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ハクを殴り、ハクに斬られる。
俺が殴る度に、ハクはその隙をついて斬る。
先程とは打って変わって、完全に互角の戦いを繰り広げていた。
「破技『丁』」
正拳突きが『デュランダル』を打ち砕く。
「破技『己』」
衝撃波が、ハクの全身を伝って持ち手から『バラランドル』を砕く。
今までなら反動で、脱臼や骨折、内出血が絶えなかった『破技』も、簡単に連発できる。
ステータスという超次元の恩恵は、俺の技を加速させる。
「『イフォテント』!!」
二本一対の片刃剣。
壊れた剣の再召喚には時間が掛かるらしい。
というわけだから、前の二本が召喚できるようになる前に、この二本をぶっ壊す。
ただ、それでも大量に湧く剣を処理できなければどうしようもない。
さて、どうしたものか。
「闘技『万蛮爆磐』」
アホみたいな名前だが、これでかなりの高火力。
華乱枯乱みたいな、指だけ技と違い、本当に殴る為の技。
それを察したのか、ハクは『イフォテント』をバツの字に構え、防御の姿勢をとる。
ならばと、その交差している一点に焦点を当てる。
「すぃぃいいいいい。ぜあああああ!!!!!」
工程自体は、五行破技と対して変わらない。
全身可動は同じだが、一番大切な部分が足りて無い。
それを足した結果、反動で死ぬため、使えなくなった。
その要素が、中国武術的な意味での『気』。
氣と書いた方が分かり易いのか?
とりま、『気』で推進力を底上げする。
筋肉が膨らみ辛い俺達の体で、どうやって威力を出すのか。
そうした試行錯誤を行って、やっと出た結果なのに、死ぬ事になる。
一番最初に考えた奴は呆れていたらしい。
拳がハクの顔に当たると同時に、骨の折れる音が聞こえる。
ハクの頬骨が砕けた訳じゃない。
俺の手の骨が折れた音だ。
それだけじゃない。腕の骨も、肩の関節も、鎖骨も肋骨もバキバキに砕ける。
首が軋み、尋常ではない目眩と、平衡感覚の喪失が始まる。
チッ、足りないのか!?
殴られたハクは、その勢いで数十メートルを地面と平行に吹き飛ぶ。
徐々に、足先が地面に擦れて、ゴロゴロと回転して、自然と動きが止まる。
完全に気絶していた。
「勝った......がッ!」
勝利を喜ぼうかと思ったのだが、肺に肋骨が刺さってしまって、呼吸がしづらい。
吐血したのだが、そこまで重傷じゃない。
むしろ、反動が全身に回って、全身骨折と内臓破裂による死にならなかっただけ、まだ......マシ......
そこまで考えた俺は、勝利を噛み締めながら、気絶した。
◇◆◇
「オレ達のダチは、随分なイカレ野郎だなァ。」
「ぬしも大してかわらんだろうて。」
天使を処理したオレ達は、それぞれハクとノアを背負って歩いている。
平行して、ある程度の応急処置を行い、かつ魔力を流して自然治癒も促進している。
面倒な事この上ないが、死なれちゃ困る。
劣天使とかいうヤツは随分と大人しいが、コイツ訳わっかんねェんだよな。
名前に劣なんてあるクセに、ステータス上はどの天使より強い。
しかも、称号にある【転生者】。
なんだコイツ。
「......ぃ」
「ふむ。おいマキ、ジロジロ見るなと言われておるぞ。この助平め。」
「それもう世代じゃねェから通じねェぞ。」
「なぬっ!?」
「......ぉ」
「笑うでないわ!」
笑ってねェと思うが。
ってか、イムの野郎はなんでコイツの言っていることが分かるんだ?
同じ精霊なのに、なんか違うのか?
怖。
「ん。魔力が切れた。体が崩れる。イム。」
「うむ。ポーションじゃな。」
ダンジョンの『アイテム』ではない、ノア謹製の『癒善草』のポーション。
これを使って魔力を補充する。
回復量はちょっとだけだが、身体を維持するのには使える。
「『分身』ってェのは、魔力が自然回復するもんじゃねェのかよ。」
「ぬしの場合は、『精霊戦士』の消費魔力が尋常ではないのじゃ。むしろ、そこまで長続きさせたのは、ノアの尋常ではない量の魔力を、3割も注がれた結果じゃろう。」
まあ、『精霊戦士』は一分で500は魔力を消費する。
オレ以外で適応されるヤツがいない以上、一つに収束する魔力の量が多くなっても問題無いし、それだけの消費に対する恩恵もある。
パルエラさんは精霊じゃないし、イムはまだまだ信頼が足りねェ。
新参はそもそも使えない。ってことで、今の所オレだけだ。
実はもう一人、居なくはないが......
ソイツよりも、ノアはオレを頼るだろう。
ということで、オレがポーションをガバガバ使っても問題無い!