大前提!! 〈モテるための努力〉
「それでは、今日から池内さんに彼女の作り方を、レクチャーしていきます。
長く、険しい道のりになります、多くの犠牲とたくさんの努力が必要ですが、頑張りましょうね。」
「え? 大変?」
予想していなかった望美さんの言葉に、俺は思わず声を上げた。
「望美さんが魔法か何かで、僕に彼女を作ってくれるんじゃないんですか? こう、パパーっと。
本から出てくるなんて出来るんですからそれくらいできるんじゃ?」
望美さんは依然として微笑んだままである。
微笑んだままであったが、はぁ、と笑顔のまま、小さくため息をついた。
「私にそんな力はありませんよ。
私に出来るのは、彼女を作るための方法を教えることだけす。
そこから先は池内さんの努力次第です。」
「え? 努力? 彼女を作るのに努力が必要なんですか?」
彼女を作るのに努力が必要? そんなこと考えたこともなかった。
「そうですよ。 彼女を作るためには、努力が必要です。
普通、大抵の人は努力をして恋人を作っています。」
望美さんから思ってもみなかった言葉が出てくる。
努力、俺の周囲の彼女が居る奴は努力なんてしていたんだろうか? そうなのだろうか?
「大抵というのは?」
「大抵と言ったのは、中には努力をしなくても簡単に恋人が出来る人もいます。
例えば、容姿に優れているとか、家柄・財産に恵まれているといったような。」
成る程、言われてみれば、それはそうだ聞くまでもないことだった。
「容姿、家柄・財産といった要素があるということはいわゆる才能があったということです。」
「才能? 何の才能ですか?」
「異性にモテる才能です。」
異性にモテる才能…… 聞き慣れない言葉になんだか心がモヤモヤする。
「異性にモテる、それは才能というものなんでしょうか?」
モヤモヤを振り払うために、望美さんに素直に聞いてみることにする。
少し考えた後、望美さんは、人差し指をピンと立てながら話始めた。
「う~ん、スポーツに例えてみましょうか。
大抵のスポーツは身長が高い方が有利になりますよね? 特にバスケットやバレーなら、その傾向はより強くなります。」
「それはそうですね。」
「身長が高いとスポーツに有利。
それって、才能があるってことじゃないですか?」
「そうなりますね。」
俺は頷く、望美さんの話していることに今のところ異論はない。
「では話を戻すします、スポーツを異性にモテること、身長を容姿・財産に置き換えて見てください。」
望美さんの言葉に俺は思考を巡らせる。
次の瞬間、ハッと気付いた。
その俺の様子を観てとった望美さんは、心なしか自慢気な表情で続けた。
「そうです、スポーツにとって、身長は才能。
異性にモテることにとっての才能は容姿や財産になります。
もちろん、どちらもそれが全てではありませんが。」
その言葉は俺にとって衝撃的だった。
初めて知る考え方だ、彼女を作ることに才能が必要だったなんて。
子供の頃には大人になったら恋人が出来て自然と結婚をするものだと漠然と思っていた。
しかし、現実はご覧の通りである。
確かに俺は容姿に自信がない、お金なんかもそんなに持ってはいない。
才能がなかったということか、言われてみれば彼女が居ないのは当然だ。
「じゃ、じゃあ、どっちもない僕には才能がない、彼女なんて出来ないってことなんじゃ?」
これでは悲しい現実を再確認しただけではないか。
「池内さん、才能を越えるために必要なことってありますよね? いくら才能があるスポーツ選手でもそれだけで一流にはなれませんよね? 結果を出すそのために必要なこと、それは?」
「練習?」
「そう、練習、言い換えると努力です。
池内さん、才能がないと自分で仰いましたよね? 才能がない分は努力で補うしかないんです。」
「努力……」
「そう、努力です。 あなたはこれから〈モテるための努力〉をするんです。
これは、これから様々なことを池内さんにお伝えしていきますが全てにおける大前提です。」
〈モテるための努力〉
その言葉は人生で最大の衝撃を俺に与えた。
「でも、モテるために努力をするなんて、なんか情けなくないですか、みっともないというか恥ずかしいです。」
「そう思うのは周囲の目を気にしてのことですか?
情けないことやみっともないことなんて何もないですよ。
先程も言った通り、結果を出すためには努力は不可欠です。
恥ずかしいのはその努力を馬鹿にすることです。
逆に結果さえ出してしまえば、周囲も何も言えませんし、周りの目が気になることもなくなるものです。」
「もう一度言います、池内さんはこれから〈モテるための努力〉をするんです。」
〈モテるための努力〉
その言葉の持つ力に俺は、重力が逆転して、天と地が逆さまになり、フワフワして、地に足が着いていなかのような浮遊感を覚えていた。