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アド王国は、他の国々と密接な関係を築いている特殊な国で、地球における中国とはまた違うベクトルの、『世界の工場』といって憚らない立場にある。
というのも、この世界において、『アド王国以外』の国では、武器や防具等が作れない。
いや、鋳造した様な模造品は作れるけど、『装備品』は作れないのだ。
その、量産品と『装備品』の違いは、ハッキリ言って『ステータスへの加算』。
通常の剣や盾は、持っていた所で大した効果を得られない。
対して、アド王国製の『装備品』には、『筋力+30』や、『魔力+400』など、種類や性能はピンキリなのだが、ステータスを増加してくれる効果がある。
とは言え、俺のメインウエポンは拳。
それも、グーで殴るだけでなく、パーで弾いたり、チョキでブッ刺すこともする様なタイプなので、基本的に装備をつける事はできない。
つけて簡素な指輪程度なのだが、本気で握ったら握力で指輪千切れるし。
いや、ファンタジー鉱石ならワンチャンあるかもしれないか。
まあそこは要相談って感じで。
なんなら、足や胴なんかにも装備がつけられるらしいし、かさばらず、動きが阻害されない程度につけられる様に調節するか。
ただ、実はもう一つ、アド王国に関する特徴として、
ファンタジー世界特有の、『亜人』という、人間っぽい動物的なアイツらが治めている国らしく、場合によっては『獣国』と呼ばれる事もあるらしい。
そのため、俺はこの二年間、あの国に近寄れなかった。
正直、確証は無い前世の話なのだが
俺、動物アレルギー激しいんだよね。
前世だと、目がかゆくなって、くしゃみが止まらず、皮膚にかなりの発疹が出たのだが、今世のこの体で、アレルギーが出るかは分からない。
が、もしかしたらアレルギーを意識することで、プラシーボ的なアレでまた苦しむかもしれないから、『忍耐』のステータス値が10倍になるこの年まで待っていたというわけである。
その間も、ちゃんと基礎ステータスを上げたり、色んな国を回ったりしたのだが、特筆する事は無かった。
「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫」
歩きつつ顔の前に手で三角を作る。
ちなみに、もう既に国境に来て、入国審査の列に並んでいる。
バンディッド砂海を経由しているのに、こちらにも行列ができているということは、やっぱり列に並ぶのが面倒で、こっちに回って来ている人間が多いということなのかな?
「んあ?君、見た目の割にステータス馬鹿高いじゃん、どゆこと?」
「あ?」
突然声をかけられ、反射的に振り返る。
そこには、猫の様な耳をした獣人の女が立っていて。
「あばばばばば。」
「ちょ!?どうしたの!?」
俺は盛大に泡を吹いて倒れた。
◇ ◆ ◇
それから、なんやかんやあって一応関所を越える事ができたのだが、このケモ耳に介抱されたらしく、知らない天井で目が覚めた。
「もしかして、獣人苦手なカンジ?ごめんねぇ話し掛けちゃって。」
「いや、大丈夫だ。どうやらアレルギーは出ないらしい。」
見たところ、関節部から末端部にかけての発疹も、首のかゆみも無い。
鼻も詰まってないし、目も痒くない。
ふふ、ふははは!俺はアレルギーを超越したぞ!
まあ、とはいえ、モフモフとかには興味無いんだけど。
「急に倒れて迷惑をかけた。」
「多分私が原因なのは分かったから、大丈夫だよ~。ところで、君の名前は?」
「ノア・オドトンだ。一応10歳になった。」
「おー、じゃあ一人前だ。私カム・ヒぺリ。Aランク冒険者だよ。」
「A......らんく?」
A?
Aってのは、あの、ABCのAか?
恋人同士の順序でいう所の手をつなぐのAか?
いやいやいや、普通に冒険者のランクだろう。
いや、それなら尚更あり得ない。
というより、認めたくない。
これは、一体どういう事だ?
◇ ◆ ◇
カム・ヒぺリ 15歳
HP:89000/89000
筋力:125000
魔力:45000
敏捷:220000
忍耐:96000
知力:80000
幸運:500
適性魔法属性:4
加護:2
称号:5
◇ ◆ ◇
俺の『鑑定』はまだまだ未熟。
二年間の内に、適性と加護と称号の数までは見られる様になったが、それでもまだ、それによる倍率までは見通せない。
つまり、今見えているのは完全な基礎ステータス。
純粋な自力の数字。
「以前見た、Aランクとは、全然違う......」
「え?あーもしかして、Aランクパーティのこと?んー、ちょっと説明が難しいけど、君なら分かるかな?」
カムは少し逡巡し、話を続ける。
「Aランクパーティは、君の見た事がある数値が平均値だと思うよ。けど、私はAランクのソロ。その差は分かる?」
「人数だけじゃ、ないのか。」
「その通り、というより、それだけでもかなりの差があるわけ。例えば、9人のパーティに一人加わるとどうなる?」
「今まで9等分だった報酬が10等分になる。」
「そうだね。つまり、一人分増えると、他の9人がちょっと楽になる。見張り番、荷物持ち、前衛、後衛、中衛、サポート、タンク。色んな役割を分担するから、超効率が良くなる。」
そりゃ、パーティっていうのは、そういう物だから......
「じゃあ、それら全部を一人でやってるソロってどんな感じだと思う?」
「......!」
「ずば抜けた実力が無いと、普通に死ぬよね。でも私死んでない。つまり?」
「......あークソ。そこまで想定してなかった。」
ソロとパーティじゃ、圧倒的に個人のステータスが違う。
考えてみればその通り。
決して彼らは、酔狂や道楽でパーティを組んでいる訳じゃない。
ソロじゃやっていけないという自覚があるから、それを補うためにパーティを組むのだ。
「そりゃ、強いわけだ。」
「そうそう。そういう事。」
「......俺と」
「ん?」
「俺と闘ってくれ。お願いします。」
物を頼む態度じゃないのは知っている。
だが、今はそんな事どうでも良い。
俺は、見くびっていたAランクよりも弱い事が判明した。
なら、それを覆さなければいけない。
無駄な努力にはしたくない......
「大丈夫?辛そうな顔をしているけど。」
「大丈夫だから、俺と」
「んー、ダメ、だね。」
カムは俺の願いをあっさりと断り、部屋から出ようと背を向ける。
「君は若いんだから、もっとゆったりしても良いと思うな。何をそんなに急いでいるの?」
「は......?そんなの......」
なんだコイツ。
意味が分からん事を言って、何故拒否するんだ?
「そもそも、一般人と冒険者が交戦するのは、原則禁止なんだから、せめて冒険者になってからね。」
襟首を掴んで引き止めようと、手を伸ばしたのに、あああ?
意識が、クソ。
そういう【固有】持ちか......