148 閑話 中編
仮設住宅とでも言うべきか、簡素な木製の家から出て、外へ歩く。
その道中は殺風景というか、昨日より若干地面が下がっているし、そこで働いている100人の男は、同じ顔なうえに、光の灯っていない目で黙々と作業をしている。
炎天下というわけではないものの、この人達は24時間不眠不休で働いている。
普通に考えたら過労とかで死ぬと思うのだが、問題無いらしい。
曰く、ノアくんの『分身』で、実際に生きている人間ではないという。
「パパぁ!!」
「ぬっ、おお、ミア。おはよう。」
一人の男性を見つける。
黒い着物を着た、後ろで一本に纏められた黒い髪に、縦長の瞳孔が薄く見える黒い眼、健康的な褐色の肌。
年若いその姿からは想像もできないほどに貫録のある声と、異様なまでに似合っている着物が逆にアンバランスだった。
「レータもおはよう、まだ悪夢は見るのか?」
「ええ、今日は特に酷くて、ノアさんが死んだ時の夢を」
ノアさんがくれたチートの塊の中には、精神を安定させてくれるものもあった。
それなのに、未だに夢に見てしまうのは、何故だろう。
起きている時にパニックを起こすことは無くなったが、夜は地獄の様にうなされる。
「ミア、レータ、今日は魔物を狩ることにしようか。」
「は、はい。」
公国では、簡単な戦闘訓練だけしていたうえに、旅の途中ではユウタ達がバカスカ魔法を撃ちまくって倒すせいで、レベルが上がらなかったため、僕は未だレベル1だ。
◇ ◆ ◇
『レベルシステム』
『成長率上昇』40『精神安定』100『鑑定』100
レータ レベル1
HP:5/5
筋力:7
魔力:4
敏捷:5
忍耐:9
知力:8
幸運:10
適性魔法属性:【水】
加護:【無し】
◇ ◆ ◇
こんな程度で、余りにも低い、これが10点満点の評価なら、まだ良かったんだが、現実はそう甘くないらしい。
◇ ◆ ◇
ミア
HP:15/15
筋力:11
魔力:23
敏捷:18
忍耐:12
知力:11
幸運:1000
適性魔法属性:【水】
加護:【無し】
◇ ◆ ◇
ミアちゃんのステータスがこんな感じ。
この子のステータスを参考にした場合、僕は一般人よりも更に弱い事になる。
こんな程度じゃ、スライム一匹倒せるかどうか。
「人間の平均は500程度。得意な分野で700あったら優秀な方らしい。あの小僧は化物染みていたが、参考にする必要は無い。」
「そうはいきません。当面の目標はレベル100です。お願いします。」
もしかしたら、某モンスター捕獲ゲームみたいに、上限が100だったら、そう考えるが、それでも強くなれるならそれに越した事は無い。
例え、サナエの『エクスペリエンスシステム』よりも弱かったとしても、僕は強くなる。
強くなって、いつかノアさんに報いたい。
主人公のピンチに颯爽と現れるライバルポジションみたいな、そんな立ち位置で。
それが叶わない夢だとしても、今の僕には、十分なモチベーションになる。
「では、最初にコイツを殺してもらう。」
「ひゃっ」
ミアが可愛らしい悲鳴を上げる。
ブラックホールドラゴンさん......ブラドラさんの手元には、緑のドロドロとした球体があり、中には小さな核が見える。
「スライム?」
「そう、スライムだ。コイツを今から100匹殺せ。中の核を壊せば良いから、これをやろう。」
ブラドラさんは大きめのナイフを僕に差し出すと、さっさと刺すよう促す。
言われた通りに突き刺すが、核がひょいひょいと避ける。
五回ほど刺しても核には当たらないので、少し勢いをつけて突き刺した。
『ピロリン♪経験値を1手に入れました。』
脳内で音声が流れる。
しかし、次のレベルまでの経験値は流れなかった。
うわぁ。
「ほら、もたもたするな。まだまだスライムはいるぞ、ざっと999匹じゃな。」
「せ、1000匹も用意したんですか!?」
「おにいさんがんばれー。」
ミアちゃんは遠くへと離れ、僕は次のスライムにナイフを突き立てる。
突き立て突き立て突き立て、丁度10匹目。
『ピロリン♪経験値を1手に入れました。』
『テレレン☆レベルが2に上がりました。』
10匹目でレベル2、すごく長かったように感じるが、夢中だったからすぐだったようにも感じる。
レベルが上がったと同時に、全身がやや軽くなったように感じる。
◇ ◆ ◇
HP:7/7
筋力:9
魔力:7
敏捷:10
忍耐:14
知力:12
幸運:12
◇ ◆ ◇
「おお!」
全体的に上がってる。
筋力と魔力以外は全て二桁に到達した。
たった1レベルが上がるだけで、ここまでの成長ができるなんて。
「ほれ、残り990匹じゃ。はりきって行くぞ。」
この訓練の意図が分かった気がする。
レベルアップに必要な経験値の倍率を確認するためだ。
もちろん、そのまま増えていくわけではないだろう。
しかし、今はこのスライム達が、ただの経験値の様に見えて、少し気分が悪くなった。