108
「おにいちゃんにまほーをおそわりたいんだけど、だめ?」
駄目じゃないです!
と即答しそうになった口を抑える。
俺も、ノア・オドトンとしても、アスタに教えるのはやぶさかではない。
しかしながら、俺にも目標がある。
妹の頼みとはいえ、これを蔑ろにするわけには。
「だめ、なの?」
「ちょ、ちょっとだけな?一週間くらいしたら、お兄ちゃん旅に出るから。」
妹には勝てなかったよ。
まあ、人に教える事は、回り回って自分の復習に繋がるわけで、決して無駄な事と言い切れるわけでもないから、多少予定をズラしても構わないかと思う訳ですねハイ。
「俺が教えられるのは基礎の部分だし、お兄ちゃんが通えなくなった分をアスタに残すから、学校に通えば良いんじゃないかな?」
「???」
あっ、あんまり理解できてない顔だ。
「まあ、できるだけは教えるよ。」
「やったー!」
「だから、今日は一旦寝て、明日に備えよう。」
「はーい!」
元気良く自分の部屋に駆けるアスタを見送り、両親に視線を向ける。
「アスタのステータスは、俺達には見えなかった。」
「他の人と違って、靄が掛かったみたいになって見えなかったの。」
「それでもやっぱり、お前には見えたのか?」
少し悲しそうな二人の顔を見て、ちょっと申し訳なくなる。
「アスタは、いわゆる天才という部類で、魔法も剣も総合的に高かったイキシア姉さんと比べると、圧倒的な偏りが見られた。多分、道を逸れたら矯正はできない。」
「イキシアにもお前にも何もやれず、アスタに教育もできない、不甲斐ない親ですまないな。」
「そんな事無いよ。俺は、女兄弟に挟まれてるけど、楽しいし、産んでくれた二人に感謝してる。」
本心である。
二人は、前世を含めても稀に見る『良い親』である。
放任主義な訳でもなく、厳格主義なわけでもない。
俺がこんな歳で旅に出るのを見過ごすのは、無責任なのではなく、理解があるという事なのだ。
迷惑をかけているとは思っているが、それでも俺は止まれない。
「イキシアは元気にしてたか?」
「してたよ。元気すぎてボコボコにされたけど。」
「ははっ、元気みたいだな。」
笑われました。
だがまあ、確かにあの姉の第一印象からすれば、ボコボコにするくらいが元気良くて結構なのかもしれない。
......次は絶対勝つからな。
「アスタの教育について、七日間って制限はつくけど、それくらいで基礎はいくらでも付けられると思う。あとは学校に通わせて、一般常識とかコミュニケーション能力を育む。七日間はスパルタになるけど、過度な暴力なんかは絶対しないから。」
「そこについては心配していない。ノア程妹が大好きな奴が、訓練と言えどキツく当たれるとは思ってないからな。」
「むしろ、ちゃんと教えられるかが心配よね。」
それは俺も心配なので、今のうちに育成プランを練っておこうと思う。
それに、アスタには近接護身用に、俺の技を数個、伝授しようと思っている。
◇◆◇
ベッドを用意して、アスタの事を考える。
見えた分だけでも、大量の上位属性や【固有】属性があった。
本来の【火】【水】【風】【土】【光】【闇】から派生する【特殊】系は、基本的に本人の精神構造や生活環境などで変化してくる。
が、それとは別に、比較的割合の多い【平均特殊】と言えば、アスタの持っていた【氷結】【治癒】【錬金】【病気】が当てはまる。
しかし、【影】【神】については、【平均特殊】ではない。
【固有】に分類されない以上、その二つは【特殊】なのだが、どんな本にも載っていなかった。
とはいえ、俺には前世の記憶という圧倒的優位性がある。
ということで、そこから予測を立てるのなら、【影】は、影の中に入ったり、自分の影を操って物質化したり、相手の動きを止めたりできる様な魔法になるのだろう。
しかし、【神】?
ハクの【天国】属性みたいなものなのか?
それとも、本当に神に関連する力が得られるとか?
抽象的な神の能力なのかもしれない。
具体例を上げるなら、死者蘇生、不治の病を治す。物質の創造、世界の創造などである。
でもなぁ、そんなエゲツない属性が、ただの【光】の派生だとは思えないしなぁ。
かと言って、こんな初歩的な段階からパルエラ達を頼るのは情けない。
何より、アスタが俺を頼るのなら、頼もしいお兄ちゃんにならねば。
「加護は三つ、に見えたけど、多分アレもそれ以上にあるだろうな。その先が見えなかったし。属性も、称号も、若干見づらかった。」
となると、倍近い数がまだ残っていると仮定しても良いだろう。
いざとなれば、『並行』から『鑑定』にポイントを持ってくるか。
「アスタが強くなっても、Sクラスの皆が見本になってくれたら、きっと暴走せずにいられるだろうし、俺は俺で、できる事をやるだけか。」
そう思いながら、眠りにつく......
―――――!!