望美 叶の存在理由
「霊とは言いましたが、悪霊とか幽霊といった類いではなく、精霊や妖精みたいなものなのでご安心下さい。」
望美さんは微笑みながらそう告げる。
あぁ、そうかそういうあれですか。
30才を越えてDTな人間にのみ、授かることができるという、魔法の力によって、妖精が見えるようになったらしい。
そうだそうに違いない。
「あのぉ、どうかされましたか?」
そんなくだらないことを俯きながら無言で考えていると、望美さんが下から見上げるように顔立ちを寄せてきた。
ち、近い!
くっ、緊張してしまう。
そうなのだ、俺は年齢=いない歴の男達のご多分に漏れず、異性が苦手なのだ。
どうしても、緊張してしまって、会話をするにあたって、上手く言葉が出てこなかったり、噛んだりしてしまう。
酷いときには赤面して話すことすらできなくなってしまう。
いわゆるコミュ障ってやつ。
就職して社会に出るようになってからは仕事等の事務的な会話ならなんとかなるが、日常的な内容の会話やプライベートの話等はさっぱりだ。
だが、それで良いと思って生きてきた。
学生時代の授業の合間のクラスの喧騒、職場での休憩時間に雑談をしている同僚、そんな連中を横目に、ひっそりと生きてきた。
なんなら何が楽しいのかと、馬鹿騒ぎも程々にして欲しいなんて思っていた。
「なんでもありません、ちょっと考え事をしていました。」
慌てて、大袈裟に手を降りながらなんとか応えた。
「そうですよね、いきなり現れて、本の精だとか言われても驚いてしまいますよね。」
望美さんは笑顔に少しの翳りが見えた。
だがそれはすぐに消えて。
さっきまでの微笑みを携えながらこう言った。
「でも、信じてもらえないかもしれませんが、私は池内さんが彼女を作るための、お手伝いをするために、存在しているんです。」
「うん? 今なんて?」
俺は耳を疑った。
「私は、池内さんに彼女が出来るように協力をするために現れました」
その恐ろしい言葉は聞き違いではなかった。
聞き違いではなかった。
「ちょっ、まっ、彼女を作る? 俺が? なんで?」
何故、突然にそんな話になるのか?
何故、望美さんが俺の前に現れてることになるのか?
何故、その話に協力することになるのか?
突拍子も無さすぎて理解が追いつかない。
「だって池内さん、その本を買ったじゃないですか。
私はその本の精ですから♪」
望美さんはまた眩しいくらいの満面の笑みで、そう言った。
当然のことですよと言わんばかりに胸を張りながら……