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「......ッチ、だめか。」
五体の分身が様々な技で翻弄しようとした。
それなのに、全然技が通らない。
まるで、受身全振りの連技みたいな、不快な受け流し技。
嗚呼、気色悪い。
アレだアレ。
柔道とか合気道とかの演武を見せられている時みたいな、不自然なくらいの吹っ飛び方。
「駄目だな。勝ち筋が見えない。生徒会長との戦いよりも、勝利が希薄だ。ゴブリン・キング並みに、いや、それ以上か?ああ?」
『分身』達が時間を稼いでくれている間に、魔力の回復と『ストック』の増加。
最も勝率の高い方法の模索と大量のイメトレ。
「これしか思いつかねぇんだよ。最効率」
「ふふっ......ッッ!!?」
魔力を編み込む。
三つ編みみたいなただの編み込みじゃない。
規則正しさとか、滑らかさとか、そういうのは一切合切無視した。
部屋の隅で絡まった電源コードの様な魔力の線を、更に束ねて。
「『混沌螺旋砲』」
グチャグチャな魔力の波動が、カムに押し迫る。
受け流し技にはごり押しが良い。
ごっちゃごっちゃになった魔力を受け流す?
無理無理。
防波堤だってヤバい津波には負ける......よな?
いや、壊れたら意味無いし、負けないのか?もしかして......
「......っぶなぁ!」
「あああ!?」
服のあちらこちらが破れて、色々ときわどい状態のカムが、ほぼ無傷の状態で出てきた。
かすり傷はいくつかあるが、それでも決定打には至っていない。
嘘だろ?
前回魔力の10倍をぶつけたんだぞ?
「密度は悪くない。発想も良き良き。けど、無駄が多過ぎるかな。」
「無駄......?」
「効率的じゃないんだよ。多分、10倍も要らない。私の受け流しを封じるなら、今のやり方で2倍が良い所。だから、10倍使った魔力を、奇襲とか丁寧な制御に回せばよかったんだよ。」
目から鱗、ではない。
滂沱の鱗が目から垂れ流れるレベル。
そうか、俺は、ただの自称効率厨。
ちょっと便利なやり方を見つけただけで『効率厨なんだな~』とかのたまう。そんな奴だったのか。
「......違う。『魔力弾』!」
魔力を1消費し、小指の先程度の小さな弾を作る。
それは、ただの無駄なあがき。
諦めない意思表示を、時間経過で回復したたった一つの魔力に込める。
「なんて、思ったかよ、ばーか。」
息切れた様子も、魔力が枯渇して倒れそうな様子も、全部が全部嘘という訳じゃない。
事実、普通の魔力の10倍を使って、渾身の一撃を喰らわせた。
けど、残存魔力が1とは言って無い。
相手が勝手にそう思い込んでいるだけ。
だって、本体魔力とストック魔力を合わせて237万じゃない。
ストックが237万。つまり、本体魔力はまだまだ残ってる。
じゃあ、何で魔力を感じない?
そんなの簡単で、俺が常に魔力を垂れ流してたせいだ。
流れ続けた蛇口が閉められても、水はまだ残っている。
けど、蛇口を知らない人間が見たら、水はもう無いと思う。
つまり、そんなただの錯覚。
そして、【無】属性だけが行える【無】属性魔力の強み。
それは、魔力がまだ魔力であること。
【火】であれば、火になった魔力が消されてしまうと、火を再燃することはできない。
【水】は魔力にして霧散させられない。
【風】はただの原子の流動に。
【土】はただの原子の塊に。
つまり、【無】属性には、他の属性にある不可逆性が一切ない。
自分の手元を離れても、問題無く扱う事が出来る。
そゆこと。
「......やばぁ。」
「『魔力嵐』」
闘技場内に大量の『魔力弾』が出現。
それは、一つ一つが意志を持つかのように、縦横無尽に飛びまわる。
一つ二つではない。
ほぼ使い果たした魔力全て。
地面に当たったり、カムに掠って無くなったりした分を除いた約200万の弾丸がカムの周囲を旋廻する。
霧の様にすら見える『魔力弾』の嵐。
一発一発が貫通属性。
細胞レベルで削り取る。
「一斉に捌けるのはいくつまでだ?10か?100か?1000でもまだまだ足りないぜ。どうだよ。これだけの数だ!」
「ががっ、ぐっ、ううっ」
「すぃいいいいあああああああ!!!!!」
駄目押しに『倍加』と『分身』で嵩増しと近接戦。
勿論、分身の俺にもダメージは通るが、まあ技の反動よりは少ない。
「あああ!!」
「喰らえェエエエエ!!!!」
渾身の『魔力砲』を撃ちこ―――
視界がぼやけた。
鮮明さを欠いた、ポリゴンの様な情景。
パズルのピースが一つ一つ崩れて行き、本当の光景が目に入る。
「いやぁ、まさかそんなことされるとか思って無かったよ。参った参った。魔法使っちゃったから、私の負けかぁ」
そんな風にヘラヘラ笑うカムには、一切の外傷が無く、周囲に展開していた『魔力嵐』も、ただの魔力として、未だ空中を舞っていた。
「これは......宿での。」
「そう。とはいえ、あれは私の属性の複合型。今使ったのは【幻覚】属性っていう【固有】属性で、君に使ったのはこの【幻覚】と【睡眠】って【固有】と、【治癒】【安息】【芳香】っていう【水】の【特殊】属性を混ぜた物。」
「構成だけ聞くなら、バフ特化のサポーターだが、あの受け流しはなんだ?」
「あれは君も知っているはずだ。【無】属性魔法さ。私の持つ属性は基本的に戦闘では使い物にならない。だから、魔力だけを操作する術を学んだにすぎない、厳密には魔法じゃないってことだね。」
いるとは思っていたが、こんなに早くに出会うとは思っていなかった。
なんせ、この世界には【無】属性なんて殆どいない。
俺が今まで会ったのも、2人程度で、自主的に【無】属性を使うなんてしているのは、目の前のカムか、学園のSクラス共だけだ。
「ということで、魔法を使わせた君には、私に同行する義務を与えよう。」
「そこは権利なんじゃないのか......」
そのまま、試合に勝って勝負に負けた俺は、場内で横になって眠りについた。
ま、気絶したんだけど。