107
実家の扉をノックする。
前までは、そんな事をする事もなかったのだが、流石に急な帰省なのだから、ちゃんと確認を取るべきだ。
「はーい。どちら様......ノア!?どうしてここに?もう学校って休みなの?でもイキシアの時は何年も帰って来なかったし。」
「ただいま。イキシア姉さんは忙しくて帰って来られなかっただけだよ。それと、報告。」
深呼吸を二、三回。
流石に、親に退学を報告するのはどうなのだろう。
もしかしたら、既に連絡が来ているか?
今のうちに、作戦変更で別の言い訳を考えた方がいいんじゃないか?
「退学になったので、帰ってきました。」
「―――」
「なので、とりあえず帰省をして、旅に出るつもりです。」
「―――」
あれ?反応が無い?
言い切ったのをちゃんと確認して、母の顔を見る。
「あれ?白目剥いてる。」
なんと、ショックのあまり気絶してました。
「いや、今のは母さんには厳しいと思うぞ?ただの冗談か?」
「本当なんだけど。え、そんなにショック?」
いや、ショックか。
普通、半年前くらいに入学した息子が、こんなポンと退学を報告するなんて思わないだろ。
「ちょっと闘技大会でやらかして、退学くらいました。」
「どんなやらかしだよ。あれか?ノアが強過ぎて、貴族とかに圧力をかけられたのか?」
「大体そんな感じ。」
「マジかよ!」
学園長が貴族かは知らないが、権力によって退学にされたのは事実だし、闘技大会でやり過ぎたのは事実。
ただ、それについてはハクも同様で、高等部を倒しているのだから、同じ様なモノだろう。
むしろ、周りからの評価的には、『生徒会長に善戦した一年』よりも『生徒会役員を倒した一年』の方が印象強いと思うし、無問題。
「ということで、自分探しの旅兼、復学までの期間の修行に出る事にしたから、挨拶に来た。」
「―――ッは!!ノアが退学になった夢を見たわ。」
「バリバリに現実だよ、母さん。」
どうやら現実逃避ぎみに気絶から目を覚ました母だが、二度目の報告には耐えた。
そこから、かくかくしかじかと事情を説明し、ハクはまだ学園に残っていることと、友達ができたことを報告した。
「まあ!ノアにハクちゃん以外の友達が出来たのね!嬉しいわ!」
「お?女子か?ガールなフレンドできちゃったか?」
「いや、そんな事無いよ。」
思い浮かぶのは、レオナの顔や、マリナ教師の顔。
まあ、どうなのだろう。
「友達百人はできなかったけど、仲の良いクラスメイトが30人くらいできたよ。」
「我が息子ながら、社交性とフットワークのレベルが高い。」
「女友達は大切にね。男友達はそれなりにぞんざいに扱っても大丈夫よ。」
息子にどんな知恵を授けてるんですかね。この母は。
「そうだぞー、俺は母さんを大切にし、母さんは俺を結構雑に扱う。それくらいでちょうど良いんだ、男女関係なんて物は。」
随分偏向な男女関係だが、まあ、それくらいがちょうどいいと親が言うのなら、子の俺にも、それくらいがちょうどいいのだろう。
が、100%受け入れる訳じゃないぞ。
「とりあえず、そんな感じで、俺は―――」
「おにいちゃん?」
愛らしい天使の声と共に、俺に背筋には大量の電気が流れる。
これは最早、災害なのではないだろうか。
「あ、アスタ~。久しぶりぃ、お兄ちゃんだよぉ~。」
ご覧の有り様である。
単刀直入に言うと、俺、ノア・オドトンはシスコンである。
もちろん、性的な目で見る事等絶対に無いが、将来的に、イキシアかアスタ、どちらかが結婚相手を連れて来たら、とりあえず拳で語り合って、不合格なら殴り殺すつもりなくらいのシスコンだ。
ちなみに、合格ラインは
『嫁(アスタorイキシア)にちゃんと気を配れて、ステータス的にも戦闘的にも俺より強く、家族へのサービスを重視し、仕事と私どっちが大切という質問に、即答で君と答えられて、かつ散財しない性格と、立派な職に就いている事を前提に、そこから20個の質問による採点で、一問5点の100点満点中85点未満は不合格。』
という簡単なものだ。
「おにいちゃんひさしぶり。アスタいーこにしてたよ。」
「おお!良い子にしてたか!アスタ良い子だから、お兄ちゃんプレゼントあげちゃうぞ!」
「あっ、あんまりアスタを甘やかしちゃ駄目よ。今日はオネショしちゃったじゃない。」
「母さん、オネショは時期でしか治らないので、それは悪い事ではありません。ちゃんとそれを後処理したのなら、アスタは良い子です。」
ついつい早口になってしまうが、天使を擁護するのにはコレくらい必要だ。
「さ、新しいお洋服に、綺麗なお人形だよ。」
「わあ、ありがとう。おにいちゃんだいすき!」
「俺もぉぉ!!」
涙で前が見えないが、人形と服を汚さない様に手渡す。
そういえば、先程からキクスが喋らないな?
「あ、そういえば、この人はキクス、ちょっとした事情で俺が作ったホムンクルス。」
「あ、そうなの。何の説明も無いから戸惑っちゃって、今お茶を出すわね。」
「ホムンクルスって、あの、魔法使いとかが使役してるってやつか?」
普通はホムンクルスって言ったら錬金術師なんだけど、この世界だと魔法使いなんだよなぁ。
そんな事を思いながら、キクスに目配せするが。
「今は寝てるから、ちょっとベッド借りるね。」
「あら、眠ってるのね。ええ、いくらでもどうぞ。」
と、許可が下りたので、ベッドに寝かせ、アスタとのお話に戻る。
「アスタは何か、お兄ちゃんに話したいこととかあるかな?」
「うー。アスタのぞくせー!わかったよー!」
「おー!どんな属性だったんだ?」
アスタもステータスを見れる様になったのか。
しかし、難しい字は読めるのだろうか?心配だ。
「えっとねー、ぜんぶおぼえてないけど、いっぱいあったよー。」
「ほー。アスタはすごいなぁ。」
いっぱい、ということは、さては基本属性が全て揃ってるのか?
アスタならあり得るな。
恐らくは、そこに幾つか固有属性が混ざるのもあり得る。
「それって、火とか水とかかな?」
「んーん?無いよ?」
「えっ?」
「なんか、ちゆとか、こおりとかってある。」
へぁ!?
「ちょ、ちょっと失礼。」
『鑑定』でステータスを覗き見る。
◇ ◆ ◇
アスタ・オドトン 五歳
HP:10/10
筋力:5
魔力:2105
敏捷:2
忍耐:1
知力:4
幸運:500
適性魔法属性:【固有】『増殖』『無限』『成長』『進化』『魔力』『混沌』
【氷結】【治癒】【錬金】【病気】【影】【神】
加護:【魔神の加護】【魔導神の加護】【魔術神の加護】
称号:【幼児】【魔導の寵児】【天才】【神童】
◇ ◆ ◇
えー、ゲロ吐きそう。
なんて言うか、え、恐怖。
才能怖。
え、俺って三兄弟の魔法担当みたいなポジションじゃなかったの?
えー、整理に時間掛かりそうなんだけど
「おにいちゃんにまほーをおそわりたいんだけど、だめ?」