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147 閑話 前編

 体を揺すられ目が覚める。

僕の意識は夢の中から、現実へと引き戻され、全身の不快感と激しい動悸に苦しむ。


「おにいさん?すごくうなされてたよ?」

「ああ、ありがとう。えっと」

「ミアだよ。なんど言っても覚えないんだから。」


 小さなその子は、黒い竜に保護されていた子供。

その出自は不明だが、黒い竜から離れたがらない。

 

 勇者と言われて持て囃されていたアイツらは、この子を保護しようと、善意で黒い竜を殺そうとしていた。


 僕も昔、同じ様な過ちを犯した。

僕の間違った正義が人を殺し、僕は人殺しのレッテルを貼られた。


 事実は違っても、結果的には間違ってない。

銃を撃ったのは銀行強盗だったが、それを撃たせたのは僕に違いない。

 今でも左手に残った弾痕が、時折疼く。


 ここを通り抜けた弾丸が後ろにいた彼に当たったのだから。


 それ以降の人生は僕にとって地獄だった。

学校では人殺しといじめられ、家では両親がヒステリックに僕を責める。

 鈍重な鉛を、全身にぶら下げて、心臓までもが地に引っ張られるような日々だった。


 それ自体は、この世界に来ても変わりなかった。


 僕は、偶然残っていた教室に突如として現れた魔法陣で、この世界へ転移させられた。

他人と関わらなくなって、現実逃避を始めた結果出会ったネット小説なんかでは、よく聞く舞台。

『異世界』というやつだ。


 僕を含めて、召喚された人間は8人(・・)

皆が皆、『システム』と称されるチート能力を持っていたが、やはり僕はこの世界でも腫れ物扱いらしい。


 与えられたのは『レベルシステム』なんていう地味な能力。

皆は訓練でステータスが上がるのに、僕は魔物を倒さないと、そしてレベルが上がらないとステータスが増えない。


 皆、といっても、2人を除いて僕を馬鹿にした。

そりゃそうだ。

 最初から魔法を使えて高ステータスの『ブレイバーシステム』

無制限かつ多岐にわたる種類の魔法が使える上、一万も魔力がある『マジックシステム』

 スキル、という魔法とは違う技を使える『スキルシステム』

物から魔法まで、自由に作れる『クラフトシステム』

 超演算力によって、複数の魔法を並行して使える『ハードシステム』

『レベルシステム』の上位互換、あらゆる経験を力に変える『エクスペリエンスシステム』


 その内、『ハードシステム』と『エクスペリエンスシステム』の所有者以外でパーティを組んで、公国からこっちの通称『南の王国』と呼ばれる場所に来ていた。


 僕等の目的は、この国の山で採れる『装鉱』と呼ばれる『装備品』を作ることのできる鉱石の採取、ファンタジー世界ならミスリルとかオリハルコンだと思ったのに、なんかガッカリだった。

 

 それを公国に持ち帰ることが目的だったのに、『ブレイバーシステム』のユウタが、勝手にドラゴンに挑もうとしていた。


 しかも、一般人を皆殺しにして。


 というのも、その山は既に攻略が済んでいたらしく、後に来たドラゴンの黒い竜と、その山のドラゴンを倒して土地権を手に入れた人のところの従業員が話し合いをして、子供が住める程度の場所を提供してもらう事になっていたらしい。


 それを見たユウタが、『ドラゴンが人間を使役して、小さな女の子を生贄として食おうとしている』と勘違い、身を摘まれるというか、首が絞められるというか、僕は非常に息苦しい思いをして、どうにかその勘違いを解消しようとした。


 僕の様な過ちはダメだ。

散々いじめられたが、こういった場面で、僕と同じ様な経験をしろとは思えなかった。


 しかし、僕の意見はあえなく黙殺され、ドラゴンに皆が魔法を撃った。


 一瞬の出来事。

公国の騎士が腰を抜かした極大魔法を受けたら、ドラゴンも生きてはいないと思った。


 それなのに、次の瞬間もドラゴンは生きていた。

思えば、魔法が着弾した時の轟音も無い。

 つまり、耐えられたわけでも避けられたわけでもなく、無効化されたのだと気付いた。


 その瞬間、僕はユウタ達の勘違いを解くことより、命の危機と、頭の警鐘が鳴り響く音を聞こえたことにより芽生えた恐怖に心を支配された。


が、焦ったのも一瞬、誰かの人影が見え、ちょっとだけ安堵した。



 そこからは色々なことがあって、僕以外のパーティメンバーは山から降ろされた。

僕達とドラゴンの間に入ったノアという少年が、僕のせいで死んでしまった彼だという事がわかり、ユウタ達を回収して下山して行ったからだ。


 僕は、もうあのパーティには戻れない。

あの時、何故かそのノア君は、僕にチート能力の塊を渡してくれた。

 

 それ以降、何故か黒い竜、ブラックホールドラゴンさんの所で居候をしつつ、狩りや土木作業なんかをして生活している。


 

 そういえば、彼に言いたい事があったのを思い出した。

僕達と一緒に召喚されたメンバーには、彼の妹(・・・)もいるのだ。


 次に会う事があったら、絶対に伝えなくては。

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