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目が覚めると......いや、このくだりもういいわ。飽きた。
全身がガッタガタに痛い。
腕とか形だけ整っているが、骨は繋がってないし、筋肉は断裂したままだ。
普通に激痛だ。
「ハクは?」
「ここ!」
寝惚け眼のまま、周囲を見渡す。
すると、手に持った果物を切り分けているハクの姿があった。
「怪我は?」
「大丈夫。ノァにそっくりな子が」
ああ、マキか。
『精霊戦士』も随分と魔力を消費するだろうに。
ご苦労さんだな。
「で。俺の勝ちなのだが、それでも連れ戻すか?」
「連れて帰りたい。けど、ノァは嫌?」
「んー、ハクに任せようかと思ってたんだが、勝ったしなあ。どうしたもんか。」
ハクが望むなら、学園に戻るのも吝かではなかった。
しかし、俺が勝った以上、ハクはその要求を出せない。
聞いた話では、ハクは今、生徒会に入っているらしいし、長く束縛する訳にはいかない。
とはいえ、まだ達成していない約束がある。
マリナ教師と結んだ『【無】属性への迫害を無くす』が、残っている。
んんん、ここまで強くなった事だし、同年代のガキ相手に、全力で『俺TUEEE』するのも悪くないな。
◇◆◇
「全く、私を蹴っ飛ばした事について、何か弁明は?」
「悪いとは思ってるけど、ノァと同衾していたのが悪い。」
同衾て。
確かに同じ屋根の下、割と頻度高めに会って、アド王国内での接触率はほぼ100%だが、ドラゴン討伐の二週間とかはいなかったし、恋人関係ではない以上、同衾とは言わないのでは?
いや待て、同衾だな。
それは同衾だ。
同棲との違いとかを検索エンジンで調べたい所だが、そんな便利なモノはここに無い。
もしかしたら迷宮の『アイテム』になら、そんな物があるのだろうか。
「私はノアと結婚するつもり。あなたとも仲良くしたい。」
「......ノァ?」
「そいつが勝手に言ってるだけだ。ただの先輩冒険者だから気にするな。以上。」
早口で弁明するが、ハクがそれを信じたかどうかは別。
ややぶすくれた顔で拗ねてしまったハクには申し訳ないが、多少有耶無耶にしていないと、逆に強行手段に出てくるだろう。
俺は朝食を作り始めて、ふと気付く。
「そういえば、ハクは学園に連絡をしてこっちに来たのか?」
「いや。ポストルが出てから、指輪の位置を確認しながら来た。」
「じゃあマズそうだな。今の生徒会長は誰なんだ?」
「ん?えっと、アレ。なんか、アレ。」
なるほど、覚えてないのか。
完全に興味の範囲外だったのだろうな。
「まあ、学園には帰っても良い。ただ、俺の事を知っている人間がどれだけいるかが心配だ。」
「多分、それは問題無い。ハイドルとレオンくらいだと思う。Sクラスはそのまま繰り上がったから、皆覚えてるよ。」
「そうか。」
流石に忘れられていたら悲しい。
とはいえ、ハクがこんな感じに育っているのだから、彼らも
「あ、別に皆私ほど強くないよ。私の方が100倍強い。」
「ってことは、うーん、平均は1000代か?」
一般的に考えたら優秀な部類。
30人近いクラスだったので、集団で考えればSクラスの名に劣らない。
ただ、あの生徒会長の方がもう少し強かったな。
1年と3年だからかな。あと2年で埋まる程度の差だろうか?
「じゃあ、ハクはなんでそこまで強くなったんだ?」
「ノァに負けたくなくて、色々やった。」
「色々?」
「ドラゴン倒したり、迷宮潜ったり」
ドラゴンかぁ......
多分俺より早いんだろうな。負けた気分だ。
それに迷宮まで。
超羨ましい。
「いつか、ハクとも迷宮を回ってみたいな。」
「うん!」
「で、帰るにしても、退学処分はどうなってるんだ?」
「現学園長が取り消してくれたよ。アルテラント学園長。」
そっちの名前は覚えてるのか。
......って、あれ?
その名前って、生徒会長の。
「人員不足を補うための措置だって。優秀で大人顔負けの生徒会長が、卒業と同時に就任した感じ。」
「へー。そういうのって年功序列とか、キャリアとか、そういうのが必要だと思ってたんだけど。」
「実績はあるし、アルテラントは侯爵家当主って立場でもあるから。」
へー、としか言いようがない。
才能の差を見せつけられても、ちょっとうらやましいくらいにしか思わない。
「カム、どうする?」
「ノァこそどうするの?『装鉱』は外に持ち出せない。『装備品』はもう良いの?」
「いぃや?まだまだ足りない。普通に俺の求める100%は完成していない。ってことで、『ボックス』に入れて持ち出す。」
「そりゃ、【無】属性魔法は周知されてないし、帝国なんかじゃ【無能】排斥主義なんて派閥があるけど、国の上層部はそれを知っている。特に、Bランク以上の冒険者なんかは、絶対と言って良い程に【無】属性を扱える。」
んん、そりゃそうだ。
法律に触れていないからって、バレなきゃ犯罪じゃない訳ではない。
で、ならどう解決するか。
「持ち出し禁止だろ?俺は持ち出さない。もちろん、他のやつに運んでもらうとかでもない。ただ、ここで作り続ければいい。」
「もしかしてっ!」
「いや、学園には戻るぞ?単に遠隔操作型の分身を置いて行くって話だ。」
もちろん、ステータスは魔力に振ってしまう以上、自衛はできない。
少なくとも、【無】属性魔法すら使えないし、技なんて使っても自壊するだけだ。
となれば、俺はどうするのが最適だ?
外付けで良い。代わりに俺の分身を守ってくれる存在がいればそれで良い。
「ホムンクルス作ります。」
素材?
ふふ、ふふふふ。
「ドラゴンの『核』でなぁ!!」