127
『精霊戦士』には二つのメリットと三つのデメリットがある。
メリット一つ目は、本体の意識が無い時に、十分な安全を得られるという事。
二つ目は、精霊が強ければそれだけ強い効果を得られる事。
デメリット一つ目は、戦闘力の低下、俺の技は使えず、大量の魔力も使えない。
デメリット二つ目は、その間にもどかしくて仕方ない、交代には少しのインターバルが必要になる。
デメリット三つ目は、純粋にマキの口が悪すぎる。
「ハッハハハァ!!どうしたよクソトカゲェ!年齢差はお前とノアの比じゃねェぜ!ぅおらぁ!!」
「ぬぅ!?うってかわってちょこまかと!」
体がブルンブルンと跳ねる。
ピエロでもこんな動きはしない。
そんなレベルで躍動感あふれた戦いをするマキに、困惑を隠せないプロドラ。
「アレだなァ。ノアは蹴りを使わねェんだよなァ。それが原因でこんな風になるんだよなァ。ちゃんと蹴り技も使えよなァ。」
うっせ、苦手なんだよ。
「って事でよォ。喰らえ2000、『魔力砲』ゥ!!!」
光線が地面を抉りつつ、プロドラに押し迫る。
「先に撃った魔法の方が威力は高かったぞ。それでは、無駄な魔力の消費で、意味など無かろうて」
「やっぱ馬鹿だなてめェ。当たってみりゃ少しは気付けたかも知れないのによォ。」
俺は知っている、2000はブラフ。
完全な嘘。
今の『魔力砲』に込められた魔力は200にも満たない。
その為、撃たれた『魔力砲』の中は空洞で、パイプの様な形状の魔力が直線的に進んだだけだ。
「全部使ったと思えば、そりゃァ油断するわなァ。」
地面から大量の『魔力槍』が突き出し、プロドラの手足に僅かな傷をつける。
「傷が付いたら十分。てめェみたいなヤツにゃ、こういう傷から破滅が訪れるんだぜェ。」
『魔力槍』は魔力へと変換され、傷口を覆って抉り取る。
「ぬっ!」
瘡蓋が剥がれた時の様に、血と肉が少しずつ剥がれる。
地味すぎるダメージだが、確実なダメージを与える事に成功。
急所にはならないが、有効打を与える為の的が出来た。
「ふんっ!!」
しかし、全身から魔力を放出して『魔力槍』もろともマキの魔力を霧散させられ、その余波で俺の体は吹っ飛ばされる。
「よっしゃ、交代だな。」
そう、交代だ。
◇◆◇
「猪口才な真似を!」
「はっ『魔力砲』!!」
「ぬう!!」
プロドラは俺の『魔力砲』を今度は受け止めたものの、中身が詰まった『魔力砲』に大きめのダメージを喰らう。
「ちぃっ、GYAAAAA!!!!」
痺れを切らしたのか、プロドラは一瞬で元の姿に戻ったものの、その体には人型での傷と同じ位置に傷が残っており、そこから少し、真っ赤な血が流れていた。
「GYA、GYA、GYA。GYAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」
しかし、本来のドラゴンの姿になった筈のプロドラは、またしても発光を始め、その輪郭は徐々に小さなモノへと変形していく。
「また、人型に?いや、そんな事する必要が、どういう事だ?」
マキの後ろで色々見ていたが、プロドラはどちらかと言うと、俺を殺すというよりも俺を指導しようとしていた。
そうなると、不要な部分を見せるとは思えない。
『魔力砲』自体も、人型の際にも問題無く受け止めていたし、ダメージも多くなかった。
『念話で失礼するぞ。今から、儂の最終形態を見せる。それまでに、あと3つ程変身する必要がある。それまで待ってくれ。』
「俺はプリ○ュアの敵みたいに、変身を待ちたかないんだが、師匠が」
「待ちなさいねー!」
「って言うから、M字ハゲの如く待つしかないんだわ。」
そう言うと、プロドラの放った光は徐々に変形し、竜要素の多い人型に変形。
「うおおおお!!!」
「GYAAA!!!」
「うおおおお!!!」
そこから、更に厳つい竜に変形、更に竜要素の多い人型に変形、そして、最終形態という、二足歩行の竜に変形する。
あれ、あれだ、ロボット的な非生物感溢れる形態だが、その体の動きの滑らかさからは、明らかに生物的なモノを感じる。
「第三ラウンド、か?」
「うむ。往くぞ。」
バリィィイイイイイインンン。
という破裂音と共に、俺の意識は一歩、暗黒へと足を突き出し......