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『方舟の丘』に到着する。
プロミネンスドラゴンと戦って、ステータスが覚醒したこの地で、ハクとの再戦を行える。
いつまで経っても、俺は幸福に満ち満ちている。
「久しぶりだな。」
「久しぶりだ、ノァ。」
互いの魔力が、押し寄せ合う波の様に揺れる。
気配による先手の読みあいが始まり、緊張感が張り詰める。
「『混沌螺旋砲』!!」
「来い『バラランドル』」
漆黒の剣が現れる。
バラランドル?
聞いた事が無いな。
地面を抉り、不規則的に直進する魔力の塊は、十字に斬られる。
四散し、別々の方向へと散らばる魔力が、俺の姿を良い感じに隠す。
「......!」
「連技『銅鑼餓者』!」
剣を通して衝撃をハクに伝えようとする。
しかし、それは適わなかった。
その剣が何故か俺の拳を受け止めず、すり抜けてしまったからだ。
距離感が狂い、咄嗟に引くと、そこを追撃される。
「すぃいいいいああああ!!!」
「うおおおおらああああ!!!」
剣を拳で受けるという意味の分からない迎撃をし、『魔力拳』で『バラランドル』を防ごうとした。
それなのに、何故かその剣は、俺の魔力を透過して拳を二つに割った。
「透過の剣か。良いな、それ。」
「どうしたの?まだ私は全力じゃないぞ?」
俺は全力だよ。
いつだって全力さ。
「『魔力弾』!」
ある程度以上の実力者相手だと、最早『魔力嵐』等の撹乱は効果が無い。
そのため、ハクの隙を狙う一手ではなく、真っ向からの突破を目指すしかない。
しかもコイツ、【天国】属性による天使召喚も持っているため、ここで躓いては手出しもできない。
「ふぅうううう。」
呼吸を整える。
魔力に袖を通し、編み込みから繊維の様な精密な形状に。
「破技『丁』プラス『魔力拳』」
関節が外れる程の勢いを魔力でカバー。
推進力を強めて、衝撃の反動を最小化。
連発が可能となった正拳突きが、ハクの顔面を捉える。
「九」
「ぐぅおおお!!?」
九本の切り込みが、俺の拳を切り裂く。
その余波は俺の体へと侵攻し、腕を一つの肉塊へと変える。
「ぜあああ!!!」
「くっ」
肉片に成り果てた腕から、『魔力砲』を撃つ。
それが、ハクの頬を抉る。
奇襲じゃ足りない。
もっと大胆な一撃を。
「『螺旋魔力砲』!!」
「『デュランダル』!!」
黄金の剣と漆黒の剣の二刀流。
これを捌き切れるか?
否だ否。
できる訳ねェだろ。
『分身』でデコイを作っても、多分2秒と持たない。
二刀流が実践で使えないロマン戦法なんて、誰が言ったよ。
ボケェ。
「【竜化:プロミネンスドラゴン】」
『MWMWMWMWMWMWMWMW』
体が炎に包まれる。
熱が身を焼き、火傷から鱗が生える。
頭からは角が、背には羽が、両手は少し動かしづらいデカイ爪の生えた手になる。
「GARRRRRR!」
「覚醒!すごい!私はまだしたことが無いのに!ノァはすごいなぁ!!」
褒めの言葉が、俺に容赦無く突き刺さる。
覚醒した俺と、同等の実力を持っているくせに。
醜い嫉妬が、炎に反映され、身を包んでいた紅い炎は、涼しげな水色へと変化する。
「『魔竜砲』!」
貫通性は無くなり、竜の顔の様な模様が浮き上がる『魔力砲』
威力自体は『混沌螺旋砲』と『螺旋魔力砲』の間くらいだが、消費魔力は『魔力砲』以下という、破格のゲロビ。
「!?これは!」
切り裂こうとしたのだろう。
ハクは剣を振り切れず、数メートル後方に仰け反る。
そりゃそうだ。
繊維程度では切り裂けただろうが、金属みたいな密度と結合具合なら、そう簡単には貫けまい。
「『魔竜拳』!!」
竜の拳に、魔力を纏わせ、『魔獣鎧』の要領で形状を整える。
一発限りの時間稼ぎで、呼吸を整え、脈拍を整え、魔力を整える。
「『デュランダル』ぅぅぅううううう!!!!」
剣が『魔竜砲』をぶった切り、その衝撃波が俺に当たる。
そよ風程度のその波が、俺にダメージを与える事は無い。
「GIIII。GYAAAAAA!!!!」
目の前が赤に染まり、全身から漏れた魔力が槍状に伸びる。
「『魔力拳』『イフォテント』『イース』!!!」
ハクの周囲に、大量の拳が生成され、対になっているであろう二本の片刃剣と、大量の小太刀のような絶妙なサイズの西洋剣が握られる。
これがハクの研鑽の結果か。
「IIIIIIIJJJAAAAAAANNNNEEEEEEEKKKKKAAAAAAAAAA!!!!!」
十本の槍を伸ばせば、十本の剣が受け止める。
百本なら百本。
実力は拮抗している。
かに思えるが、少しだけ俺が押している。
そう、少しだけ。
俺は全力だが、ハクはまだ、天使達が残っている。
つまり、俺は確実にハクに劣っているのだ。
そう理解した瞬間、全身を包んでいた青の炎は、通常の紅へと戻る。
「GYAAAAA!!!!」
『魔力槍』を自動操縦にし、拳を握る。
ついでに『魔力斧』『魔力拳』『魔力弾』『魔力砲』で大量の弾幕を張る。
「VIIIOOOOOOOO!!!!」
ここからは近接戦だ。