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両親を確保するために、ゴブリン達を一掃する。
弱体操作型は、弱体自律型に変更し、ゴブリンの死体を回収させる。
それを、家の前で待機させている自律型にホムンクルスの材料として提供する。
距離が近くなるにつれ、両親監視用の『分身』の視界が鮮明になる。
父の傷は全身に渡り、特に利き手の右手は、肩から肘にかけてが大きく斬られ、肘から手首は無数の刺し傷が出来ていた。
母は父の怪我を抑えて、片手でどうにか服を破ろうと四苦八苦していた。
恐らく、破った布で傷口を抑えるつもりだろう。
一応、母は簡単な【火】属性、父は【土】を使えるため、傷を焼いて塞ぐことは出来るものの、パニックでそこまで思考が追い付いていないのだろう。
あと500m
......あと300m
「『魔力弾』!」
両親の周囲にいるゴブリンを、遠隔の『魔力弾』で暗殺する。
音はあまり立てていないので、一定範囲のゴブリンだけを殺して、警戒網に穴を開ける。
「父さん!母さん!」
「の、ノア!?なぜここに!危険だから、帰りなさい!」
「そんな事言ってる場合じゃないよ!あっちにゴブリンのいない道があるから、そこから逃げよう!」
二人に軽くポーションを掛けて、傷口を薄く縫合する。
切り口が壊死しないよう、傷口はくっつけても、がっちりとし過ぎないよう。
俺にする場合は根性でどうにかできるが、一般人が、ただの糸を無理矢理皮膚にねじ込んで、傷を縛るなんて感覚、耐えられる訳が無い。
というわけなので、痛みの中にまぎれさせる程度の超細の糸でくっつけ、それを布状の魔力で固定した。
「はやく!」
「おう!」
「アスタは!?大丈夫なの?」
困惑していた母は、アスタの心配をし始める。
「家で待ってる。キクスが守ってくれてるから!」
二人に、走る為の補助を巻き付け、そのまま来た道を走って戻る。
『魔力弾』による殲滅は順調に進んでおり、随時追加を投入しているため、ゴブリン自体の数はかなり減って来ているが、それでもまだまだ一割を切っていない。
何故ここまでの量のゴブリンが、これまで確認されていなかったのかが不思議でしか無く。
これまで数日に渡って侵攻してきたゴブリン達は、ただの先兵だったのかと思うと、少しゾッとする。
これに、別の魔物が混ざっていたら、多分俺では対処しきれない。
ポストルに伝達を頼んだが、ちゃんと受け取ってくれているかも、まして信じてくれているかも分からない状態。
できれば、アスタと両親には、街の方へと避難してもらいたい。
「......『分身』」
完全自律型で、且つ魔力系を強めた分身を、俺に成り変わらせる。
二人がこちらに気付いていないことを確認して、俺本体は別行動へと移る。
「『一点集中』『イワシの群れ』」
技名の通り、約1500個の『魔力弾』が、群れを成して直進する。
感知しているゴブリン共の軍隊を、その『魔力弾』群が穿つ。
龍の様に縦横無尽に敵を倒す『魔力弾』は、時に分裂し、時に回転を加え、勢いを衰えさせないまま、蹂躙を繰り返す。
取りこぼしや、はぐれが出た場合は、捜索用の『分身』が狩る手筈になっている。
そして、これからこの軍勢の頭を、遠距離攻撃で叩きたいわけだが。
周辺に被害が出ないよう、最も効率の良い方法を考える。
火力の高い魔法は、木々をなぎ倒したり、周囲に悪影響を与えるので使えない。
ということで『魔力砲』は却下。
恐らく、『魔力弾』は並みのゴブリンに対してのみ有効。
例えば、魔法を使えるゴブリンが居た場合、対処は容易。
『魔力剣』や『魔力斧』などの『魔力武器シリーズ』は、純粋に遠距離攻撃としての性能は期待できない。
手元を離れると、途端に『魔力弾』と同じ威力になるため、空気抵抗とバランスの悪さから、『魔力弾』の下位互換に成り下がる。
最早遠距離はやめて、直接殴りに行きたいのだが、未知の要素が多過ぎる。
仮に、俺一人では対処できなかった場合、相当なリスクを背負うし、伏兵や懐刀なんかの、強い仲間がいる可能性も高い。
というより確定で居る。
中心部になれば、それだけ個体の力は強まる。
なら、逆に考えれば良いのさ。
「魔力弾回収!」
自身から遥か上空に大量の『魔力弾』を旋廻させる。
敵軍減少数は3割を切った。
「ちょっと悪い事するぜ!」
『倍加』の魔法で、弾数が2倍、内包魔力が1/3になる。
唯一変化が無いのは、外見の大きさだけだ。
「即興魔法!『魔力津波』!」
質量だけは一丁前にある『魔力弾』の波は、弱いゴブリンなら圧殺し、中級以上のゴブリンはダメージを与えつつ押し流す。
低い位置での発動なので、木々の幹にしか弾は当たらず、貫通性ではないため、幹に傷は残らない。
まして、細かさと軽さから、水よりも圧倒的に危険度が低いため、草木に影響は無い。
そしてこの先、森の更に奥にあり、このゴブリン達が恐らく避けて通ったとされる、あの場所。
『バラハル大泉湖』