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彼女を作るための10の方法  作者: ちゃんこ鍋之進
9/11

マドンナ(死語w)登場

 気が付くと朝になっていた。

「そうか、昨日はあのまま眠ってしまったのか。」

衝撃的な事実に俺の頭と心が耐えられなかったらしい、目眩と頭痛を感じて、そのまま眠りについてしまった。


「あっ、そういえば」

俺は不意にあることを思い出し、部屋の中を見渡した。

どれだけ探しても望美さんの姿は見当たらない。

昨晩のことは夢だったのだろうか、いやあの強烈にリアルな存在感は夢ではなかった。

そう思いながら右手の方に目を落とすとやっぱりあった。

あの本だ。

望美さんは今は本の中に居るということなのだろう。


俺は昨日あったことを思い出す、本の中から美女が現れるという非現実的過ぎることや、俺が恋人を作るという無理難題にまた目眩がしてきた。

そんなことを考えながら枕元にある目覚まし時計に目をやった。

時計の針は8時20分を指していた。


 「いかん、もう会社に行く時間だ。」

 出勤時間が迫っていた、このままでは遅刻してしまう。

俺は顔も洗わず、髪のセットもそこそこに、急いで支度を終わらせて部屋を出た。

 Yシャツやネクタイも昨晩、着の身着のまま寝てしまいそのままの格好だった。


 「これは減点ですね。」

バタンと閉じたドアの内側ではそんな声がしていたのだが、俺の耳には届いていなかった。



精一杯急いで会社の前までたどり着き時間を確認すると、8時57分始業時間の3分前だ。

「なんとか間に合ったな。」

肩で息をしながら胸を撫で下ろした。


会社の入り口の扉を開けようとした瞬間、奥のエレベーターの前に居る人物の後ろ姿が

 俺の目に飛び込んできた。


「高嶺さん……」

無意識の内にその女性の名前を呟いていた。

高嶺 華(たかね はな)さん

  彼女は俺と同じ部署の社員で俺とは先輩後輩の関係である。

  そう‼ 先輩と後輩なのだ‼

それ以上でも以下でもない。

 

 高嶺 華さん

年齢23才身長158センチメートル体重43キログラム容姿端麗頭脳明晰性格は穏やかで人当たりも良く気遣い完璧品行方正家柄も良く業務成績優秀周囲の信頼も厚くまさに才色兼備な大和撫子!!!!

 ゆるくウェーブの掛かった黒髪、少しタレ目のキレイでパッチリとした二重瞼、その瞳により強調されるあどけない笑顔がとても印象的だ。


俺は密かに高嶺さんに憧れを抱いている。

 あくまで憧れであって好意ではない、好意なんてものを俺が彼女に抱くのは失礼にあたる。

それほどまでに高嶺さんは美しく尊いのだ。


そんな高嶺さんがすぐ目の前に居るのだ、自然と脈拍数か上がり走って息が切れていることもあり、呼吸が乱れ、息苦しくなってくる。


向こうもこちらに気付いたらしくこちらに視線を向けてきた、否、向けてくだされた。

全身に緊張が走り、足が止まってしまった。


高嶺さんと俺との距離は15mくらいある、ここで立ち止まって居ては遅刻してしまうし、他の社員にも迷惑だ。

俺は意を決して高嶺さんの方、いやエレベーターに向かって歩きだした。


 「あっ、池内さんお早うございます」

 高嶺さんが満面の笑みで俺に挨拶をしてくれた。

 


「あ、はい」

 俺は応えた。


  やがてエレベーターが到着し、俺と高嶺さんの二人だけで乗り合わせることになった。


 「……」

 「……」

 気不味い、何か、何か話題はないものだろうか会話を、会話をしなければこの二人っきりの空間に耐えられない。

 でも何を話せば良いか思い付かない。

 高嶺さんに見つめられただけで緊張で息が上がりまともに発声できそうもない、加えて会社まで走ってきたから今になって汗が滝のように吹き出してきた。


恥ずかしすぎる、そもそも俺と高嶺さんは普段から業務以外のことを雑談するような関係ではなかった。

高嶺さんとの二人っきりの時間、それはとても光栄で嬉しい。

だがたまたま俺と高嶺さんの二人がここに居るだけであって、二人で時間を供にしているのとは違う。

全身が固まってしまった俺はエレベーターが目的の階に着くまでの数十秒が何時間にも感じられた。

 

美女と汗だくのお地蔵さんを乗せたエレベーターは高嶺さんの目的の階に到着した。

ようやくこの天国でもあり、地獄でもある時間から解放される。


「私はこの階なので、お疲れ様です。」

さっきと変わらない笑顔で高嶺さんは俺に告げた。

「では」

そう一言だけ言葉を発して、高嶺さんが降りたことを確認しながら、俺はエレベーターのボタンを押して扉を閉じた。


「では」

「じゃねえよーーーー俺ぇぇぇぇぇぇーーーー」

 自分の不甲斐なさに心の中で絶叫した。

 心の中でだよ?

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