103
楽しい砂漠での旅を終え、俺達は帝国に戻って来ていた。
理由としては、久々の里帰りと、ギルドに顔を出す為だ。
「おっノアちゃん久しぶり!隣の姉ちゃんは彼女さんかい!」
「違うよおっちゃん。俺の仲間さ!」
「まあノアちゃん!少し見ない間に大きくなったね!」
「半年も会って無かったら大きくなってるって!」
街行く知り合いと挨拶をかわしながら、順調にギルドへの道を歩く。
その道中。
というよりも、ギルドの入口から中を見た時の光景なんだが、
「なんで駄目なんだよ!ギルドに入りたいんだ!オレ強いから、頼むよ!」
俺と同年代くらいの子供が、カウンターに向かって、ギルドへの加入を頼みこんでいた。
見たところ、同年代の平均よりは高いし、属性も三種に固有が一つ。
が、【幼児】を持っている所を見ると10歳以下だし、特に強力な【称号】や【加護】を持っているわけじゃない。
少年の顔に悲壮感が浮かんでいるのなら、手を貸しても良かったが、なんとなく、子供が駄々を捏ねているようにしか見えなかった。
何故だろうか。
うーん。
その意味があるのか分からないマントがあるからだろうか?
それとも、子供がチャンバラで使う様な、玩具の剣を持っているからだろうか。
はたまた、懇願している少年が、めちゃくちゃ痛い決めポーズを取っているからだろうか。
更には、ここが商業ギルドなのを知らずに、冒険者のコスプレをしているからだろうか!!
「あっ、ギルマス呼んでもらえます?」
「ノアちゃん!はいっ、すぐ呼んできますね!」
「なっ!?」
恐らく、自分がどれだけ頼みこんでも靡かなかった受付嬢が、一言で奥に行ってしまった事に驚いているのだろう。
少年は、少しの間ポカンとしていて、俺とカウンターの奥を交互に見る。
「なっ、えっ、ず、ズルい!ズルいぞ!お前!さては貴族だな!」
「どういうことよ......」
笑いを含みながら困惑していると、奥からギルマスが出てくる。
久々に見たその姿は、相も変わらず艶やかで、八歳には刺激が強い。
最近は体も成長し続けているため、身体のいろんな所がむずむずする。
「久しぶりだな!会いたかったぞ!」
「久しぶり。在庫はまだありますか?補充に来ました。」
「まだ二年分は残ってるぞ?それに、学校の方はどうなった?もう休みか?」
ああ、そういえば、ギルマスや両親は俺が退学になったことを知らないのか。
ハクが帰省するのもまだまだ先だろうし、確かに知らなくてもおかしくは無い。
むしろ知っていたら驚くところだ。
「学校は退学になったので。とりあえずその後、少し旅をして、最近一段落着いたから帰省する事にしましたよ。」
「へー、退が――退学!?えっ!?まだ入学して半年くらいだぞ?初等部で退学者なんて出る訳無いのに!」
「それは初耳、ですが確かに退学になりました。コレ証明書。それから病院でバイトしたり、西の砂漠で遊んだりして、楽しんできました。」
「うっ、頭が痛くなってきた。それで、帰省ついでにこちらに寄ったということだな?ま、まあ、嬉しいが、それなら最初にこちらに帰って来て欲しかった。」
ギルマスに手招きされ、奥の部屋に入る。
思えば、数年前までは奥の部屋に入るのを拒む者ばかりだったらしいが、先の受付嬢は何の躊躇も無く入っていったな。
良い変化だ。
「少し約束事があって、そちらを優先しましたが。ポーションですが、希粧水を3年分。癒善草系を5年分、自作布を1年分。翼油が2年分。これがリストです。」
「ああ、預かろう。」
「はい。」
何度か物をやりとりし、話を進めていると、キクスが暇そうに貧乏揺すりをし始めた。
「思ったんだが、そちらの女性は誰だ?」
「こちらホムンクルスのキクス。キマイラです。」
「よろしく。キクスだ。」
「ふむ。ホムンクルスか。なら、まあ、問題無いだろう。」
何かを呟いたのだが、俺の耳には届かなかった。
いや、別に俺が難聴ということではない。モゴモゴと喋るから聞きとれないだけだ。
「ところで、商業ギルドに入らないか?本当は入学前に提案しようと思ったが、色々あってな。今ならわりと簡単に入れると思うぞ。」
「ん?」
「ちなみに、直接の商売になるから、仲介費用が掛からなくて済む。今の収入が1.2倍になると考えたら丁度いいかもしれないな。」
「......そうですか。」
思えば、ただ両親に知られるのを避ける為に、ギルマスに仲介をしてもらっていただけで、今ではこの商売も親の公認なので、特に意味は無い。
何なら、利益が多くなる分、自分で売買したほうが得だとは思う。
「まあ、その内ということで、今の所お金に困ってませんし、楽しめる事に熱中してるので、問題ありません。」
「......そうか。まあ、無理強いはしない。気が向いたら言ってくれ。」
こうして、久々に会った俺達は、他愛無い話に花を咲かせた。