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『それで、整理はついたかな?』
一応、折り合いはついた。
今まで、少しのズレがあった、俺とノアの間が、綺麗に埋まったのを感じる。
『それは良かった。』
もしも、このズレを放置して、更にその隙間が大きくなったら、どうなっていた?
『君は死んでいた。』
そうか。
それで、現在は流れないのか?
『反応薄っ。まあ、あと少しで、ほら、流れるよ。』
流れるのは、今世に入ってからの俺。
は、割と一瞬で終わった。
『ぶっちゃけ、この部分は微妙だね。男はボコッて女は贔屓しているみたいに見えるよ。』
『地味に君って女好きだよね。え、ハーレム作るつもりなの?』
『君のお姉さんヤバくね?』
『パロディは許せるけど、完全な丸パクリは有罪だよね。』
『うわぁ、今時の八歳はこんなクレイジーなの?』
『幼馴染に容赦無いね。』
『まあ、ここまでやれたのが驚きだけど。』
『駄目だよ。素人の民間療法ほど怖い物はないんだから。』
『ひゅー。良いね。こういう恋愛は好物だよ。』
ちょくちょく入るカロルの声がうるさかった。
『だって、過去の時にはムードが大切だからね。本当は静かなのって、柄じゃないんだ。』
だそうだ。
『だけど、ここから少しの真面目だ。』
未来の時間が始まる。
◇◆◇
『君には運命が無い。定まった結末が無い。有り体に言えば、君に限って、次に起きた時、隕石が落ちて来ても不思議ではない。だから、未来は映らない。と思っていた。』
過去形だな。
わかりやすくて結構。であれば、俺に定まった未来はなんだ?
『んん、確定している一つ。それは、君の死に際だね。』
ほう。
『大きな影だ。大きな大きな怪物を前に、君が血を吐き、倒れてしまう。仲間も一緒に死ぬだろう。君の技は通らないし、【無】属性でも効果は無い。君は端役。君の死によって、主人公が覚醒する。一万を越える天使を操り、十本の魔剣を同時に操る主人公に、怪物は善戦するも、やられてしまう。君と言う強キャラを斃した強敵を、更に乗り越える主人公。それが最高に盛り上がる。』
......
『気分を害しちゃったかな?』
そういうわけじゃない。
すこし考え事をしていただけだ。
『ほう、では、どう思ったんだね?』
別に。
色々考えたけど、あまり何も思わなかった。
自分が主役であることに執着は無い。
ハクが相手なら、端役でもまあ構わない。
悔しいか?うーん。そうでもない。
全力を出して負けたなら、きっと俺はその程度なんだろう。
正直、主人公みたいに逆境にで覚醒するとは思えない。
俺には、そういう系統の才能は無い。
これからドンドン強くなって、ステータスが万に届いて、沢山の【称号】で倍率強化され、加護を沢山集めて色んな力を手に入れて。
それでも敵わない相手に負けるのなら、それが運命ってやつだろう。
『君は納得してるのかい?』
は?してないけど?
するわけないじゃん。
才能に負ける程度の努力なんて、そんなのただの無駄骨だ。
俺はそんな非効率はしない。
負ける未来があるのなら、それに備えるくらいはする。
世の中、絶対に不可能なんてありえないんだから。
『その備えすら、無意味だとしても?織り込み済みの未来だとしても?』
構わない。
ほら、過去現在未来の試練は終わった。
で?まだあるのか?
『もう無いよ。本当なら、絶対に勝てない系のモンスターを出して闘わせようとおもってたんだけど、その必要も無いみたいだ。』
お?やってみてくれても良いんだぞ?
『必要が無いって言ったろ?そういうことをするのは、非効率なんじゃない?』
......言いやがったな。
『ま、そんな所だから、君の試練は終わりだよ。次が控えてるだろうしね。』
次?
『もう一人の彼女にも受けて貰いたいんだ。』
喜ぶだろうけど、理由は?
『それこそ親和性かな。彼女はホムンクルスだけど、8割以上がこの砂漠の魔物で構成されている。であれば、彼女の方が親和性は抜群なんだよ。』
へー、そんな法則性があったのか。
『ってことで、よろ!!』
陽気な声と共に、身体の感覚が戻ってくる。
◇◆◇
目を覚ますと同時に、言い争いの声が聞こえる。
どうやら、マキとイムが言い合っているらしい。
んん、経過時間は10分程度か。
「キクス、箱に触れろ。」
『あァ!?ノア!何があった!』
『もう駄目じゃ!あやつは邪神のしもべになったのじゃ!』
どうやら、俺が反応しないことについて言い合っていたらしい。
イムは俺が邪神のしもべになったと言っている。
まあ、確かに加護はもらったし、アイツは邪神っぽい感じだったけども。
良いヤツなんじゃないか?
多分。
「そういえば、あの神は時神って名前以外にも、コードネームみたいな名前があったけど、パルエラにはそんなのがあるのか?」
『ええ、【G:49=L-type】。でも、あまり好きじゃないから、パルエラって呼んでね?』
「ああ、知りたかっただけだ。」
適当にやりとりをしながら、マキ達の話を横目に、キクスに概要を話す。
「これに触れれば、すごく強い相手と闘えるぞ。」
「そうか!いくぞ!」
触れたと同時に、身体が止まる。
呼吸もしているし、目も空いているが、反応が無い。
「......うおおおおお!!」
大体10秒ほどで覚醒し、サ○ヤ人のように、全身に凄まじいオーラを纏った。
「これがパワーァアアアアアアア!!!!」
よくよく見れば、それは噴出している魔力で、足元から地面を反射して上へと流れる魔力が、オーラの様になっていた。
俺は10分かかったのに、こいつは10秒。
つまり、俺があの空間にいた時間の、約60分の1で済んだということ。
どんな敵を相手したかは分からないが、相当な高速戦闘で終わらせたのだろう。
『いいえ、むしろ逆ね。恐らく年単位で閉じ込められていたのだと思うわ。カロルの試練における戦闘は、確定で長期に渡る。だからこそ、彼は空間内と世界の時間を隔絶するのよ。』
つまり、それだけ過酷な試練だったってことか。
理解した。
盛大に労わってやろう。