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オッサンとの激闘は、俺の敗北で終わった。
結局、5割『魔力砲』は直撃したのだが、貫通したのは左肩部分で、撃った直後に斧の側面でブン殴られ、気絶した。
ガチ敗北した。
......くそっ
◇◆◇
「ヒヤッとしたが、なんとか勝ったぜ!」
「ロッサムさん!!?最終技と『装備品』まで使った癖に何勝ち誇ってるんですか!危うく殺すところだったんですよ!?」
「いやぁ~、死ぬかと思った!アイツ怖えもん。めちゃくちゃ物騒な魔法バンバン撃ちやがるし、普通に闘い方もうめぇ。本当に10歳なのか?」
「はい。ステータスも確認させていただきました。年齢とステータスの桁が異常でしたね。」
「ほう?どんなだった?」
「......これバレたら怒られるんですけど、最高値が魔力の7800でした。あの年齢だったら、その10分の1でも優秀なほうですよ。」
「エグ。じゃあ、最後の一発は、全力だったのか。それなら納得だな。」
受付嬢とロッサムの話を聞きつつ、カムは俺のいる部屋へと入ってくる。
顔面の腫れは引いているが、若干まだだるい。
「なんで出し惜しみしたの?」
「は?」
「君はもっと別の技を持っていたはず。それを使えば、十分に渡り合えた。」
「斧を相手にするなら、俺の技は有効打にならない。武器破壊系は全て鉄製を基準になっているため、『装備品』に効く確証がなかった。」
「へー」
カムの返事が耳に付く。
恐らく、カムなら余裕であのオッサンに勝てるのだろう。
しかし、だからと言って自分と同じレベルを求められるのは困る。
「君も私より強くなれないのかな?」
「知らん。強くなっても結婚する気は無いぞ。」
「その時は全力で捕まえてでも結婚させるから。」
怖。
久しぶりに命の危機以外で恐怖を感じた。
この執着具合、ベクトルは違うけど、イキシア姉を彷彿とさせる。
ちょっとゾッとした。
「ということで、根性無しのノア君は、一カ月間私の弟子ね!ハイ決定!」
「ちょ、いきなりそんなこと」
「拒否権は有効に発動しませんでした。君は強制されることになります。」
チッ。
聞く耳を持たない。
しかし、こういう強者に師事するのは良い経験になるのか?
んん、少しだけなら......
「用事がある時だけに絞ってほしい。俺はあくまで『装備品』の入手の為にこの国に来た。」
「んー、それなら良い職人を紹介するよ。来る?」
「じゃあ一応。」
「んー?人に頼みごとをするときは?」
「お願いします。」
「よろしい!」
こうして、割とめんどくさい感じのコネクションを手に入れたが、どうなるのかが凄く心配だ。
◇◆◇
「ということで、次は私と闘うよ。」
「は?」
目を覚まして、まだ10分も経ってない。
それなのに、カムは俺に勝負を挑んできた。
ポーションでの治癒は完了しているが、精神的に結構キツい。
それに、俺の手の内は殆ど見られている。
不利も不利、圧倒的不利。
「ハンデとして、武器無し、防具無し、魔法無しで行くよ。つまり素手で戦うってことね。私は回復使わないけど、君は幾らでもつかって構わない。えーっと、あとなんかあるかな。」
「ここまで分かり易い挑発をされたのは初めてだ。」
怒りでブーストし、魔力を煉り上げる。
粘土が高まり、形を変え易くする。
とにかく、この自信たっぷりの態度を打ち砕きたい。
その為に、何をすればいいのかを考える。
まずは、定石潰しからか。
「『魔力拳』『倍加』」
6本の魔力製の腕が出来上がる。
それぞれ、前腕部のみの腕で、技を出せるのは直接腕に重なっている2本だけだが、『魔力弾』よりも実用的な接近戦スタイルだ。
「『魔力砲』!!」
腕2本がそれぞれ、カムに対して『魔力砲』を撃ち出す。
通常であれば、魔法無しの相手には圧倒的過剰殺傷力。
いわゆるオーバーキルになるのだが。
「んは。直線的すぎるって。」
一つ微笑むと、カムは両手をだらりと垂らす。
それは、脱力なんて次元ではなく、筋肉も骨も無くなってしまったかのような、究極的な弛緩。
その両腕を刈り取るような2本の『魔力砲』は、カムに直撃し。
そのままあらぬ方向にねじ曲がって飛んで行った。
「惜しい惜しい。次は当たるかもねっ。」
「チッ『螺旋魔力砲』!!」
直線放出だった『魔力砲』に、捻じれを加えた『螺旋魔力砲』。
今までの『魔力砲』が釘だとしたら、『螺旋魔力砲』はネジ。
叩くのと回すのとでは、貫ける長さも抵抗力も大きく違う。
「そうきたかー。でもまあ、やっぱり微妙だね。」
そんな渾身の一撃も、何故か地面に叩きつけられる始末。
「『分身』!」
五人の分身を創り出し、特攻を仕掛ける。
その間、本体の俺は集中を高める。
「破技『甲』」
「邪技『凩』」
「破技『鬼殺し』」
「破技『己』」
「邪技『千戸破り』」