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『バラハル大泉湖』は、水深1500m、広さ直系2kmの超巨大湖。
一般的な湖の100倍近い大きさで、一度だけ潜った事のある、本当にただの湖だ。
名前の由来は、この湖に沈んだ古代帝都だとか、幻の巨大魚だとか、色々だが、単に、ヤベェ水たまりなのだ。
さて、そんな場所に、何故ゴブリン達を押し流したのか。
まぁ、簡単に言えば『溺れたら大変』だからだ。
生き残った大量のゴブリン共が、湖に大きく沈む。
死体となった者は、湖を彩る汚い緑と化すが、生き残った者は、どうにか岸へ上がろうと、必死に手を掻き水を掻き、生を求めて泳ぎ出す。
まあ、そんなのを俺が見逃すはずもなく。
「魔力弾回収&融合。」
粘土の様に、1個にぐにゃぐにゃと固まった魔力の塊は、まるで一つの巨岩の様になり。
「溺死って、死因の中じゃ苦しい方に分類されるらしい。なんせ、苦しさのせいで簡単には意識を失わず、肺が水塗れになって、全身に酸素が共有されなくなって、初めて死ぬらしいからな。」
その『魔力塊』は、徐々に徐々に薄く広く伸び、その内、湖全体を覆う程の大きさになった。
「一瞬で死ねた奴はラッキーだったなぁ。なんせ、お前らは自分の強さ故にこんな事態に陥り、自分の強さ故に苦しむ羽目になる。」
そのピザの生地の様に広がった魔力の膜は、ゆっくりと、空気が入らない様にぴっちりと貼る湿布の様に、湖に蓋をした。
「溺れながら魔法を使えるヤツが何体いる?お前らの肺活量はどれくらいだ?」
魔力が自然に消える頃には、ここは死体の湖と化しているだろう。
だが、問題は無い。
この湖には魚類が一匹もいない。
何故かは知らないが、きっと、この湖の最深部に居る何かの影響だろう。
その何かがゴブリン共を喰らい尽くすか、溺れ死ぬか、二つに一つといったところだろう。
というか、万に一つも生き残らせるつもりは無い。
さて、帰るとするか―――――
「ノアさん!別方向から大量の人間が出現しましたッス!身形から、他国の騎士。おそらくは公国の内のどっかの貴族の者ッス!」
「総数と進行方向は」
「全部で5000人!山のある方向から、街へ向かって一直線ッス!」
例のリポップ盗賊共の発言と、今までの襲撃との共通性。
盗賊を先鋒としたら、間を抜いて中堅。
出て来ない大将はこの際無視しよう。
「国際法なんて、この世界にあるとは思えないし、多分あったとしても、戦争をしていない他国に、ここまで大量の戦力を送り込むなんて行軍以外ありえないし、少なくとも民間人を巻き込んだ様な行軍は明らかに侵略行為だ。人道的倫理的にも間違っている。」
ということで、そいつら全員ぶっ殺そう。
魔力残量 1020 ストック2000
問題無い。
数で言うなら、ゴブリンの方が多い。
ん?でも人間の方が防御が固いじゃないかって?
HAHAHA、鎧や甲冑なんて、障害物ですらないさ。
「貫通性、自動操縦、優先破壊[眼球]、『魔力弾』」
今までは銃弾の様な形だった『魔力弾』が、徐々にライフル弾の様に変形。
数はそこまで多くないものの、一発一発の威力はかなり高く、薄い鉄の板なら容易に貫通させられるほどに成った。
「できるだけ逃がさず、顔も見せたくない。俺が【火】属性を使えられたら、何ら問題は無いのだがな。」
そうすれば、鎧も残さず消し炭にする。
......のは勿体ないから、死体は燃やして鎧甲冑は鋳造する。
それも無い物ねだりなので、一定数量以上は残して、後は折り畳みで勘弁してやる。
多分50個くらいなら持って行ってもバレんだろ。
「並行して作業を行うか、ポストルはできるだけ全力でゴブリン共の死体を回収してきてくれ。俺は湖の奴が死んだのを確認してから、そいつらでホムンクルスを作る。」
半分ほどに薄くなった魔力膜は、完全に静まり返っており、生き残りは一匹もいないだろう。
「ん、1/4撃破、やっと防御態勢を整え始めたな。第二フェーズ移行、一撃で倒せなかったヤツは積極的に足を狙え。逃げ出す者が出始めたら第三フェーズだ。」
口に出す必要は無いが、そっちの方がイメージを明確に持てるというメリットがある。
ポストルが回収してくるゴブリンと、湖のゴブリン。
両方をどういった風なホムンクルスにするか。
『ゴブリンズ』の様な【称号】育成要員ではない以上、特別な何かを欲する事は無いが。
んんん、そうだな。
「試しに、才能の有無なんかを操作できないか確認して―――」
「BAAAAARRRUUUUUKAAAAAAAAMEEEEEEE!!!!!!」
バリンという硬質な破裂音と共に、湖から一匹の王者が飛び出してきた。