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大量のゴブリンで作ったホムンクルスの卵は、完全物理特化の脳筋仕様となっていた。
しかしながら、意味不明の回転を初めて30分、未だに孵る様子は無く、俺は周囲の片付けと、警戒を並行して行っていた。
「ガキ!これを離しやがれ!痛い目見たいか!」
「俺達のトップは公国の貴族と太いパイプがあるんだぞ!」
やかましいんじゃ。
仲間の死体がゴロゴロあって、よくそこまで威勢良く叫べるな。
両親にはあんま見せたくない光景なんだけど、コイツらの叫び声で起きないかな?
とりあえず昨夜辺りから家の周りに張ってあった魔力の防護壁が、良い感じに防音になっているっぽいし、二人の体内時計が朝を示す前に片付ければ良いか。
血の跡は綺麗に無くなったのだが、盗賊達の死体は、一部を除いてまだ残っている。
実は、ゴブリンを纏める時に、若干混ざってしまったのだ。
とはいっても、その量は2割程度。
頭がまるっと残っていたら、本人確認くらいはできるだろうし、足りない情報はコイツらが話すだろう。
問題は、どうやってちゃんと素直にするかだな。
「足と手を落して、自殺が出来ない様に歯を抜くか?」
『それじゃァ、ショックで廃人になるんじゃねェの?』
『舌を焼くのは窒息の可能性と、自供が出来なくなるのを防ぐ為じゃな?』
「でも、適切な拷問なんて、難しい話ッスね。」
『そうでもねェだろ。いかに恐怖を与えるか。飴と鞭だな。』
『どこかの誰かさんは、そういうの得意でしょ?』
『わ、妾は別に、拷問をしていたわけではないぞ!』
聞き逃さないぞ?
ワイワイガヤガヤと意見が飛び交う中。一つだけ明らかに違う者が混ざっていた。
「産まれたならそう言ってほしい。」
「やっぱ空気を読むって大切じゃないッスか。だからちょっと隠れようかと。」
「とりあえず全裸で居られるのは困るから、服を着ろ。」
『自作布』を投げ渡すと、そのホムンクルスの名前を考える。
とはいっても、ホムンクルスに対しては、ちゃんと方向性を決めて名前をつけているので、実はコイツにも既に考えてある。
「ポストル。お前の名前はポストルだ。」
「いい名前ッスね。とても気に入ったッス。」
どことなく学友の一人を思い出す口調だが、その見た目は明らかに違っていた。
全身大火傷で一回心肺停止した彼は、ちゃんと元気でいるだろうか。
ポストルは一言で言うなら、ロリコン高身長化物のアイツにそっくりな体型をしていた。
異様に細長い手足は、一本だけで俺の身長に匹敵する程で、やや浅黒い肌は、ゴブリン達の緑の肌が重なり合って濃くなっているのが良く分かる。
胴体と四肢の長さ関係が完全に破綻しており、人類がそんな形状を取ろうものなら、運動能力がマトモに保たれる訳が無い程に歪だった。
更には、よく目を凝らすと、その手足と胴体部には、緩衝材の様なバネがうっすらと浮かんでおり、骨の部分がまるっとバネになっている様な、そんな見た目をしていた。
なんか、コイツだけホムンクルスの中で奇抜な見た目してんな。
「お前には基本的に、物の輸送や運搬を頼みたい。できるか?」
「お任せください。自分の手足の緩衝材は、その為の物ッスから。」
あー、そのためね。
やっぱホムンクルスって改造可能なのか?
謎が深まる。
「あっ、特殊能力とか見ます?」
「え、見せて?」
突然特殊能力とか言うから、少し驚いて素に戻ってしまった。
しかし、ポストルはそんな失敗を打ち消す様な、衝撃的な能力を見せつけられる。
「こんな風に、手を生やせるんですよ。」
細い胴体から大量に出てくる細長い無数の手。
本物より若干色が濃いその腕達は、最早......
「ガチスレンダーマンやんけ!」
◇ ◆ ◇
とりあえず、ポストルの戦闘能力が完全皆無で、運動能力と運搬能力に極振りしたホムンクルスなのが判明した。
盗賊達はポストルの異形を見た瞬間に意志喪失しており、簡単に黙らせる事ができた。
「じゃあ、これを街に持って行くッスね。」
「そうしてくれ。」
タイムリミット残り30分程。
辺りに充満している鉄の臭いは『サイコキネシス』で掻き消して、辺りの血は近場の水を集めて流す。
肉片等の大きな塊は、一個に纏めて『ボックス』へ。
折れたり掘り返された木は......
良い感じに切って薪にまぎれさせるか。
あぶれた分は、『ボックス』行きだな。
「あっ、おにいちゃんもうおきてる!おはよー!」
「おはよう!!」
天使が早起きをしていた。
予定よりも急ぎめに片付けてよかった。
アスタに呼ばれるままに家に入り、朝食の準備をすることにした。
こんな大きい集団が襲い掛かる様なら、ちょっと対策するか。