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朝食を済ませ、アスタと一緒に、昔ハクと使っていた森の広場へと向かった。
最初はただの拓けた場所だっただけなのだが、俺とハクが闘う余波で、徐々に平らに、大きく広がって行った。
「まずは、基本の【無】属性魔法を使う練習をしよう。」
「おにいちゃんはつかえるの?」
「使えるよ。」
試しに、そこら辺にある石を『サイコキネシス』で持ち上げる。
次いで、『ボックス』から適度な大きさに切られた木を取り出す。
「魔法に必要なのは、大きく三つ。一つは魔力。」
全身から魔力を垂れ流し、アスタの全身に当てつける。
向かい風に当てられた様に目に力を入れるアスタはマジ可愛いが、それは関係無い。
「二つは細かな動き。」
持ち上げた石と木をぶつけ合い、人型に削る。
フィギュアの経験は無いが、木製人形やマネキンなんかだったら、作れなくは無い。
「す、すっごい!」
「魔法ならもっとすごい事ができるよ。【無】属性は、他の属性に比べると難しい魔法なんだ。けど、これがマスターできたら、他の魔法も簡単に扱えるようになるはずだよ。」
「最後に必要なのは知識。火がなんで燃えるのか、水はどうやってできているのか。これらが分かれば、魔力の変換効率もグンと上がる。」
とはいえ、そこら辺は基礎だけで、探求はアスタの好きにさせようと思う。
必要なのは、アスタがどんな魔法が得意なのか。
「俺は属性を持ってないから【無】属性を極める事しかできないけど、アスタはいっぱい属性を持っているから、自由に選べるよ。」
「アスタ、おにいちゃんといっしょがいい。」
あー、それは
「ちょっと難しいと思うよ。なんて言うのか、【無】属性は魔法じゃないんだ。魔力で直接物を動かしてるから、カッコいい魔法は使えないんだ。」
なんせ、基本的にやってるのは魔法で殴るだからな。
場合によっては『クリア』で簡単に消えるし。
「じゃあまほうつかう。」
やっぱり年頃の子には、派手な言葉がよく響く。
魔力で物理的に殴っている俺のやり方は、正直あんまり真似してほしくない。
アスタにはもっと上品な魔法の使い方をしてほしいのだ。
いつか学校に入学して、闘技大会とか魔技大会で活躍する日が来たなら。
お兄ちゃん、全力で応援するからね。
「とにかく、色んな魔法を使うには、魔力がいっぱい必要だし、それを操作するのに慣れなくちゃいけない。というわけで、限界まで魔力を放出しよう。」
アスタの魔力を俺の魔力で引き摺り出す。
それによって、アスタには魔力を放出する感覚を掴んでもらい、そのまま限界値まで引き出させる。
「これをずっと続ければ、アスタの魔力は格段に上がるはずだ。」
「うん!がんばる!」
天使はどうやら、既に喋りながら魔力を出すという技を身につけたらしい。
さすがだ。
◇◆◇
かれこれ一時間ほど、未だにアスタの魔力は枯渇していない。
魔力が放出されているのは感覚として把握しているのだが、何故かその勢いは、一切衰える事無くただ開きっぱなしの蛇口の様に垂れ流される。
一応、直ぐに魔力が無くなる様に、一秒に100消費するくらいで調節させていたのだが、全然枯れない。
どういうわけなのかと、アスタのステータスを見ると、幾つかの驚愕な箇所を発見した。
◇ ◆ ◇
魔力:54933
『増殖』『最適化』発動中
【魔女】【魔女王】【超魔法使い】【魔法王】
◇ ◆ ◇
魔力が20倍以上になっており、【固有】属性には、現在どれが使用中かを示す表示があり、称号が四つも増えていた。
俺の想像をはるかに超えた魔法特化ステータスを、アスタは5歳にして持ち合せているのだ。
「アスタ、あと10分間、そのまま魔力を流して。それが終わったら、次の段階に入るとしよう。」
「わかった!」
さて、10分でアスタの育成論に、大幅な修正を加える必要があるのだが、まずはどこから変更しようか。
......
............
..................
「ヨシッ決めた。1日3つの属性を、基礎だけ固めてくか。」
【固有】を除いた【特殊】属性達を育てさせる。
それについては、ハクやSクラスの為に何度か調べたので、問題無い。
【固有】属性は、共通性のある物が程度により似た様な魔法になる事は立証されているが、しかし、ちょっとの差で大きく使い方が変わる事もあるらしく、適切なトレーニングは本人でしか把握できないらしい。
ということで、詳細が完全に不明な【神】以外を教えて行くとしよう。
「はいっ、じゃあまずは、【氷結】の魔法を使ってみよう。」
『パイロキネシス』の応用で、周囲から熱を消失させる。
少し蒸していた森の空気が、一瞬で凍りつく。
「これは【無】属性の応用だから、そこまで温度は下げられないけど、【氷結】属性の魔法ならもっと寒い状況が作れるはず。やってみよう。」
温度が下げられれば結晶を創れる。
魔力の扱いは直接魔法の操作に関わり、その精度を高める。
「ぐふっ」
「きゃあああ!おにいちゃん!」
どうやら、膨大な魔力が冷気になった影響で、吸った息が肺を凍らせてしまった。
そのため、無理矢理肺を動かして呼吸をしたため、割れた氷で肺が傷付き、吐血してしまった。
「HAHAHA、大丈夫。もっと凍らせて良いぞー?」
「う、うん。」
自分の周りだけは温度調節をする。
しかし、それ以上に周りに広がる冷気は、草木の水分を凍らせ、空気中の水分を可視化させた。
吸う息だけではなく、ちゃんと全身を覆う空気を調節しなかったら、恐らく今頃は、俺の四肢が壊死していただろう。
さぁて、楽しくなってきた。