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帰り際、やはりただの脳震盪では足りなかったらしく、杖女と詠唱無口女が目を覚ました。
「は!?魔力がすごい減ってるんですけど!なんで!魔法も全然使えないし、あんた何やったのよ!」
「......これは、どういうこと?」
お?詠唱無口女が喋った。
杖女はマジで話通じないしな。
そっちは防音しておくか。
「お前らのチート能力はレータに渡した。なーんとなくだが、お前ら別の問題とか起こしてそうだし、レータの話に同情したからだな。」
「......返して。」
「無理だな。魔改造してしまったから、恐らく元のシステムには戻せない。」
これについては、杖女と学園長のチートが同じ名称だったことから、恐らくは次のチート持ちに流されて、その枠が埋まっている故だろうと思う。
つまり、例えば『マジックシステム』なら、学園長が死んだ辺りでコイツらが召喚されたのだろう。
たしか、公国だったか。
んん、王道を往くなら北の方の王国だと思ったんだがな。
あっち方面は獣人差別も多くて、他国への侵攻を考えている王族も割と多かったはずだし。
「......どうすれば。」
「正直、俺のやった事は相当な理不尽だと思っている。が、それが出来るだけの力が俺にあって、お前らには無かった、それだけだ。」
「......」
「もう二度と、一切レータに関わらないと誓うなら、少しだけ手助けしてやる。具体的に言えば、ステータスを上げる手伝いをしてやる。」
「......誓う。けど、この三人とは別に扱って。ちゃんと三人に聞いてからにしてほしい。他三人が断っても、私はそれを受ける。」
なんかペラッペラ喋るようになったな。
......いや、会話速度と思考速度が合わないタイプなだけか。
少し共感できる。
「あのチートは要らなかった。『クラフトシステム』なんて、性に合って無い。」
「そうか。そういえば、あの光の剣男の言っていた事だから忘れてしまった。名前はなんだ?」
「ユーリ。ガサイ・ユーリ。」
ガサイ?ああ、我妻か。
しかし、肝の据わったヤツだな。
未だ宙吊りの状態なのに、無表情で俺と話している。
「俺はノア・オドトン。お前らと違って転生した日本人。そう言えば分かるか?」
「分かる。今流行りの『俺TUEEE』でしょ?」
「違う。俺はチートを持ってない。知識なんていう大したことの無い助走をつけただけのパンピーだ。」
「......なら、なんでそんなに強いの?」
なんでって、そんなの決まってるだろ。
「努力」
「......は?」
「体を鍛えれば筋力が、魔法を使えば魔力が増える。そんな風に増えるステータスを丹念に育てて、色んな方法を使ってステータスを上げてる。今はアド王国の『装備品』を手に入れるため。もしも間に予定が入らなければ、次は北の王国に行って、迷宮で『アイテム』を手に入れる。強くなる為にできる事を沢山やってきた。」
「それは、本当の事?」
「事実だ。この世界はインフレが激しい。一般人は三桁程度のステータスでありながら、冒険者を対象にしたなら、低ランクでも4桁以上がゴロゴロいる。」
1000という数字は、一見大した事が無いように見える。
だが、よく考えれば、俺は生まれてからこの数字を越えるのに、5年以上掛かっている。
つまり、一般人よりも成長速度は遅い。
大人であった記憶があっても5年掛かる。
それは最早、【無能】の域。
開始が0歳か10歳かの違い。
だからこそ。
「お前らみたいな異世界人には、システムではなく仕様として、ステータスの上昇率が上がる特典が付与される。それに、俺みたいな無能はそこまでいない。きっと俺よりも高速の成長ができるさ。」
「......わかった。」
それ以上は特に何も語らず、俺達は静かに下山した。
◇◆◇
「おっ、おかえり~。長かったねぇ。」
「完全な素材を手に入れるのに随分掛かってしまった。遅れて済まない。」
出迎えてくれたのはカム。
俺の分身は見当たらない。
「マキなら奥でまだ作業中。」
「そうか。こんな掛かるなら、ポストルに頼んで不要『装鉱』を送ってもらえばよかったな。」
「全く以てそう思うぜェ。お陰で『嫌いな色』だけじゃなくて『好きじゃない色』と『嫌いじゃない色』まで使いはたしちまった。」
つまり、白と黒以外全部使ったってことか。
どんな物を作ったんだ?
「戻れ。」
「ハイハイ。」
分身と融合することで、記憶が統合される。
ほんほん、ふんふん。
「9割が仲間用で、5分が失敗、5分が偶然の大成功か。」
なら。
「ポストルッ!!」
「はいッス。」
軽やかな風が流れ、その場に真っ黒な細身の化物が現れる。
我が家の郵送用ホムンクルス『ポストル』。
「マキがお前用に作った『装備品』だそうだ。」
「え、良いんッスか?」
「マキも俺もお前を見ている。これからも活躍してくれ。」
「て、照れるッス。」
『よせやい。』
デレデレしている二人を横目に、記憶通りに装着させていく。
「これと、これをここに、あとはこれで、???これどうやって接合するんだ?」
『ああっ、それはだな。』
少し戸惑いながら、ポストルの体に更なる加速が追加される。