキレるから。」

「えっ、なにそれ怖い。」


 そうそう、あれは闘技大会の時。

ハクが俺に寸止めで勝とうとしてぶちキレた。

 そこでボコボコにして、半泣きのハクが天使を召喚して、激戦の末勝った。

 思えばなんであの時覚醒しなかったのかがやや不思議だ。

あの時に覚醒が起きていたら、今のステータスも更に伸びていたんじゃないだろうか。


『そうでもないの。覚醒自体は成長限界を押し上げる為のもので、【幼児】で弱体化している状態では上限が通常の10分の1なの。それだと損じゃない?ってことで私の方から覚醒を抑制していたの。【称号】を堰き止めるのと同じ原理よ。』


 それを聞いて思ったんだが、例えば一般人が死にかけたとして、覚醒現象は起こるのか?


『起こるかどうかはその人次第。強い意志と覚悟があれば問題無く覚醒は起きるから、強くても覚醒しない人もいるし、弱くても覚醒する人もいるわ。』


 なるほど、だったらもしかしたら、プロミネンスドラゴンは5回もの覚醒を叶えたすごい覚悟の持ち主だったのかもしれない。


 あの時、プロミネンスドラゴンに覚醒が起きなかったのは幸運だっただけか。


「でー、その次の日に学園長のジジイがノァを退学にしたんだ。アイツ、グレイってやつにやたら肩入れしててさ、その事で呼びだされたんだよ。まあその更に次の日には、何故か二人が意識不明の重体で見つかったんだけど。」


 ギクッ


「ノアが犯人とは思わなかったの?」

「死んでるわけじゃなくて、ホントに廃人みたいな状態で、骨が砕けてるだけで外傷が無いっていうあり得ない状態だったから、人の犯行だとは思われなかったって。」

「へぇ。」


 うっ、カムの視線を感じた気がする。

まあ今の話を聞いたんだったら、その結論に至るのも納得だと思う。

 少なくともカムは俺の技を見ている。

 筋肉も皮膚も血管も避けて、骨だけを断裂させる事の容易さは、多分彼女が一番知っているだろう。


「マリナ先生って先生がいるんだけど、その人が一番ノァのこと心配してて、たまにその人の家の近くを通ると泣き声が聞こえるんだ。」

「へ~、面白い先生だねぇ。」


 ニヨニヨと笑うカムは、半透明な魔力の膜を通して俺のいる上を覗く。

自覚が無い訳じゃないが、困惑はしているのだ。


「ノァは強い。カッコいいけど、やっぱり強いのが良い。」

「あー、それは私も分かるぅ。」


 なんか脳筋女子どもが意気投合を始めたな。

はぁ、意識飛ばす魔力も残ってないし、ちゃんと寝るか。



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