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目を覚ますと、目の前には凶悪な顔をしたゴブリン・キングがいた。
どうやらさっきのジャーマンから、数秒も時間は経っていないらしい。
流石は時神。
「邪技『鎖寅』」
自分より上の位置にいる相手に当てることができる技。
上段突きやアッパーカットよりも更に腕を伸ばす、靭帯に凶悪なダメージを残す技。
腕の関節をバラバラに引き剥がし、それを伸ばすズーム○ンチ。
本家と違うのは、そこから更に、相手の皮膚と骨を掴み上げ、自分の元へと引き寄せる。
重力と筋力の合わせ技なのだ。
因みに、これは掴む部位によって『○寅』となる。
今回は鎖骨を掴むため『鎖寅』だ。
「『魔力強化』!」
地球では、その五指による食い込みが、獣に噛み付かれた様に見えるという理由で『寅』が付くが、こっちの世界じゃ、そんな簡単な理由付けにならない。
魔力が牙を成し、食い込んだ指は皮膚を切り裂き、皮膚越しに掴んでいた鎖骨を、直接掴む事になる。
「ありがとな、キング」
最初の時の様な不快感はどこかへと消え去り、俺は爽快感と共に、キングの顔面を殴る。
その度に掴んでいる右腕は鎖骨を引っ張り、パドルボールの様にバゴンバゴンと何度も殴る事ができる。
こんな技は無い。
本来『鎖寅』は、服を着ていない相手に対して、背負い投げ等の掴み技をかけるためのもの。
そんな技を殴る為に使うと、普通に肘と手首が死ぬ。
「破技『己』」
左手も関節が外れ、無限(比喩)に回転してキングの頬を殴り抜く。
その速度は徐々に加速し、首、胸、鳩尾、額、頬、こめかみと、様々な箇所を穿つ。
更には、ゴムの様に、一度目と二度目、偶数と奇数の回数で右回転と左回転に別れる。
それは、不規則的な衝撃をキングの全身に与え、各関節部が、ぐにゃぐにゃに捻じれる。
「ぜああああああ!!!」
「GGRRRAAAAA!!!!!」
俺の雄叫びとキングの断末魔が、森の中に響く。
渾身の一撃。
ふざけた回転の中に、一直線の拳を叩きこむ。
それはまさしく、噛み合った歯車に爪楊枝を刺すかの様な、隙間の縫い方で。
キングの心臓部を一直線に抉り取った。
「まあ、脈拍なんか無いわな。」
その手には、一個の核があった。
◇◆◇
キングとの死闘を終え、緊張感が切れても、俺は気絶しなかった。
アドレナリンは切れて、両腕は痛いし、魔力も若干底をついている。
しかし、『分身』との視界は共有できているし、人間の方も結構な数が減っている。
あんな激闘があった間に、たった半分しか削れてないのは不服だが。
「魔力残り200かぁ、『魔力砲』は燃費が悪いんだよなぁ。」
ポーションを飲み、腕の回復と魔力の回復を同時に行うも、両方に均等に配分されるため、効果は若干薄い。
腕の事は考えないようにして、その場に倒れる。
そう言えば、ポストル遅いな。何かあったのか?
あ、いや、噂をすればだな。
「ノアさん、戻ったッス。って、なんスかこの状況!?え、ゴブリンの親玉、生きてたんスか!?」
「丁度良い。そこら中にあるゴブリンも、纏めて一ヶ所に集めてくれ。山になる位でいいから。」
ポストルに指示を出し、そのまま地面に倒れ込む。
ポーションを全身に浴び、目を閉じて集中する。
「ポストルが無事ってことは、ちゃんと街には伝えられたって事で、仮にも虚偽申告で捕まるなんて事は無いだろう。となると、キクスに任せているアスタと共に、両親は街へ避難させられたか?距離はそれなりにあるが、『分身』の俺も付いてるし、顔パスでどうにかなるか?うーん。」
一応、全ての『分身』は俺の身体的特徴をほぼ完璧にコピーして出る。
その瞬間のコピーなので、骨折をしていたらそれが反映されるし、基本的な見た目は変わらない。
しかし、完全自律型は俺と視界を共有せず、制御が完璧でない代わりに、本体と同じくらいの性能を持っているという長所がある。
そのため、要らない事を両親、特に母に言っている可能性がある。
さてどうしようか。
んー、怒られるのは嫌だし、公国にでも行って、この軍勢を刺し向けた貴族ぶっ潰すか。
でも、敵の強さとか分かんないし、一旦『分身』を潜入させるか?
んん、どうしたものか。
「ヨシッ、修行するか。」
安心して修行に臨む為に、現在両親に付き添わせている『分身』は消さない。
そのままアスタの教育係として残しておこう。
定期的な供給の為に、ポストルを連絡役にして、『分身』達に各地のマッピング。
【幼児】が外される予定の二年後までに、基礎的な部分を鍛えて、色んな【称号】を伸ばす為に、『ゴブリンズ』に更なる追加メンバーを用意。
戦闘系以外の【称号】を育てさせて、並行して、街で俺の家族が平穏に暮らす為の基盤づくりに、生産系によって安定した収入を得る。
その為には、『ゴブリンズ』と同様の方法、少数の指導者と、それに教育される大勢を用意する。
この数日内に作ったホムンクルス達は街の警護をさせる為に、ポストルにギルマスとの顔合わせをさせる。
キクスも置いて行こう。
自律型の『分身』なら、十分にキクスを制御できるはずだし、雑兵や雑魚の相手なら、ゴブリン数体分の力を持ったホムンクルスが軽くこなすし、強敵が出たのなら、キクスが自動的に殺してくれる。
街の防衛に関して、外からの防御は完璧。
あとは、もしも権力者につけ込まれそうになったら。
ギルマスがどうにかしてくれるのを期待しつつ、一応連絡をとって確認するくらいはしておこう。
さて、思い立ったが吉日。
俺達の戦いはここからだ!
ご愛読ありがとうございました―――★!!
嘘やで。
最終回ではないけれど、少し間が空く事になります。
理由としましては、リアルの方が忙しいのと、消費がストックに追い付いてしまった事ですね。
ぶっちゃけ、これから半年以上忙しいので、週投稿か、月投稿かになってしまいますね。
しかも、それだけ間が空くのに、一話の内容は変動しなさそうなので、自分の実力の無さに涙が出ます。