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 陰鬱男の顔には見覚えがあった。

知り合いかと言われれば、そうであるしそうでもない。


 だが、ある意味で複雑な関係の中である相手に俺はにこやかにこう告げる。


「久しぶり。俺の事覚えてるか?ほら、銀行強盗、銃、うっ頭が」

「ひ、ひ、ひぃぃぃいいいいいい!!!」


 記憶に残っている彼とはまるで違ったので、少し思いだすのに時間が掛かった。


なんせ、割と整っている顔はそのままだが、自信あり気に銀行強盗に立ち向かった時の光り輝く表情はまるで無く、視線はやや下に、目の下の隈と変な挙動から、雰囲気がガラリと変っている。


 髪はぼっさぼさだし、顔や腕などの露出している部分には、漏れなく引っかき傷と青い痕がある。


 範囲を見ると、自分の手の届く部分だけ。つまり背中にはそれらが無い。『ロケーション』で確認した。


「ゆ、許して。僕は、僕はただ、まも、まもりたかっただけなんだ。」

「落ち着け落ち着け。どうしたんだ?俺が死んだあと何があった?」

「はっはっはっはっ。......君が、僕のせいで死んだあと、僕は色んな人に責められた。」


◇◆◇


 過呼吸気味に、少しずつ話す陰鬱男。


その話は、実に興味深いものだった。


 どうやら、俺が死んだ原因の彼を、ネットや周囲の人間は徹底的に叩き尽くしたらしい。

住所は特定され、親は彼を勘当し、彼と親しかった人間も、軒並み離れて行ってしまったそうだ。


 味方は一人もおらず、遠く遠くの高校へ引っ越しても、『人殺し』と迫害は止まらなかったそうだ。

結果、彼はストレスから自傷行為が止まらなくなり、人の目を気にする挙動不審な状態になり、不眠症に悩まされていると。


「舐めやがって。」


 ふつふつと怒りは湧いてくるが、ぶつける相手はいない。


「お前、名前は?」

「ウメグチレータ。」

「レータ。単刀直入に言うのなら、俺はお前に恨みが無い。」

「......え。」

「事実として、あの突っ走る行為は間違いだったが、唯一の被害者である俺は一切気にしていない。死者に対して罪悪感を抱くのは自由だが、周囲の声はお前を責める権利を持つか?」

「......」

「分かるだろう。俺の言葉はお前に今までかけられた全ての言葉より価値を持つ。だからこそ、もう気にするな。」

「......っ」

「俺な。この世界に転生した時、お前に感謝したんだ。俺は運が良くて、偶然転生できただけだから、人が死ぬ事自体を肯定する訳じゃないけど、お前は悪意で行動したんじゃない。結果論だが、俺はそれに感謝している。だからもう良い。」

「......本当に?僕は」

「俺は許した。だから次に生かせ。後悔の時間はもうおしまいだ。」


 地面に着いている手を無理矢理掴んで、強引に立たせる。

こういう時、俺だったらいつも、『なんで許すんだよ』って野次を飛ばす側だったんだけど。

 なんでだろうな。


「コイツらに未練は?」

「......無い。」

「なら、ブラドラと一緒にいてもらうか。」

「へ?」

「この月光の山はこれから『黒渦の山』に改名。そこの幼女とブラドラと、レータの住居になる。」

「うむ、その男は我に手を出さなかった。故に構わぬ。」

「ってことだ。レータ、お前は『信頼される人間』になれ。大切な人間が出来れば、自分の中に確固たる正義が生まれる。そうすれば、多少は気も楽になるだろ。ってことで、ブラドラと修行しつつ、この幼女を守れ。」


 勝手に仲間に加えたが、レータも拒否しないのでそのまま進める。


「差し当たって、餞別だ。」


 『魔力壁』から伸ばした棒で、勇者四人の意識を刈り取る。


『『ブレイバーシステム』『マジックシステム』『スキルシステム』『クラフトシステム』を獲得しました。』


 分解、統合、采配。


「ちなみに、お前のチートは?」

「......『レベルシステム』。倒した魔物の数と強さで、ステータスが段階的に上がる。」

「良いチートだな。俺はそういう『努力が報われる』のは好きだぜ。それに、お前にも合ってる。」

「...合ってる?」

「お前はこれから、少しずつ償うつもりなんだろ?なら、その償いとレベルは比例する筈だ。頑張れよ。」


 掌でこねくり回したチートの塊を、レータに丁度良い形へと変形させる。


『成長率上昇』40『精神安定』100『鑑定』100


 んん、上出来だ。

この玉を、レータの胸に押し当てる。


「うっ、これは?」

「チート改造だ。【無】属性を極めればこれくらいできる。改造チートじゃないからな?間違えるなよ。」

「は、はい。」


 そう言って、俺は100体の『分身』を置いてその場を去った。


◇◆◇


「ぬしは、複雑な過去を背負っている様だな。」

「......はい。でも、大丈夫です。もう、大丈夫......」


 俺が去った後、レータは鼻水が垂れるくらい号泣した。


「おにいちゃん、悪い人じゃない?」

「うっ、うう、うううん。」


 純粋な瞳がレータのささくれた心を削る。


「あたし、ピピ。よろしくね。」

「うん、よろしく。」


 だが、その研磨で、綺麗になれる心もある。


「とりあえず、住める場所を探すか。」

『それなら、俺達が家を建てる。』


 こうして、ブラドラとピピとレータと、100人の俺分身による、奇妙な生活が始まった。


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